056
お久しぶりです。
更新再開です。
ダニエルから聞いた新たな情報。
それは、ジジが人間側の救出隊としてこの楽園にやってくる可能性が高いという事。
救出隊とは即ち、ライオス国の王太子であるディーナをここから連れ去ろうとする部隊の事だ。
ダニエルやアッシュは既に招集のため、ココの町の北にある首都ライオスに向かった。
その間、ここの見張りは別の人間が受け持つという。
しかし、その人間の情報を俺はおろかダニエルでさえ知らないというから、ライオス本国もかなり慎重になっている事がわかる。
『捕まえたぞ』
ココの町を見据えながら立っていた俺は、背後から聞こえたゴリさんの声を聞き振り返る。ゴリさんの両腕には、二人の人間が抱えられていた。
一人は若い女、一人は熟練そうな男。
「流石ゴリさん、仕事が早いね~」
笑顔を撒き散らしながら言うと、ゴリさんはすんと鼻息を吐く。
『二人とも手練れだ。一人一人がニッサ程度の実力を持っている。私もコディーの指示がなければここまですぐに対処出来なかっただろう』
という事は、冒険者ランクAに相当する相手だという事。
シロネコを使った簡単な囮作戦だったのだが、こうも簡単にハマってしまうのは、相手が俺たちを獣と侮ってくれているからだ。
聖獣という俺とシロネコをちらつかせ、背後から気配を消した霊獣ゴリさんが近付き見張りを倒す。相手の最優先監視対象はディーナではあるが、俺たちの目をかいくぐる必要はある。
ゴリさんは比較的監視が緩い。何故ならこの森には神獣が一匹、聖獣が二匹いるのだから。
俺が森の北側で目立つように立っていれば、一人は俺を監視するはず。
当然、俺はその視線に気付いていた。
そしてその監視者の近くで、別の監視者がシロネコを見張る。何故ならディーナはニッサの小屋にいるのだから。小屋に一緒に住み、ディーナの警護をするシロネコ以外、監視者は情報を得る事は出来ないからだ。
『それじゃあ、その二人はお説教部屋に連れてってくれ』
『わかった』
しばらく会話は全て獣での言語に絞っている。
当然、相手に情報を漏らさないためだ。
ニッサも日常会話くらいなら問題なく話せるため、楽園から外部にこちらの情報が漏洩する事はないだろう。
因みに、ゴリさんに言った「お説教部屋」というのは、俺の家の事だ。
そこでは口五月蠅く、喧しい神獣という名の八咫烏が、こんこんとディーナの状況を伝える事だろう。
『さて、これで監視の目はなくなったな』
俺は次の仕事に着手すべく、森の東側に向かった。
◇◆◇ ◆◇◆
東側とはつまり、森の中にある川を隔てた対岸の事だ。
そこでは数多くのゴリラたちが待っていた。
『お疲れ様ー』
『コディー、お疲れ』
ゴリラの一匹にゴホホとそう言われ、俺は手を挙げて皆に軽い挨拶をする。
『誰か通った?』
『猪一匹、森を出てった。「家族連れて来る」言ってた』
『そか。一週間は通行止めになるって伝えた?』
『伝えた』
『よし、それならここも塞いじゃうか』
『手伝うか?』
『んや、北側で見張りを頼みたい』
『任せろ!』
ゴリさんの群の連中も強くなってきた。
当然それは俺の魔力効果でもあるんだが、ゴリさんが直々に稽古をつけてるそうなので、今後益々強くなるのだろう。
もしかしたら名もなき魔獣が誕生する日も遠くないかもしれない。
俺はそう思いながら東側の獣道を大岩で塞ぎ始める。
当然これは相手の侵入経路を絞るためだ。
俺たち獣はいざとなれば散り散りに動く事は出来る。
しかし、人間たちは違う。帰る場所は人里だと決まっているからだ。ならば人里に通じる道を塞ぐのは当たり前の事だろう。
『ふぅ、こんなもんかな?』
積み上げられた岩を見上げながら、俺は一息吐く。
『うわぁ~……』
聞こえたのは女の声。
『なんだよニッサ? 結界はもういいのか?』
俺は振り返りながらそう言った。
『うん。コディーの力を抑える訳じゃないから簡単』
Vサインを見せながらニッサが言う。
『それに、結界というより、これはただのカーテン』
『大分上手くなったね、獣言語』
『がなる時がつらい』
『ははは、あれは人間の喉には負担が大きいからね』
『たまに人間臭い事言うよね、コディー』
『気のせいだ』
『獣はそうやってはぐらかさない』
『さ、さぁ~ってとヴァローナの様子でも見て来ようかな~っと』
『そして、自分より弱い相手を前に逃げたりもしない』
『ぐぅ……』
なんていう鋭い指摘なのか。
まぁ、ぐうの音がでたんだ。そこまで気にする事でもない。
◇◆◇ ◆◇◆
「わかったか人間よ! ディーナは自分の意思で戻らない事を決めているのだ!」
帰るなりヴァローナの甲高い声が家を支配していた。
頑丈なツタで両手両足を縛られた二人は、ぐったりしながらヴァローナの話を聞いていた。
当然、ヴァローナ一人では心許ないので二人を連れて来たゴリさんもいる訳だが、どういう訳かゴリさんもぐったりとしていた。
「では、次のお説教だ!」
……まぁ、理由は察しがつくけどな。




