053
「ハハハハ! コディーは獣界最強だ! うん! 神獣ヴァローナも認める素晴らしい存在だ!」
先程までしゅんとなって項垂れていたのが嘘のようである。
この烏は俺、シロネコ、ゴリさんを天秤に掛け、一番強い者に付き添う事で、命を繋いだのか。いや、ヴァローナは言っていた。「長命」だと。
つまり、ヴァローナは過去にもそういった行いをしてきた可能性が高い。
ん? 獣らしいといえば獣らしいか。共存する事で生きる動物、虫は多い。もしかしたらこれが神獣なりの「生き方」なのかもしれないな。
そう思ってしまったら、ヴァローナの事を悪く言えなくなってしまう。
「さぁコディー! 今日は何をするんだい!?」
「変わらずだよ。魔力のコントロールを覚える」
「これ以上繊細なコントロールは獣には無理だと思うぞ? それこそ魔法が使える人間のような微調整が必要に――あいたっ!? な、何をするんだコディー!?」
俺がヴァローナの額をこつんと爪で弾くと、ヴァローナはそれはもう驚いた様子で怒ってきた。
「思い出した! 俺がまだ強くなる術が一つだけあるじゃないか!」
「何だそれは!? というか何故私はコディーにド突かれなくちゃならないのだ!?」
「魔法だよ魔法! 俺が魔法を覚えれば神獣にならなくても魔王に対抗出来るんじゃないか!? なぁ、ヴァ――」
「――ハハハハハハハ!」
凄いな、噛み気味で笑ってきたぞ。しかも腹を抱える程の大笑いだ。
「いや、お前だって言ってたじゃないか! 人間の言葉が使える俺なら、魔法が使えるようになるかもしれないって!」
「ハハハハハハ! けほ! けほっけほ! ……はぁ、確かに言ったけどな? 魔力コントロールがそんな等閑では、無理無理無理の無理無理ーだ!」
おのれ、それならば俺にも魔法の師がいればいい訳だ。
ちゃんといるんだぞ。ニッサというランクAのつよーい冒険者がな。
◇◆◇ ◆◇◆
「無理」
「いや、早いって! なんとかならないのか、ニッサっ?」
「そもそも保有している魔力の量が違い過ぎて、私の説明なんて意味を成さない」
何て流暢な口調だ。いつもなら無口キャラにちょっと補正が掛かったような喋り方なのに。
しかし、本当に無理なのか?
いやダメだ。ここで引いては俺の強者への道が閉ざされると言っていい。
それ即ち、ジジとの約束が果たせない。
「とりあえず! 一回だけ! ほんの一回だけでいいから!」
土下座する俺に、ニッサは溜め息を吐くばかりだ。
そんな俺の前に、ゴリさんとシロネコがやってきた。
「何だコディー? ニッサに交尾の催促か?」
何を言ってるんだ、このアホゴリラは?
『そんな頼み方じゃダメだ、コディー。どのような世界でも男は強さを示さねばならない。ま、我より強い雄はいなかったがな!』
このドラ猫も、ふざけるのも大概にして欲しい。
最近ニッサは獣言語を聞き取れるようになってきてるんだぞ?
『シロネコ、サーベルタイガーの群れはここに来ないのか?』
『さぁな、我とは随分昔に別れた。もしかしたら今頃朽ち果てているやもしれんな』
『コディーのように交尾が出来なかったら大変だな』
『そうだな、アハハハハ!』
ダメだ、ニッサの顔がどんどん真っ赤になっていく。
ていうか、ニッサもゴリラと猫と熊の戯れ言で赤くなるなよ。
いや、俺は入ってないぞ。断じてだ。
『コディー、押してもダメなら引いてみろ、だ』
ん? その手があったか。
俺は土下座をやめ、ニッサの前に仁王立ちした。
「な、なに……?」
ニッサは自身の肩を抱えて震えている。
まったく、何を勘違いしているのだ、この小娘は。
「ニッサ、魔法教えてくれないと楽園追い出しちゃうぞ」
「っ! それはずるい!」
「俺はなニッサ、ずるいクマさんなんだよー」
「コ、コディーの顔、怖い……!」
漆黒を背に纏ったかのような俺の表情に、ニッサがじりじりと後退する。
「楽園追い出しちゃうぞー」
「うぅ……!」
む、もうちょい押せばいけそうだ。
「追い出しちゃうぞー」
「くっ!」
あと少し!
「がおー」
「わ、わかった! 教える! 教えるから!」
ふふふふ、これも平和のため。平和のためなのだ、ニッサよ。
「よろしくお願いします! ニッサ先生!」
「変わり身の早さは、既に神獣レベル……」
あきれ顔のニッサに、俺は満面の笑みで応える。
『何だ、交尾の催促ではなかったのか』
『せっかく王子の誕生かと思ったのだがな。残念だ』
あの真っ白コンビには、人間と獣の違いについて懇切丁寧に説明してやらないといけないな。しかし、それは今ではない。今度だ、今度。
俺はニッサの前に座り、ニッサの言葉を待つ。
そう、魔法教室の開室である。
「魔法は、術者の魔力を媒体として具現化させる。魔力のコントロールが上手ければ上手い程、魔法使いに向いてる」
「ふんふん」
「コディーは、元々戦士向き。魔獣の類は全部ソレ。だから、コディーが魔法を覚えるのは無理だと思う」
「それはわかったよ。でも、聞くだけ聞きたいんだ」
俺の真剣な眼差しをくみ取ってくれたのか、ニッサは珍しく口をへの字に結んだ。
しかし、すぐに諦めたような顔をして、また溜め息を吐く。
「……わかった」




