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〜鈴木 哀〜
「いらっしゃい花っち」
急な訪問に驚きつつも花っちを自宅に招きつつどうしたのか聞いてみる。
「それにしてもどうしたの急に? 何か忘れ物でもあったかな?」
その問いに花っちは無言で頭を振る。
怒っているような、そして泣き出しそうな難しい顔をしている。
訝しげに思いながらもひとまず花っちには椅子に座ってもらいその間にささっとインスタンスコーヒーを二人分用意し対面に座ると
「ごめんね」
部屋に入ってきて漸くこぼした彼女の言葉に首をかしげる。
「ほんとにどうしたの花っち? あ、母との電話のことかな。あれは私が間違えたんだから花っちが謝る必要なんてないよ」
いつもより早口になっていることに気づきながらもペラペラと口先が走るのを感じる。
今自分が全く関係ないことを話しているのを頭ではわかっているが、止まらない。
そうこうしている私にふと花っちは無言のまま机の上にあるものを静かに置く。
差し出されたものを見た瞬間息が止まる。
視線は佐藤さんをしっかりと見据えたままゆっくりと右手をポケットに入れて差し出されたものと同じ携帯電話に視線を落とす。
「……」
そこに表示されているのは「花っち」という名前と、かれこれ一時間以上その人物と接続されているという事実のみ。
震える親指で通話終了ボタンを押すと当然のように机の上の携帯電話の通話画面も消えた。
通話終了からいったいどのくらい無言の時間が続いただろうか。
視線はお互い下を向いたまま何を話せばいいのかわからず交わることはなかった。
手元にはすっかり冷めてしまったインスタントコーヒーが入ったカップ。それをゆっくり回しながら中身もゆるりと回転するのを眺めていた。
このままでは埒があかないのはわかっている。
わかっているからこそ言葉が出ない。あんな醜態をさらしたのだ。いったいどんな風に切り出すのが正解なのだろうか。
「実はドッキリでした」と言えば目の前の親友と呼べる人物は空気をよんでそれに合わせてくれるだろう。
いや、それは駄目だ!
あれだけ彼女に暴言を吐いたのだからそれを有耶無耶にしていいはずがない。
もし今ここで話さなければ今後彼女を親友と呼ぶことが出来なくなってしまう。
「あっ、あのね……」
顔をあげて視線を交わすもごくりと唾を飲み込んでしまう。
本当に彼女は許してくれるのだろうか。実は先ほどの「ごめんね」はもう友達やめるねの「ごめんね」だったのではないだろうか。言葉の上では許してくれてもこれからずっと私を心の中で憎んでいくのではないだろうか。
考えれば考えるだけ悪い方向へと沈んでいくのがわかる。
気が付けば膝の上でぎゅっと握りしめたこぶしに涙が落ちた。
~佐藤 花子~
私にはこっちの世界に来てから多くの友人ができた。
元の世界の友人と呼んでいた彼女たちと比べるのも申し訳がないくらいいい人達だ。
ううん、元の世界に友人と呼べる存在はいない……いなくなったんだった。
そんな新しい世界での学生生活を今日も満喫した私は軽い足取りで家路につく。
もうすぐマンションに到着するかという時、ふと哀ちゃんと話がしたくなり携帯電話を操作する。
彼女はこの世界で一番の親友と呼べる存在だ。
まさか私がまた同性の友達ができるとは思っていなかったのに、いつの間にかするっと私のスペースに入ってきて気が付けば今の関係を築けていた。
これもこっちの世界にこれたあいつのお陰かな?
「いやいやいや、何言っちゃってるの私。ないないないそんなのないから」
人目も憚らず携帯を持ったままの右手をぶんぶんと顔の前で左右に振る。
思いのほか声が大きかったのか周囲の視線を浴びつつエントランスへ入りエレベーターを待つ。
「そんなこと……ないのかな?」
なぜか最後が疑問系で終わったことが自分でも可笑しかったのか「はっ」と鼻で笑ってしまう。
そうこうしているうちに自分の部屋へと戻ると哀ちゃんへ電話をかけるのを忘れていたのに気が付いた。
画面は先ほど操作した時の彼女の電話帳のページのままだ。
指先で通話ボタンをそっとなぞると
「もしもしお母さま! 先ほどのお話はどういう意味でしょうか!」
今まで聞いたこともない声色で話す彼女の声が私の耳を刺激する。
「……もしもし哀ちゃん? 佐藤だけど今大丈夫?」
驚きながらも絞り出した私の返事を彼女は笑いながら受け流す。
電話なのでもちろん相手の表情なんてわからない。けど、絶対笑ってないのは私にだってわかるくらい彼女の声は震えていた。
電話相手を母親と間違えたのだろう。
そして聞いたことのない剣幕……自称親友の私が立ち入っていい雰囲気ではないのは火を見るより明らかだ。
そのままたわいもない話をして会話は終わり、耳から携帯電話を離し終了ボタンを押そうとした瞬間
「……い」
ふと何かが聞こえた。
まだ通話が終わっていなく、彼女がなにか話しかけてきたと思った私はもう一度耳に携帯電話をあてる。
今思うとあの時直ぐに通話を終わらしておけば。
そもそも電話をかけなければ。
なにか聞こえたとき直ぐに返事をしていれば。
たらればを語っても何も変わらないのはわかっている。
それでも親友の心の叫びに耳を澄ませた私は気が付けば彼女の家へと走り出す。
そうして今、私の目の前で両の目から溢れる出てくる雫を拭うことせず
「ごめんなさい。ごめんなさい。私が泣いていい筈ないのに。佐藤さんにひどいこと言ったの私なのに」
と、ひたすらに謝ってくる彼女をそっと後ろから抱きしめた。




