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善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~  作者: 壱弐参


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023

「なぁ、コディー? いつまで、泥遊び、する?」

「これが、遊んでいるように、見えるなら、お前は、やっぱり、獣だよな!」

「獣、です、ぞ?」


 ぬぅ、やはりヴァローナには悪態も通じないか。

 ディーナは、きゃっきゃとはしゃぎながら手伝ってくれているというのに。


「コデー、出来た!」

「おう、出来たな。そしたらそれを(ざる)に入れてくれ」

「はーいっ」


 右手を上げ、快活に返事をするディーナ。胸元にはプレゼントと称し渡した両親の形見のペンダントが二つ。走る際、「胸元にコツンと当たって痛い」と文句を垂れたディーナを、どうか許してやって欲しい。

 最近、何故か俺に似て合理主義な考えをするようになってきたんだ。まぁ、俺も感情が(たかぶ)った時は獣のソレになってしまうのだが。それは似ないで欲しいなぁ。


「いいかヴァローナ。これは粘土っていってな。物を作る上で非常に重要なものだ」

「……こ、言葉、難しい」

「あえて難しく言ってるんだよ」

『むぅ! 私に何か恨みでもあるんじゃないか!?』


 すぐに獣の言葉になるヴァローナ自身からのお願いだったはずだが、既に忘れているようだ。正に鳥頭というにふさわしいだろう。


「お前が言ったんだろう。『日常会話も人間の言葉にしよう!』って」

「今、非日常」

「お、難しい言葉知ってるな。じゃあどんどんいこう」


 そう言うと、ヴァローナは『むきーっ』と怒り、俺の頭から飛んで行った。しかし、俺の行動に興味があるからか、今度はディーナの頭の上に移動した。

 まったく、随分と難儀な性格だな。


「木材の土台に(つる)を撒いて補強して、また木材。こうして出来上がっていったものを、この粘土で隙間を埋めるんだ。さぁディーナ、手伝って」

「はーい!」


 せくせくと動き続け、顔を泥まみれにし、俺とディーナは粘土を埋めていく。やがて壁となる木材に。

 ヴァローナは森の中から(つる)を運んできてくれた。そう、何も言わずに。何か言ってきたらまた難しい言葉で返してやろう。そう、俺は友達想いの素晴らしいコディアックヒグマさんなのだ。


「「おぉ~……」」

「出来たぞ。我が家の完成だ」


 粘土の外壁。そして無数に束ねられた葉っぱの屋根。魔獣コディーさんの力で地中深くに刺した木材は、非常に強固な土台となるだろう。

 ディーナが嫌がるから俺が入っても問題ない広さである。これで夜は三人仲良く眠れるだろう。


『家の中に家を作るとは、また物好きな事をするな』

「家の中に家を作るとは、また物好きな事をするな。さんはい」

「むっ、く! 家の……中家……物好き、するな」


 大変そうだが、こうしてやった方がヴァローナも覚えが早いだろう。西側と東側に作った窓から光と風が入るが、風が強い時は閉める事も可能だ。

 勿論、ディーナのため、というのが一番だが、この広さがあれば、半分は物を置く事も可能だ。

 いち早く導入したいのが、


「木炭?」

「そう、川から流れてきた人間の鉄鍋の中に薪を入れて、蓋をした後に火で温めるんだ。火の番はディーナの仕事だろ? 出来るか?」

「うん!」


 簡単な説明の後、ディーナは残り火を使って火を熾した。

 最近どんどん野性味を帯びてきたが、やはり動きは丁寧だし、綺麗だ。ディーナがここに住み始めてからひと月は経っているだろう。


「コデー、見てー!」


 木炭が出来た事をアピールするのはいいが、顔が真っ黒である。鼻下を擦り、炭の髭が描かれているのがとても可愛らしい。


「おう、頑張ったな!」

「えへへー! ディーナ凄いっ?」

「凄い凄い!」


 その内ディーナの服も調達しないといけないよな。適度に洗っているとはいえ、流石にボロボロだからな。

 日が経つごとにヴァローナの人間の言葉は流暢になり、俺を驚かせた。


「むぅ、こんなに真っ黒な木が何故こんなに燃え続けるのか……!」


 燃える木炭をじっと見つめるヴァローナだったが、その答えはいつまでも出ないようだった。

 木炭自体を作る事は手間だが、その分ディーナは自由な時間が増えたと喜んでいた。

 川から流れてくる人間の道具。そして俺の微妙な知識の下、俺たちの生活は本当に変わっていった。

 そんな矢先だった。最初にヴァローナが気付き、続き俺が気付いた。

 深夜の森の家で、俺たちは目を鋭くさせて見合って頷いた。

 ディーナを起こさないように外に出た俺とヴァローナ。


『強い魔力が近付いている』

『あぁ、やっぱりこれ魔力なんだ』

『コディーも気付いたって事は、相当魔力の使い方が上手くなっているという証拠だ』


 暇を見つけては魔力を使って訓練をしていたからな。もしかしてそういったものが今になって発揮されているのかもしれない。


『森の出口の方だ』


 出口の方というのは、稀に獣たちが水を飲みに来る方という意味だ。

 いつの間にか、ディーナとヴァローナで勝手に決めていたのだ。俺としても違和感がないから構わないのだけどな。

 ヴァローナが獣の言葉で喋っているという事は、かなり危険なのかもしれない。


『ヴァローナはディーナを見ててくれ。もし危険だとわかったらディーナを連れて逃げるんだ』

『コディーはどうする?』

『ちょっと話してくる』

『何とも頼もしい友人だな、君は……』


 呆れた様子で言ったヴァローナに、俺はくすりと笑って応えた。確かにかつて戦ったオークジェネラルより身体がビリビリと反応する。しかし、それでも俺の心のどこかには余裕のようなものが感じられた。

 そう思ったからこそ、俺は川を渡り、近づいて来るナニカを待つ事が出来た。

 正面からのそのそと歩いて来る黒い影。

 月明りがその影を照らす前、影は強く空気を揺らして俺を威圧した。


「なるほど、定期連絡(、、、、)が途絶えたと思えば、こんな化物(、、)が棲み付いていたか」


 話の内容から、かつてここに住んでいた者について話している事がわかった。その対象があのオークジェネラルである事がわかったのは、眼前に立つ魔物の威圧感が尋常じゃなかったからだろう。


「オークジェネラルを(ほふ)ったのはお前だな?」

「……そうだ」


 月明りが魔物を照らす。金色の体毛を逆立たせ、空間すらも歪むような魔力をびしびしと俺に当ててくる。


「そうか、お前がオークキングだな」

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