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「ほぉ、これがコディーが言ってた【リバーシ】というものか」
「単純なルールではありますが奥深きゲームにございます。作成を依頼した鬼人王のレジンが既にいくつか作って布教を始めたようです」
「何!? 余より早くに手を付けているというのか!? ぬぬぬぬ、レジンのやつめ……許――」
「既に別のゲームの作成に入っております」
「――す!」
よかったなレジン。首の皮一枚繋がったぞ。
「さぁ! さぁさぁさぁ! コディー! 早速やるのじゃ!」
リバーシのボードを魔力で浮かべたリザリー。
「うぉっ?」
そして俺の身体をも持ち上げ、眼前へ移動させたのだ。
「きつくないかのう?」
「ふむ? いえ、座り心地のいい椅子ですな」
魔力で椅子の形状を作り、座らせたのか。
俺を拘束したと思ったが、そうじゃない。意外に考えられてる。
というか、それ以上に魔王の魔力操作技術って本当に凄いんだな。
もしかしたら初めて体験したかもしれない。
「ほぉ、円形のこれを使うのか?」
「はい、両面の白い面、黒い面を使ってボード上の占有率を競うゲームです」
「うむ! ではやろう!」
ルール説明の後、リザリーはすぐにそれを理解した。
黒ではなく白を選ぶあたり、本当に魔王なのか疑ってしまう程だ。
ルールを理解したリザリーは得意気に、俺へ真剣勝負を挑んだ。
「――これで……逆転かな?」
「あ!? そこはなし! そこはなしなのじゃ!」
「いいえ陛下。陛下は既に【待った】を十回行使されております。これ以上は待ちません」
「なぁああああああ!? 余の!? 余の純白がコディーの漆黒に侵されてゆくのじゃああああああ!?」
音だけ聞いてたら凄い言われようだ。
そんな絶叫するリザリーの声がまずかったのか、すぐに彼女の援軍が現れた。
「陛下!? 一体何がっ!?」
魔王の間に強い意思を持って登場したのは、リザリーの姉ミザリー。
俺はそれを見ながらクルクルと白面のコマを黒面にひっくり返していく。
「やめるのじゃコディー! らめ! らめなのじゃぁああああああ!」
頭を抱え絶叫するリザリーは既に目に涙をためている。
「はい、陛下の番ですよ」
「閣下! これは一体どういう事ですか!? 何故リザリーがこんなに泣いて――!?」
「姉上ぇええ! コディーが! コディーがいじめるのじゃ!!」
十回待ってやったはずだが?
「閣下! 私との約束を忘れたのですか! リザリーを悲しませるなど言語道断ですっ!」
きっとミザリーはあの忠誠の時の事を言ってるんだろう。
「ミザリー、これはゲームだぞ?」
「リザリーを弄んだのですか!?」
そうきたか。
「いや、これを見ろ」
「何ですか! 話を逸らす気で――――あら?」
ようやくリバーシのボードを見てくれたな。
ミザリーもそれに興味が移ったようで、何故妹が泣いたのかも理解してくれたようだ。
「ふっ、リザリーの仇! 私が果たしてみせましょう!」
妹を勝手に殺すなよ。
「はぁ……それで、白と黒どっちがいいの?」
「白です!」
お前もか。
そして俺は泣きじゃくるリザリーを横目に、ミザリーに先程と同じような説明を続けた。
そして、ルールを理解したミザリーは得意気に、俺へ真剣勝負を挑んだ。
「おっ、四隅頂き~♪」
「あ! あっ! 閣下! それ待ったです!」
「既にミザリーの【待った】使用回数は零だ。大人しく諦めろ」
「あぁ! あぁっ! わ、私の純潔が、閣下に染め上げられていくっ! そんな! あぁっ!」
なんて卑猥な表現だろう。
つーか二人とも弱すぎるぞ? いや、まぁ戦略なんて数や個人技で押し切るような世界だ。知略という面では現代の地球と比べちゃいけないだろう。だが、それにしても弱い。
「姉上ぇ!」
「リザリーっ!」
抱き合って泣きじゃくる姉妹を呆れ眼で見つつ、俺は深い溜め息を漏らしたのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
まったく、どうしてこうなった?
魔王のストレス発散のためのゲームを作ったというのに、魔王は俺に対して説教祭りじゃないか。まぁ、何とも晴れやかな表情で怒ってたけどな。
そんな俺へのお説教内容には具体的な罰があった。
「余と姉上を満足させる献上品をもて!」とか言ってたが、要するに「ご機嫌取りがしたくば何かよこせ」って事だろう? 何だソレ? くそぉ、仕事が増えてしまった。
しかし機嫌取りか……もう一つのゲーム情報は二人に与えちゃったし、それ以外じゃないと怒りそうだなぁ。何かないか……何か。あのわがまま姉妹のわがままを終いにするような妙案はないものか。
第二の楽園こと魔界の大森林で、ゴロゴロしながらそんな事を考えていたら、俺の鼻腔を何とも良い匂いがくすぐった。
「何だこの匂い……?」
どこかで嗅いだ事のある匂い。
そんな匂いに釣られ、俺の鼻は右へ左へ。徐々にその匂いに近付き、掻き分けた草木の先にあったもの。
「こ、これは……っ!」
大森林のはずれ、俺の眼前に見えたもの。
それは、この世……いや、どの世でも通ずる黄金の群生地だったのだ。




