赤い薔薇
「フリネラ!」
急いでフリネラの後を追いかけていくテオール。
着くと部屋の鍵もかけずにベッドの前に転がっていた。
「フリネラ、大丈夫ですか?」
呼び掛けるが起きない。顔が赤くなっている。どうやら酔っぱらっているようだ。
「フリネラ?」
うっすらと目が開く。
「うーん……ルオールか?」
「テオールですよ。今、水を持ってきますから」
立ち上がろうとすると
「テオール……」
甘い声で抱きつく。
「ちょっ……フリネラ!?」
「私みたいながさつな女は嫌いか?」
少し声が沈んでいる。
「嫌いではありませんよ」
「酒豪だぞ」
「はい、いつも飲み比べで負けてました。盛り上がって楽しかったですね」
「素手で大きな獣を倒したぞ」
「そうですね。そのおかげで野営では食事に困りませんでした。残った骨で煮込んだスープは絶品でしたね」
フェリージェの料理で唯一これだけは美味しかった。他は全滅なのに。
「お見合い相手に逃げられた」
「あれは話が盛られ過ぎですね。おそらく緊張で食事も話も上手くできなかったのでしょう?それに相手の男性が断られた腹いせに嘘の話をばら撒いた。ほら、あなたは何も悪くない」
「ふっ、ぐすっ……」
「あなたは皆の為に戦う勇気のある強い女性です。そこは昔から変わっていません。私は尊敬していますよ」
「テオール……」
本当はこんなに繊細な人だとも知っている。それは自分だけが知っているだけで良い。
「では、私は食堂に戻りますね」
「嫌だ。私から離れないでくれ」
フリネラに先程より強く抱き締められる。
こんなに甘えるような人だったか?
「私も男です。これ以上は保てません」
想っていた相手だ。その気持ちは今も変わらない。
「嘘だ。知っているんだからな!魔法院の女性と良い仲だと。他の隊員達が話しているのを聞いたぞ」
「は……何ですか?それ」
それこそ何の話だ?
「薔薇園でプレゼントを渡していたと」
「薔薇園……?プレゼント……ああ!その女性は妹です。本当は任命式の後に渡そうと思っていたのですが、バレちゃいましたね」
少し待っていて下さいと言って部屋を出ていくテオール。
戻ってくると、きれいな包み紙の箱を少し照れながら渡される。
「個人的なプレゼントなのですがどうぞ開けてみて下さい」
「……」
言われた通り開けてみると、そこにはキラキラと光る赤い薔薇のブローチが入っていた。
「これを私に?」
「はい。女性へのプレゼントが思い付かなくて妹に相談したいたんですよ。後は妹に魔除けを施してもらったのです」
「う……ふえ」
また泣き始めるフリネラ。
「どうしたのですか!?何か気に入りませんでしたか?」
焦るテオール。妹には『これでバッチリよ!』とお墨付きをもらったのだが。
「違う。男性からこのような贈り物をもらった事がなくて嬉しくて……」
何だ。そういう事か。
「良かった。是非、明後日の任命式にはこれを付けて出席して下さい」
「ありがとう」
ようやく笑顔を見られた。
テオールが食堂に戻ると隊員達が戦々恐々としていた。
「隊長、フリネラさんは……?」
「酒に酔って後は寝てしまった」
「良かった。何か気に障るような悪い事を言ってしまったかと思いまして」
その通りだがフリネラがフェリージェだと言っても信じてもらえないだろう。
「大丈夫だ。ただ、明日稽古相手になる者は気を付けろよ」
「それって良くないじゃないですか〜!」
翌日、第2番隊陸部からは悲鳴が聞こえてきたと言う。




