表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~  作者: 壱弐参


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/86

047

「グルァアアアッ!」


 俺の煽りを受け、白い剣歯虎(サーベルタイガー)は再び俺に襲いかかって来た。

 やはり動きは速いが直線的。身体こそ反応出来ないが、目で追えない訳じゃない。

 これだけの真っ直ぐな動きであれば、受け損なう事もない。


『ぬんっ!』

『馬鹿な!? 我が牙が通らぬだと!?』

『そんじょそこらの毛皮と訳が違うんだよ!』

『ならば綻び折れるまで叩くのみだっ!!』


 次にサーベルタイガーが考えたのは衝突による衝撃で、内部にダメージを蓄積させるというものだ。俺も攻撃こそガード出来るものの、受け続けるしか手がない。


「ならば、やはり頭を使うしかない」


 瞬間、脇目に見えるニッサの目が輝き、そして、輝きを失ったのだ。


「頭って……そういう事?」


 ニッサの言葉が何故か冷めているが、頭で受ける事により、俺の四肢は自由になるのだ。

 サーベルタイガーの頭を転がるように、俺は奴を押し潰した。


『くっ! なんのっ!』

『逃がすかよ!』


 身体の下から這い出ようとしたサーベルタイガーの後ろ脚を、何とか掴む事が出来た。


『ちょーっと痛いぞ?』

『や、やめ――――』


 悲鳴に近いサーベルタイガーの声。

 俺は……聞かなかった事にした。


 いくら力が強かろうが、攻撃の支えである後ろ脚を掴まれてはそれも半減する。

 俺の両手は、サーベルタイガーの後ろ脚を掴み、世界最強の盾こと大地さんに向かって叩きつけるのだった。


『がぁ!?』


 何度も、


『ぐぅ!?』


 何度も、


『ごぉ!?』


 そして何度も。

 サーベルタイガーがボロボロのヨロヨロになった時、俺は彼の強さに驚く。


「凄いぞニッサ。この牙折れてない!」

「それだけの事して、驚くところそこ?」

「え、だって頭使ったじゃん!」

「獣は、そういう事しない」

「意地悪くとも言ったし!」

「あれはイジメ。動物ぎゃくたーい」


 おかしい。襲われたのは明らかに俺たちなのに、虐待だと言われてしまった。

 世界は何故……こう、上手い事出来ていないのだろうか?


「今、適当な事考えたー」


 ニッサの指摘は鋭く、とても冷たい。


『うぅ……』


 さて、この白猫ちゃんをどうすべきか。

 戦術で勝ったとはいえ、こいつは俺が負けるだけの実力は確かに持っていた。

 ふむ、ハルピュイアのルピーちゃんの往復回数を一回増やすためには、貴重な人材やもしれない。どれ……。


『これで、ここは俺の縄張りだ』

『くっ……! これも獣の世界! 好きにしろ!』


 なるほど、野生で生きるだけあって(ことわり)には忠実か。

 獣のこういうところっていいよな。実に素直でよろしい。

 人間もこうあるべきではなかろうか? まぁ、それは言い過ぎか。

 互いに生きる世界が違う。そういうところで妥協すべきか。


『今、獣たちの楽園を作ってるんだが、お前も来ないか?』

『ふん、誰がそんなもの!! 我は白王(びゃくおう)とまで呼ばれた誇り高き存在! お、おい! 何故また後ろ脚を持つ!?』

『持ってるだけだよ』

『な、何だその濁った(まなこ)は!? 貴様本当に獣なのか!?』

『持ってるだけだよ』

『お、恐ろしい! 恐ろしいぞ貴様!? はっ!? まさかその人間は……奴隷!?』

『持ってるだけだよ』

『に、人間の奴隷とは恐れ入った! わ、我は白王シロネコ! 貴様の楽園の一部となり、その発展に……前脚を貸そう! いや、その手を放してくれれば後ろ脚も貸すぞ!? な!? なっ!?』


 懇願するような目を受け取った後、俺はサーベルタイガーの後ろ脚を放してやった。

 しかし、シロネコって何て名前だ全く。いや、確かにそう思ったけども、俺並みの巨躯でシロネコって……と思っていたら、またニッサが冷たい目を向けてきたのだ。


「今日のコディー、怖い」


 冗談で言ってるのはわかるのだが、真顔で、しかも正面から言われると堪えるものがある。


「キノセイダヨ」

「さっきの目、凄かった」

「漆黒の(まなこ)って技名はどうだろうか?」

「相手は絶望する……!」


 ノリはいいんだけどな、ニッサ。


「さて、ミスリル鉱山も、新たな仲間も入った事だし、一回楽園に戻るかー!」

「え、そうなの?」

「あぁ、このシロネコとの話し合いの結果そうなった」

「コディー、ずっと同じ言葉喋ってた。そっちのシロネコ? は、ずっと喚いてた。………………話し合い?」


 くっ、流石にそれくらいはわかるか。流石優秀な魔法使いは違うな!

 その内ディーナみたいに獣言語を扱いそうで末恐ろしい。


「こほん、話し合いだ。うん」

「ふ~ん……」

『えーっと、この子はニッサ。絶対食べるなよ』

『奴隷如きの名前など、覚える必要――おい!? 何故後ろ脚を!? わかった! ニッサ! くそ、ダメか!? ニッサちゃん! ニ、ニッサ様!?』

『持ってただけだよー』

『ふぅ……。くそ、何て恐ろしい熊だ……! 楽園だと? きっと地獄のような場所に違いない!』


 変な誤解はあるが、俺はサーベルタイガーのシロネコを倒し、部下にする事に成功した。

 ゴリさんのように話し合いで仲間になる獣もいれば、シロネコみたいに最初から襲って来る獣もいる。後者の場合、勝ってしまえばこの獣の世界の理にのっかってしまえばいい訳だ。何ともわかりやすい。

 しかもコイツは聖獣。俺に近い戦力は出来るだけ近くに置いておきたい。そして、それが俺たちのためであり、コイツのためでもある。

 人間臭い俺のエゴかもしれないが、元は人間だ。多少自分本位に考えてもいいだろう?


「ところでニッサ? 何でシロネコの上に乗ってるんだ?」

「回復魔法掛けたら喜んで乗せてくれた。この子、良い子」

「俺の背中は?」

「今日は、もういい」


 今日も世界は、俺に厳しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ