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〜細田 瞳〜
「はぁ」
仕事中だというのについため息が出てしまった。
今は太郎さんが最近仲良くなった京華院さんと、その婚約者の四十九院さんの三人で会食中です。
流石に前回のような襲撃事件が起きる可能性は低いとは言え気が抜けて……いえ、気が抜けているのではなく単純に仲間外れのようなこの立ち位置に対してでしょうか。
太郎さんからは"終わったら連絡します"と言われているのでこちらからは動けませんし。
体感では既に二時間程経過しているのでそろそろ終了の連絡がきてもいい頃合いなのですが……余程話が盛り上がっていて私の存在を忘れてる? まさかと頭を振って否定するも嫌な考えといのはなかなか消えてくれません。
でもこれは、認めないといけませんね。
今私の中を巡っている感情は"嫉妬"であると。自分では自分の感情の色はわからないのが救いです。恐らく見るに耐えない程醜い色をしているはず……
正直、現状太郎さんの一番であると思っていました。好意は持たれていないのは知っていますが、嫌われてもいないのも確認済み。
しかしそれは佐藤さんや鈴木さんと同じ……違うのはただプライベートの時間を一緒に過ごしているということだけ。他の女性がこの話を聞けば私の立場を羨む人で溢れかえるでしょう。
ですが、好きな人と一緒の時間、空間を共にしているのに自分を女として見てもらえないのは多少なりともキツイものがあります。
「っ、これは!」
そんな悪循環な思考から瞬時に仕事モードへと切り替わる。
私が人の感情の色を視ると言うのには条件がある。
それは直接相手を視ることだ。
しかし今この場所には私しか居なく色が視えるのはおかしいのだ! しかもこの感覚は以前感じたことがる。
考えるより身体が反応して私は隣の部屋へと飛び込んだ。
「たっ」
太郎さんと叫ぼうとするも部屋に入った瞬間、体を文字通り刺す痛みに襲われて言葉を飲んでしまう。
以前、太郎さんの自室でも同じ事が起こりましたが今回はその比じゃありません!
「太郎さん! 返事をして下さい。何処におられますか?」
真っ暗闇の部屋の中を両手で周囲を探りながら慎重に歩くが正直怖い。今までこんな暗闇を視たことがあっただろうか? いや、そんな事より今は太郎さんを探すのが先決です。
「どうしたんですか細田さん、そんなに慌てて? 僕はここにいますよ」
いつもと変わらない少しふざけた口調で私を呼ぶ声が聞こえましたが、そちらを視てもあるのは深い深い黒色。聞こえてきた声で大体の場所をつかめたので感情の痛みに耐えながらもゆっくり歩を進めると、彷徨っていた私の手を太郎さんが掴んだ感触が。
「っ」
その瞬間心臓を掴まれたような感覚に襲われ、ついその手を払いのけ、自分の体を両手で抱くように崩れ落ち床にペタリと座ってしまった。
「ちがっ、太郎さんこれは」
やってしまった……
部屋を満たす色に変化は視えないが、正直この状況で今の対応は最悪です。それに今視えたものは……
「た、太郎。今のはどう言うことだ?」
今の今まで存在すら気にしていなかった人物が発した言葉に気にも止めず
「太郎さん。今日は帰りましょう」
太郎さんに腕を引張ってもらい立ち上がると、多少力ずくだけど力任せに太郎さんを出口へと連れて行く。
「影継、四十九院さん、今日は楽しかった。また学校でな」
そう言って今日の晩餐会は幕を閉じました。
帰りの車内の空気は冷え切ったままお互い一言も口にしないまま帰宅。
「細田さん、先にお風呂どうぞ」
そう言って私の答えを聞く前に自分の部屋へと戻って行く太郎さんの色に変化は無い。私はそれに一先ず安堵し浴室へと入る。
いつもなら冗談の一つでも言いながらも決して手を出してこないあの太郎さんが……正直太郎さんが何を考えているのかわからない時の方が多いのです。
「それに一瞬だけ視えたあの人達は?」
太郎さんに手を掴まれた瞬間痛みと共にイメージが流れ混んできたのです。本当に一瞬でしたのでハッキリと顔までは覚えていませんが……いえ、顔はなかったと言ったほうがいいのでしょうか。
口元を嫌な形にした笑みだけで他はクレヨンで雑に塗りつぶされたような少年少女達。
「もしかしなくても彼等が今の太郎さんの色の原因……なのでしょうね」
視えたからと言ってどうすることも出来ない。
彼等はここではない場所で暮らしているのだから。
そう自分に言い聞かせるも納得は出来ません。それに太郎さんにこの事を報告するべきなのでしょうか?
「やめておきましょう。言ったところでどうすることも出来ないのですから」
そうと決まればいつも通りに振る舞いましょう!
私が変によそよそしくすれば太郎さんの負担になってしまいます。もし話してくれるなら年上の余裕を持って聞いてあげましょう。そう、それがいいです。
「お先にお風呂ありがとうございました」
太郎さんの部屋をノックしながら声をかけると直ぐに返事が返ってきて一安心。
そうしてお風呂から出てきた太郎さんが
「細田さんは何も聞いてこないんですね」
「聞いて欲しいのですか?」
正直凄く聞きたい! 聞き漏らしが無いように録音したい。でも今はそんな雰囲気ではないのは百も承知。年上の余裕を見せなくては。
「いえ、正直誰にも話すつもりはなかったんですよね。向こうでは誰にも言っていませんでしたし。ただ、あいつ影継と友達になって気が緩んだのかもしれません」
えっ? と言うことはあの場にいた二人は太郎さんの過去を聞いたんですか? なんだか悔しいような嬉しいような……正直悔しいです。
私にも話して欲しいですが、自分の過去を話せる相手を見つけれた事を喜びたい気持ちもあります。
「話す事で太郎さんの気持ちが軽くなったのであればそれは喜ばしい事です。勿論私で良ければいつでの聞きますので太郎さんが言いたくなった時にでもまた」
いやいや、口からでまかせとは正にこの事。
今すぐ聞きたい癖になに大人の余裕かましているの私の口は!
「ありがとうございます。細田さんのような女性が近くに居てくれて本当に感謝しかありません」
"おやすみなさい"と言い残し自分の部屋へと戻っていく太郎さん。
このやり取りが正解だったかなんて誰にもわかりません。
けどいつか太郎さんの口から話してくれるのを待っています。
さて、私も寝ましょうか。明日からまた忙しい日が来ますからね。
作者の小話
「あの新しく来た子と付き合ってるってホント?」
これは隣人の言。呆れつつもどうしてその答えに行き着いたのか聞いてみると
「今日、職場からあんた達が仲良く歩いているのが見えたから。私と歩いててもあんな顔しないし」
とかなんとかこんな感じの答えだった気がします。確かにあなたと歩いてても楽しくないですからねとは言えないので
「町を案内してただけですよ。あとこの町特有のルールとか」
そうなのだ。この町には他には無い特有のルールがある。あの会社の人と絡むのであればあっちの会社の人とは絡んではいけないというルールが。
「めんどくさいですね!」
そう言う後輩に激しく同意。まあこの後輩も色々面倒事を持ち込むタイプだと気づくのに時間はかからなかった。




