鳴かぬなら、ジッとガマンの女の子 【7】
二年前、自分がサウロロフスの王女だって聞かされて以来実家では、訊ねて来る人訪ねて来る人、わたしにお目通り適うとみんなこんな風に畏まっちゃって、困っちゃうのよねえ、実際。
その上、わたしが与太者達に襲われたと言う事を聞いた時にはカスモさん、血相を変えて憤り、今にもサウロロフスに攻め込んで行きそうなほどの勢いだった。
「おのれ、パラスクスめ」
パラスクスってのは確か今のサウロロフスの大統領とか言う人でしたな。
「あの小才子めが、偽王女を立ててきただけでも怪しからぬと言うに、事も有ろうに誠の王女様を亡き者にせんと企てるとは__」
うわ、人の良さそうな宿屋の親父が歯を軋らせ、一変して血気盛んな王家の忠臣に早変わりしてしまった。
「それでは王女様」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「は、如何致しましたか、王女様」
「いや、だからね」
わたしはカスモさんに言った。
「あのお、出来ればその、王女様ってのは……」
「おお__」
カスモさんは素早く合点が行ったという顔で、私の意を汲んでくれたようだが、正直わたしの方には今一不安も有った。
「成る程、そうで御座いますな」
何度も頷きながら納得したと言う風にカスモさんは顔を綻ばせていた。
「いやあ、わたくしとした事が何とも迂闊な」
「はあ」
何となく自分の気持ちが伝わってはいないのではないかとは思ったが、これ以上話をややこしくしたくない私は、カスモさんの言うがままに生返事を返した。