055
「はぁはぁはぁ……はぁ、つ、辛かった……!」
人間の頭大だった魔球は文字通り野球ボール程の大きさになった。
それを二十個全部ともなれば、これだけ疲労して然るべきだろう。
「これで、ちょっとやそっとじゃ壊れない」
俺が爪で触れてみても金属音のような甲高い音しか聞こえない。
鉄球並みに硬くなったのではなかろうか。
「さて、これで暴発の心配はなくなった訳だが――」
「うん、大成功」
「――ここから魔法はどうやって発動するの?」
首を捻る俺に、ニッサが固まる。
「……忘れてた」
「俺も途中からそうじゃないかなと思ってたよ。つまり、俺は魔力ブースターを二十個積んでるだけのクマって事?」
「魔力が回復すればまだ増やせる……はず」
「魔法は?」
「コディーは既に魔法みたいな存在」
「いや、そういうトンチはいいからさ」
「じゃあ、それ投げればいい。圧縮したから爆発範囲はほんの一角。それ受けたら大抵の敵、イチコロ」
「へぇ………………」
……………………それって、物理なのでは?
「えっへん!」
ニッサは鼻高々になっている。俺に魔法を教えられたのが嬉しいのだろうか。
まぁ、対抗手段……というより技や魔力タンクが増えたのは有り難い事だ。
これが魔王に対する抑止力になるのかはわからないが、悪手ではないと信じたい。
◇◆◇ ◆◇◆
「……何よそれ?」
「アクセサリーだよ、ルピー」
「たまには騙されてやるわよ。徐々にここの戦力が増してるから、また魔王様にお伺いをたてなくちゃいけないのはわかるわ。でもね、それがアクセサリーなんて生優しいものじゃないって事くらいは……私にもわかるわよ」
「そう?」
ニッサとの魔法訓練の後、数日が経ちまたルピーが楽園に戻って来た。
既に親近感を覚えてるのか、口調は非常に優しいものだが、どうも俺の状態に驚いているようだ。
「五十個くらいあるわよね、それ?」
「惜しい。百個」
「全然惜しくないわ~。ちょ、ち、近付かないでちょーだい! ほら、次は何を伝えればいいのよ!?」
まさか自ら伝書鳩を買って出るとは、ルピーも成長したものだ。
「えーっと、それじゃあ。こっちには聖獣のシロネコもいるから、この土産に適したポジションを、と」
「……はぁ、わかったわ」
「因みに今回はどんなポジションだったの?」
「四天王よ」
「おぉ~、俺も出世したなぁ~」
「まだ入ってすらいないでしょ~?」
「そういえばそうだった。あ、気をつけて帰るようにね」
「まったく、狙いはわからないけどコディーが時間稼ぎ出来るのも時間の問題よ」
まぁ、流石にこれだけ何度も往復させてれば、ヴァローナ以外は気付いちゃうよな。
「そろそろ魔王様がピリピリし始めたか」
「最初の引き延ばしが『ほぉ?』。その次が『何?』ね」
「ふむ、次は『くっ!』とか狙ってみるか」
「報告する私の身にもなって欲しいわ~」
とか言いつつ、ルピーは再び飛び上がって空を舞った。
魔王に人間臭さを感じながらも、俺は魔球を作ろうとした。
「……うーん、やっぱりこれ以上は作れないな」
魔球作成の制限。
ニッサの診断だと、俺が魔球を制御している魔力量とのバランスを保つためそれ以上は出来ない、という結論だそうだ。
なので、俺がこれ以上魔力を凝縮しようとしても、ただ疲れるだけ。
腕回りに十魔球が二列。両腕で四十。後ろ脚回りに十魔球が二列。両脚で四十。
そして胴体にX字の魔球が浮かび、ゆらゆらと肩、腹、腰、背中、肩の軌道で周回している。まるでデカい数珠を両肩からショルダーバッグ感覚で持ってるような人である。いや、熊である。
胴体分は背中に回り込むが、寝転がると全ての魔球が中空に浮かぶ。
魔力は結局収める事が出来ず、常に噴出している状態で、もはやどこまで届いているのかわからない。
そんな魔力の加護からか、最近また獣が増えてきた。
肉食獣だろうが草食獣だろうがかまわずやってくる。
肉食獣の食糧問題については、魔物を狩る事で解決しているが、魔物がいなくなった時の事も考えないとまずいとも思っている。
魚じゃ満足出来る肉食獣がいないとも限らないからな。
「いやぁ~……あんなのがこんなとこに来るとは。流石コディーさん。注目されてますなぁ」
ガサガサと草木を鳴らし、俺の前に現れたのは、老け顔の冒険者ダニエルだった。
「見てたのか?」
「見たくはなかったですがね」
「偶然って事か」
「これが必然でない事を祈りますね。アッシは」
「というと?」
俺の質問に、ダニエルは口ごもってしまった。
それだけ重要な質問なのだろう。
俺はそう思い、ダニエルを気遣いながらもう一度聞いた。
「何かあったのか?」
「……人間側に動きが出ました」
これはつまり、ディーナ救出作戦の大きな動きがあったという事か。
ライオス国だったか。もうちょっと引き延ばしておきたかったが、そうも言ってられない状況だという事か。
「コディーさんにはもう一つ伝えておかなくちゃならない事が……」
「何だ?」
「これは、リミ様の捜索に関わっていた全員にお達しがあった作戦です」
「それが?」
「その中には当然アッシも、アッシュも…………ジジも入ってるという事です」
なるほど、ジジとは厄介な再会になりそうだな。




