旅は道連れ、世は情け無エ…… 【2】
あーあ、何でこの私が食うや食わずでフラフラしながら野ッ原歩き回らにゃイカンのだ?
世が世なら一国の王女様として何不自由なく贅沢の限りを尽くして虚飾の日々を謳歌し、家臣の色男どもを思いっきりはべらせてチヤホヤされながら三度の食事は全世界から取り寄せた山海の珍味が連日食い切れないほどのフルコース、食いっぱぐれとは縁の無い安楽な地位と権力に囲まれた境涯を嘆きながら、ああ、私は何故王女などに生まれてしまったのでしょう、皆、如何に上辺だけ取り繕っていても本当の気持ちなど理解してはくれない、とか何とか無責任な世迷言を気楽にほざいてる筈の私が……。
「レジェナ様?」
しかし、現実のわたしは空きっ腹抱えて空っ風の中、おぼつかぬ足取りで水っ洟をすすりながら獣道をうろつき回り、お供といえばこの太平楽な大男、マニ一人だけ。王国再興なんてどうでも良いから今は何か食べさせてよ……。
気遣わしげなマニを無視して歩き続けると森が見えてきた。ラッキー、木の実かなんか見つかるかも知れない。今の私は食べる事以外何も考えられなくなっている。はしたないとは思うのだけれど、こればっかりはしょうがない。グーグーと節操も無く野生の雄叫びを上げ続ける若き胃袋の情熱は人智を超越した大自然の法則、何物にも代え難い命の証なのだ。
森へ行きましょう娘さん、てなモンさ。
「危ないですよ、レジェナ様」
マニの忠告を無視して私は飛ぶような勢いで森に向かって駆け出していた。現金な物で、ついさっきまで死ぬような足取りでフラついていた自分がまるで夢のようである。木々の間を潜り抜けるように森に入ると、枝や地面に向けてあらん限りに見開いた瞳で伸び上がったり身を屈めたりしながら必死の視線を向けているわたしは、傍から見ればさぞやいじましく物欲しげであるに違いないが、今はそんな事に構っていられない。誰も見てないんだし。
「……何か無いかな、何か。木の実でもキノコでも良いから……」
「レジェナ様」
私に遅れる事数分、ジャランと東洋系のワンド(錫杖って名前だそうな)を突きながらマニが木々の間道を悠然たる足取りで現われた。
「何か見つかりましたか?」
「何言ってんの、あんたも探すのよ。食えるモンだったら何でもいいから……」
マニの方を振り返りもせず、恰も一瞬の隙も見逃すまいと神経を張り詰めた野獣のように、私は辺りに気を配っていた。しかし、そう簡単には食べられるようなシロモノは姿を現しそうに無い。どうなってんのよ、この森は。営林署、出て来い!
さあ、食べ物ちゃん、怖がらなくていいから出ておいで。おねいちゃん、ちっとも怖くないのよ。別にとって食う訳じゃ……あはははは……空腹の為堪え性が無くなっているのかイライラして来た。前途は多難、試練と苦難はヒロインのお約束って訳ですか……。