フェリージェ
こちらは『赤き獅子フリネラ~隊長と部下が生まれ変わって逆転しました~』をもとに、少しアレンジを加えたお話です。物語の世界を楽しんでいただければ幸いです。
激しい雨が二人を打ち付ける。その中をケガを負った部分の血が雨と一緒に流れていく。
「ここまでだな……」
「隊長!今、救護班が来ます。もう少しの辛抱ですから」
ルオールは傷を押さえ、冷たくなっていく手を握る。
「ルオール、後は頼んだぞ……お前ならで、きる」
そう言って弱々しく微笑みながら握り返す手。
「隊長!!」
その言葉を最期に、帝国の赤き獅子ことフェリージェは永き眠りについた。
フェリージェ・フォン・テスミール。女性ながら、帝国騎士団団長兼第1番隊隊長を務めていた強者。戦場に揺らめく炎のような赤い髪に金色の瞳。その姿は一度見たら忘れられない。敵はその名を聞いただけでもふるえあがるそうだ。「赤き獅子」とは外見からもだがその尋常ではない強さから呼ばれるようになった。だがもうその姿を見る事はできない。
「隊長……フェリージェ」
動かなくなった体を抱き締める。
涙は雨と共に流れ去った。
それから何十年経っただろう。
ある村の森の中――。
「隊長!」
「何だ?」
隊長と呼ばれた男、テオール・フォン・レニー。二十代ながら第2番隊陸部隊長を務めている。
「近くの村人に話を聞きましたがやはりこの付近は魔獣の出現が多いそうです」
「そうか……」
「あれ?隊長、その花は?」
「ああ、墓参りだよ」
「そうでしたね。ここは……」
この場所にはあの英雄・フェリージェの大剣が墓標代わりに刺さっている。嘘か誠かその剣はフェリージェの死後、「人生の最後は故郷で暮らしたい」という言葉を叶えるように一人でに飛び、ここの森に来たという。しかもこの剣、誰も抜く事ができないらしい。試しに抜こうとした村一番の力自慢の男がいたがびくともしなかったそうだ。そしてあのフェリージェの剣という事で御神体としてありがたかった老婆がきれいにしていたがその老婆もいなくなってしまった。今は蔓と草に覆われている。
「俺もフェリージェくらい強かったらな……」
「俺はもう少し見回りをして来ますね」
「ああ」
テオールにとっては墓参りというよりは願掛けのようなものだった。どうかこの国を守ってほしいという。それに何だか懐かしい気がするのだ。
そんな事を考えていると近くに赤い髪色の少女が立っていた。妹と同じ10歳くらいだろうか?
「お嬢さん、ここの近くはこわい獣がいるからお家に帰った方が良いよ」
テオールが優しく言うと少女が振り向いた。
「……!」
赤い髪色に金色の瞳――。
最初は薄暗くてよく見えなかったがこの色の組み合わせは話に聞いたあのフェリージェと同じ。満点の星空を宿したような瞳はとてもめずらしく帝国でも他の国でも滅多にいない。
「君……」
「この剣は誰にも抜けないとは本当か?」
驚いていると構わず少女が聞く。
「あ……ああ、使っていた本人にしか抜けないと聞いているよ」
少女は深く刺さっている剣をじっと見ると柄に手をかけた。グッと力を込める。
「ハハハ、お嬢さんの力じゃ……」
ブチブチ……ズボッ!
抜けた。
「!!」
信じられない。あの大剣を少女が抜くとは。それも本人にしか抜けないという剣が?嘘だろう?そんな事をぐるぐると考えているテオールを余所に少女は剣をブンッと振るうとそれまでくっついていた蔓と草をきれいに落とした。
「お、お嬢さん……?」
「来るぞ!」
何かを感じた少女が叫ぶ。
そのタイミングで魔獣がこちらを目指して駆けてきた。とにかくこの子を守らなくては!腰の剣を抜き構えていると何と少女が先に大剣を構え、魔獣目掛けて駆けていくではないか。
「危険だ!逃げろ!」
そう言ったのも束の間、大剣を振り回し魔獣にヒットさせ「ギャウン!」吹っ飛ばした。
「ふぅ、久しぶりに振るうと重く感じるな」
大剣の勢いで魔獣は近くの木を何本も倒し、最後は岩に当たって死んだ。先ほどから何が起きているのか分からない。少女が剣を抜き魔獣を倒した。少女が?一体何者なんだ?
「お嬢さん、お、お名前は?」
「私はフリネラ・フォン・テスミール。人に尋ねる前にまずは自分が名乗るべきでは?」
「これは失礼しました。私は帝国騎士団第2番隊陸部隊長を拝命しておりますテオール・フォン・レニーと申します」
目を合わせ膝を折って挨拶をする。
「失礼した。隊長殿であったか、邪魔をしてすまぬな」それにしても少女でありながら年上の大人のような話し方をする子だ。つられて敬語になってしまう。
「いいえ、助かりました。でも次からは危険ですからすぐに逃げて下さいね」と握手をした瞬間、電撃のようなものが走り様々な映像が頭を駆け巡る。戦場を駆け、共に戦ってきた日々、そしてあの日の出来事――。
懐かしい面影が重なる。
「ルオール?」
「フェリージェ……隊長?」
二人でかつての名前を呼び合う。どうやらフリネラにもあの映像が見えたようだ。
「テオール、もしかしてルオールの生まれ変わりであったか?」
「その様ですね。隊長も」
フリネラが剣を抜けた事もこれで納得がいった。
そこに見回りから戻って来た隊員が話に入る。
「あの……お話中失礼致します。隊長、こちらのお子さんは?……って、剣抜けてる!?」
「ああ。すまん、すまん。とりあえず落ち着け。こちらの方……この子は」
何と言ったものか。前世があのフェリージェなどと言っても信じてもらえないだろう。
「すみません。入隊志望者です。」
「「え?」」
少女は軽く言ってのけた。
「この剣を抜けたのは……きっとイシュミル神のお導きでしょう」
イシュミル神とは軍神・戦いの女神の事だ。嘘だらけ。でも本当になるかもしれない。




