ノエルは仮病を使っている。
今日も朝がやってきた。
滲んだ視界が、少しずつ鮮明になっていく。
起き抜けの頭の重さも、身体のだるさも抜けていく。
嫌だ。
このままだと、起き上がる理由が出来てしまう。
未だに滲んだ視界の中に、白いものがちらりと侵入してきた。
それはどんどん大きくなって、そして。
額にふにゃっと当たった。
「体温、低めです。ノエルさん、大丈夫ですか? 何か欲しいものはありますか? 水、持って来ましょうか? もっと小声で喋った方がいいですか?」
本格的に視界の焦点が合ってきて、ぼやけていた輪郭が鮮明になった。
ガーネットがボクの顔を覗き込んでいる。
心配そうな顔してる。
普段なら、本当に疲れていたとしても「大丈夫だ」とか言って、起き上がってた。
だけど、今のボクは……。
「うーん、まだ辛そうですねえ。今日もお休みでしょうか」
返事をしあぐねているとガーネットは自分で納得しちゃったみたいで、ボクの頬をすりすり撫で始めた。
……優しい。
本当に優しい手つきだった。
「ごめん、ガーネット」
方向の定まらない謝罪に、ガーネットは微笑んで首を傾げた。
「どうして謝るんですか?」
また、言葉に詰まった。
だって、ボクは、身体が疲れている訳でも、患っている訳でもない。
「ふふふ。変なノエルさん!」
ガーネットはボクの両頬を人差し指でつんとして、立ち上がった。
ベッドについていた傾斜が戻って、気付かない間に入っていた身体の力が抜けた。
水平のベッドは、何故かとても寂しかった。
ガーネットは机に鞄を置いて、ノートや本を詰めている。
すっかり学生が板についちゃってるな。
でもその中身は、芯の部分はやっぱり変わっていない。
こいつは、今も昔も変わらず、優しい女の子のまま。
そして、そのままで、新しい世界に触れて、新しい人と出会って、そして恋をした。
誰が責められるって言うんだよ。
ボクがわがままなんだ。
ボクがバカなんだ。
ボクが、最低なんだ。
ずっと誤魔化してきたけど、今はもう、分かってる。
ボクの底に沈んでた気持ち。
「ガーネットが自由に生きられるように支える」なんて立派な言葉とは、全く逆の気持ち。
寝返りを打ってバルコニーの方を向くと、太陽の光がボクの目を焼いた。
どうせなら全身焼き尽くして、消し炭にしてくれたらいいのに。




