鳴かぬなら、ジッとガマンの女の子 【5】
「元近衛隊長のロルニ・トイデスがわたしの父で……」
「トイデス……」
その名を耳にするや、今の今まで温厚で心配事の無さそうなおやじさんの愛想笑いが影を潜め、何やら只事ならぬ表情が浮かび上がった。
「そ、それではあなた様は……」
「いや、あの__」
「お父さん?」
ミアキスが、怪訝そうな顔でカスモおじさんを見詰めた。
「これはこれは__とんだ粗相をば」
カスモさんがいきなり私の目に前に手をついて土下座してしまった。
「ちょ、ちょっと__」
参ったなあ、ホント。
「知らぬ事とは言え、誠に失礼致しました」
「ま、待って下さいよ」
わたしは困惑しておじさんに言った。
「どうしたの、お父さん」
「これ、ミアキス。頭が高い」
何が何やら判らずお父さんを覗き込むように見下ろす娘にカスモさんが手を振りながら言ったものの、これはミアキスに責任は無い。と言うより、当然の反応だよ。第一、わたしが困惑するのはおじさんの対応である。
「このお嬢さん、どこの誰様なの?」
「口を謹まんか、ミアキス」
カスモさんが恐れ入りながら娘を嗜めた。
「畏れ多くもサウロロフス国王、ケラト・ディアトリマ・バリオニクス・マルディール二世陛下の御息女、レジェナ・マルディール王女様に在らせられる、控えぬか」
「ええー?!」
ミアキスが目を丸くしてわたしを見返した。
「それじゃ、この人もレジェナ王女様なの?」
も、ですか。
まあ、この御時世に在っては致し方無いとは存じ上げますが、複雑な気分です。ちょっと参っちゃうよね、ホント。