025
「オークキングがやって来たぁ!?」
事の顛末を話そうとしたら顛の時点でヴァローナが驚いた。宙でピタリと止まるくらいだ。相当驚いたのだろう。
「静かに、ディーナが起きちゃうだろうっ」
「そんな事言ってる場合じゃないだろう! それっていよいよコディーが魔王軍に目をつけられたって事じゃないか!?」
「こちらとしては、魔王軍に目を付けられるような事はしていないと思っています」
俺のすっとぼけた弁明に、ヴァローナは呆れた顔で溜め息を吐く。
「はぁ……オークジェネラルの森を奪いとった時点で想像はついたが、ここまで事態が早いとは思わなかった。それで、コディー? この先一体どうするつもりだ?」
ヴァローナは俺に聞いてきた。しかし、俺は聞き返してしまったのだ。
「お前はどうするつもりなんだ?」と。すると、ヴァローナは考える素振りを見せず、ずいと顔を近付けて言ったのだ。
「ん~? 何を言ってるんだ。こういう事を決めるのはコディーの仕事だろう。私はコディーに付いて行くと決めているからな」
「……い、いつ決まったんだ?」
「友達となったその日からさっ」
言葉に詰まってしまった。確かに俺もヴァローナの事を友達だと思っている。しかし、己の生命の危険を感じてまでそう言い切ってくれる友達は、これまでジジしかいなかった。
転生前だって友人はいたが、命の危険なんて中々あるものじゃないし、あってはならない世界だった。その友人たちに命を懸けられるかと聞かれたら、正直自信がない。
だから俺は、ヴァローナのこの言葉が、単純に嬉しかったのだ。
ディーナだっているんだ。俺も覚悟を決めなくちゃいけないだろう。
「……獣の世界は弱肉強食。確かそうだったよな、ヴァローナ?」
「そうだな」
「なら、仲間を集めよう」
「ほう、それなら手がない訳でもない」
ヴァローナは薄目を俺に向け、ニヤリと笑った。八咫烏の彼がこう笑う時、頼もしくなってしまうのは、それだけ俺がヴァローナと組んでいるという事だろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お外出るのー?」
「あぁ、昨日ヴァローナと話して決めたんだ。辛い旅になるかもしれないが、ディーナはどうする?」
「う~ん……」
「ここは俺の縄張りだから、魔物も他の獣も近づかない。臭いが消えるまでは安全だろう」
勿論、これは嘘だ。現に昨晩オークキングが訪れてしまった。ヴァローナの話では、強者程こういった縄張りにも入れるそうだ。つまり、俺がこの森に入ろうと思えたのも必然なのかもしれない。オークジェネラルよりは強かったのだから。
俺とオークキングとの実力差があるのか、ないのか。それは昨晩の時点で余裕を感じられた事で、こちらに分がある事はわかった。しかしオークキングは魔王軍の幹部と呼ばれる存在だ。その幹部クラスが二匹、もしくは軍を引き連れてここに来た場合、俺はここを追われる事になるだろう。少なくともこの森を守るという選択肢はなくなってしまう。
ならばこちらも精強な仲間をこの森に配するしかない。
昨夜ヴァローナは言った。「それなら手がない訳でもない」と。それはつまりこういう事だ。
――――俺が欲しかったのは友達。しかし、仲間が欲しいならば話は違うという事だ。
「お外で何するの?」
「強い魔獣を見つけて従える」
「お友達じゃないの?」
「違うな。部下にするんだ」
そう、これは獣界、いや、この野生の世界の法律。弱肉強食。
つまり俺は、群れのボスと成るべく、この森を出る事にしたのだ。
ディーナは不必要にここを出たがらない。しかし、俺と一緒ならば話は別だ。森の外に散歩に行った事もあるくらいだ。しかし、今回はいつ帰って来られるかわからない旅。俺が無理を言ってるのはわかる。
しかし、ここは言わなければならない。「別にここにいてもいい」というのは建前であって、事実上、強制的な旅だ。
「うん、コデーがそう言うなら仕方ないよねっ!」
だからディーナは付いて来るしか選択肢がない。狡い奴だと思われようが仕方がない。これはディーナを守るためでもあるのだから。
俺はディーナの頭にポンと前脚を置き、出来るだけ自然に笑いかけた。
「よし、それじゃあ出発の準備をしてこい。森の出口で待ってるから」
「はーい!」
いざ決断してしまえばディーナは行動が早い。すぐに準備を始めたのだ。
ジジに貰ったショルダーバッグに色々な物を詰め、俺も森の出口に向かう。出口にある木の枝の上では、既にヴァローナが待っていた。
ニヤと笑ったヴァローナは、指定席と言い張る俺の頭の上に飛び乗る。そして、後方からトタトタと走って来る音が聞こえる。
「来るぞ」
「最近よくやるんだ。活発な子だよ、ディーナは」
「とおぉおおっ!」
ディーナは快活な声を出し、俺の臀部に両手を突き、跳び箱を跳ぶように俺の背中に乗った。
「えへへへっ、できたー!」
ケタケタと笑い、万歳するディーナに苦笑する俺とヴァローナ。
「さぁ、それでは行こうか。目指すは南の密林だ」
ヴァローナは羽を広げ進行方向を指差す。
「まぁ、そっちは崖があって進めないんだけどな」
「お、大回りすればいいのだっ」
「それをするのは俺だけどな」
「けんかだめー!」
これから先、どんな未知に巡り合うかはわからない。けど、この道は間違っていないと信じて進むしかない。
俺がディーナに笑いかけた後、ヴァローナもニヤリと俺に笑いかけた。
「よし行くぞ! 俺たちの旅はこれからだっ!!」
本日、別作品の、『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』第九巻が発売します。
後書きの下にリンク貼っておくので、機会があれば、是非読んでみてください。




