033
『戻ったぞ! 我らが楽園!』
どうやらヴァローナの中で、ここが楽園となったようだ。
おそらく、楽園って言葉が気に入っただけだと思う。
『おぉ……確かに魔物の気配がない』
ゴリさんは辺りを見回しながら言う。
流石に群れの大移動ともなると、アンテナの張り方が難しい。
足並みも遅くなるし、往路の倍近く時間が掛かってしまった。
楽園――まぁ俺はどう呼んでも構わないのだが、皆そう呼んでいるし、俺もこう呼ぶ事にしよう。
この楽園に戻って来るのは、実に一週間ぶりである。
「ただいまー!!」
元気よく楽園の中に入って行くディーナ。
やはり実家のような安心感があるのだろうか。だが、今回の外出はディーナにとって決して悪いものではなかったようだ。
『森の中を案内しよう』
『あぁ、頼む』
ゴリさんたちを率いて、俺たちは森の奥に入って行く。
すると、俺が作った森の広場が見えてきた。
『おぉ、凄いな……!』
ゴリさんの感嘆の声に、俺は鼻がくすぐったくなった。
これまでに作った色々な調度品は、皆俺の自信作である。
『ここにあるものは好きに使ってくれていいぞ。使い方はヴァローナとか俺に聞いてくれ。水路は綺麗に使ってくれよ』
『わかった。感謝する』
『俺の住処は奥だから、困った事があったら言ってくれ』
ゴリさんは、心なしか嬉しそうに首を縦に振った。
新生活への期待だろうか。それともこれまでになかった人間の道具に対する高揚感か。もしくはそのどちらもなのか。
『北側は人間が多くいるから、森の外は余り出ない方がいいだろう。魔物への対処は基本的には俺かゴリさんで対応しよう』
『あぁ、周知しておこう』
ホウ・レン・ソウがしっかり出来るヤツって中々いないからな。
ゴリさんは出来そうな気がする。ヴァローナとかヴァローナとかヴァローナとかは絶対に無理だ。
『それじゃあ俺は奥で休んでるよ』
ゴリさんはもう一度首を縦に振り、皆の下へ向かった。
そして、俺はディーナがいるであろう俺たちの小屋向かった。
しかし、一難去ってまた一難……なのかもしれない。
小屋では、新たなる問題が俺を待っていた。
「コデー! お客さんだよー!」
誰か疲れた俺の身体を労ってくれないだろうか?
ジジがいない今、ディーナの笑顔だけが俺の癒しではあるが、そのディーナは客とやらの前でキョトンとしている。
敵意がなかったから侵入に気付かなかったが、まさかコイツとはな……。
『コディー、人間だぞ!』
ギャースカとヴァローナが騒いでも、獣の言語だ。コイツにはただの烏の鳴き声にしか聞こえないだろう。
「デカくなったじゃないか、コディー」
前に会った時より、精悍さが増している。
深く青い甲冑は多くの戦闘を乗り越えたのか、傷だらけである。
釣り目だが金髪のイケメン……とくれば、いくら風体に精悍さが増してもわかってしまう。
「勇者ヴェイン……」
「へっ、相変わらず野太ぇ声してるな。だが驚いたぜ。まさか南の森がこんな風になってるなんてな? 邪気がなく、自然の生気溢れるすげぇ場所だ」
「そう褒めるな」
「ハハハ、何となくわかったよ。お前がこの森をこうしたってな。だから、今日は大人しく褒めてやる」
「男に褒められても嬉しくないね」
「そりゃ同感だね」
なるほど、こりゃしっかり成長してるじゃないか。
このひと月ちょっとで、彼がどうしてこう成長したのか、ちょっと気になるところだ。
「ディーナ、俺が趣味で作った来客用の椅子があったろう。あれを彼に」
「はーい!」
嬉しそうなディーナを、ヴェインはずーっと見ていた。
「幼女趣味があるとはな。流石勇者」
「ちっげーよ! ここに来て一番驚いたのがあの子だよ!」
「……ま、それもそうか。それにしては慌ててないな?」
「迷子かと思って名前聞いたら元気よく答えるし、『ここは危険だ』って言っても『コデーがいるから大丈夫』って言うもんだから、仕方なくお前を待ったんだよ。何だよコディアックヒグマと幼女って!? 奇想天外もいいとこだろう!」
一息で言いたい事全部言ったって感じだな。
「俺としては、お前が勇者ってとこが一番奇想天外だよ」
「にゃろう……!」
「何か用事があって来たんだろう?」
「はい、おいすー!」
ディーナがヴェインの後ろから差し込むように椅子を置く。
「あ、あぁ。ありがとう。まぁ、それもあるんだが、お前の頭に乗ってるその烏……八咫烏じゃないか?」
「おぉ!」
流石に自分の事はわかるか。ちょっとヴァローナが嬉しそうに興奮している。
「おい、コデ――」
「――ただの烏だ」
「何故そうなるんだっ!」
「……ははは、八咫烏も人間の言葉を話すのか。どんどん俺の常識が崩れていくな」
「調教したからな」
「チョーキョーとは何だ、コディー?」
「教えるって意味だ」
「そうか!」
嘘は言ってないぞ。
「お前も人が悪い……いや、熊が悪いな」
「人よりかは純粋だと思ってるよ」
「ま、それもそうだ。人間ってのは一筋縄じゃいかないからな」
「いい加減話せ。何の用でここに来た?」
責付くように言った俺の言葉に、ヴェインは咳払いをした。
そして、今まで見たことのないような、真剣な眼差しを俺に向けたのだ。
「ジジからの伝言だ」




