【獣災】は腹が減っている
おっさんに言われたとおり、砂で開けた空間まで落ちてきた。
「で、【獣災】の本体はどこにいる?」
「あそこだ……あそこに仇がいる」
【五碧】の剣が指した先を見る。
「あ?あれが……?」
ぽつんと横たわっている子猫がそこにはいた。
少しばかり変わっているがあれが今の猫の姿なのだろう。
「あれなら別に気張る必要もねえ、ただ種をぶち込んで終わると思うが」
「待て、あれは十中八九擬態だ。それを証明しよう」
【五碧】の槍を持った奴が投擲の姿勢をとった。
「貫け……【碧槍】」
俺には投げた瞬間にはもう届いた様にしか見えなかったが、その槍は猫には刺さらなかった。
弾かれていた。
猫に?
いいや違う。
例えるならそれは触手。
「姿を現したな【獣災】」
「ずいぶんと……ひどい形になったものね。獣ですらないじゃない、ただのバケモノよそれ」
シトリーが言うように姿を現した【獣災】は獣とはとても呼べない姿をしていた。
半透明の胴体に猫を格納し、肉体からは牙が生えそろった触手に口がついたもんがわんさかありやがる。
SUN値チェックが必要なほどの名状しがたさだなこりゃ。
「う……うう……足りない……足りない……腹が満たされない……穴が塞がらない……何を喰らえば良い……何で満たせば良い……我は……全てを喰らおう……災厄のごとく……全てを平らげてしまえば欠けたものが埋まるのだろう……ああ……腹が空いた……人間よ……我が飢えを……我が乾きを……その身で癒やしてくれ……」
お前がっつり喋るのな。
問答無用でぶち殺しにくるかと思いきや、まさかの呼びかけとは……。
「へっ……お前はもう何も食えねえよ。お前は砂にまみれて死ぬんだ」
「仇は討つ……必ずだ」
「あなたの空白を埋めるものは確かにあるけれど……それは食べることでは埋められない……。愛なく哀れなバケモノちゃん……引導を渡してあげるわ」
そして臨戦態勢のお仲間達と……これは傍観できるのでは……?
なんか良い感じになったところでリンゴをぶち込むだけで終わるのではないだろうか。
「すん……すん……この匂いは……懐かしい……我が記憶が……呼び覚まされる……我は……きっと貴様を喰っていた……暖かく……甘く……安らぐものをお前から得ていた……うぐ……う……うう……UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
明らかに俺の方へ意識を向けながらそんなこと言わないでくれませんか……。
俺が主犯だってばれちゃうだろうが!!
そして俺だけをターゲットにして動き始めるの止めてくれない!?
死ぬから……あっけなく喰われるからぁ!?
「あぶねえっ!?」
猛烈に嫌な予感がするんで咄嗟にしゃがんだら俺の首があったところを触手が薙ぎはらいやがった……首飛んでたよねこれ……。
「速い……」
「我らが動きを牽制する……隙を見つけたら攻撃してくれ」
【五碧】が【獣災】へと向かって行った。
今のあいつらなら何とかできるんだろう。
「俺は戻ってきた黒砂を【獣災】にぶち込むだけだ」
おっさん……頑張ってくれマジで。
「きっと【獣災】は物理的な破壊で倒すのは不可能なくらい再生能力があるはず……とりあえず胴体を狙っていきましょうか……糸口が見つかるはず……」
俺は俺でタイミングを見計らって種を出さなきゃならん……今も嫌な感じはひしひしと感じてるから動きを止めようものなら食い散らされるだろう……他の奴らが動きを止めてくれるのを待つしかねえ。
「くらえ【獣災】……これがお前が喰ってきた奴らが遺した黒砂だよ……!!」
黒い砂が四方八方から【獣災】めがけて襲いかかる、でもな……触手に防がれちまってる。あれじゃダメージは通らねえ……。
「かかったな……今だぜ【五碧】」
「感謝する盟友……仇よ我らが血脈の深淵をお見せしよう……【碧き深淵】」
青い光が空間を満たした、その光の発生源は奴らの持ってる青い武器だ。
「碧の武器はただの武具に非ず、我らが祖先……我らが血脈そのもので出来ている」
武器が弾けた……それでどうやって戦うつもりだ……?
「碧が……貴様を断罪する!!」
すっげ……!
青いキラキラしたものが動くたびに【獣災】の触手が切り刻まれ、貫かれ、砕かれ、腐っていく。
マジでなんなんあれ。
胴体にもしっかりと攻撃が入ってる
「はぁああああ!!」
シトリーの攻撃もクリーンヒットしてる。
しかし。
攻撃は当たっているし、ダメージも与えている、でも命には届いていない……そんな気がしてならない。
核を潰せば死ぬってことが核を潰さない限り絶対に死なないってことなのか……?
「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「うおっ!?」
触手が大増量だと!?
まずいまずい、これは流石に捌ききれない。
「本当にキリがないわ……!」
「うぐぅ!?」
「くそっ……多すぎる……」
劣勢か……まだリンゴも出せてねえし……何か手立てはないか……【聖災】の時みたいに猫を引きづり出せれば……あるいは……?
そのためにどうすればいいのか、なぜか分かってしまった。猫と…ネネと繋がっていたからかもしれないが……痛いのは嫌だけどな。
「今から突っ込む、援護してくれ」
「自殺行為だぞ!?なんの意味がある!?」
「何考えてるの!?」
「やめておけ……無駄死にだ」
おうおう、みなさんそろって無理コールですか。
「いいから俺を【獣災】の胴体まで連れてけ。このままじゃ押しつぶされるだけだぞ」
そう言ってから胴体めがけてダッシュした。
幸い、自殺行為でも助けてくれるようで俺へ向かう触手は全部壊された。
「餌が来てやったぞ、口開けろおらあ!!」
思った通り胴体も口としての機能があった、つまり開いて咀嚼して飲み込む。
目の前に巨大な口に飛び込む。
そして噛まれる直前に俺の体は【獣災】へと溶け出した。成功だ……あとはネネを引っこ抜く。
それで【獣災】は弱体化する……はず。




