すごく大胆なことを言うなあ、この人。
音楽に合わせてステップステップ。くるくる!
楽しい。精悍な人がぐいぐい引っ張ってくれて、私はただ風に合わせて飛ぶみたいに動くだけ。
精悍な人の肩越しに見ると、私たちと同じように皆がくるくる回ってる。
なんだろう、これ。私、見たことがある。
これは確か、私が昔、水辺で見た物。えーっと、なんて言うのかな。
女神さまの引き出しと、私の記憶によると。
そうだ。
これは、蚊柱。
さなぎから羽化した時に見た蚊柱にそっくり!
「どこ見てんだ?」
精悍な人は私をぎゅっと引き寄せて言った。
「きょろきょろせずに、俺の顔を見てろ」
「はい、分かりました」
言われた通りに精悍な人の顔を見る。
うーん、踊るのっていい。この距離だと、色々感じられる。
吐息。匂い。体温。全部、私が虫の時から惹かれてきたもの。
大好きな人間を、こんなに間近で感じられる。
「変な女だな。何笑ってんだ」
「だって、楽しいんです。踊るのが」
「なんだそりゃ。踊れれば俺じゃなくても良かったって言うのか?」
「はい。そうです!」
「本気かお前?正直すぎるだろ」
まずい!油断しすぎたかも。
「ごめんなさい。ウザ……失礼だったでしょうか」
「いいさ。新鮮だ、てめぇは。思ってたのとは全然ちげぇけどな」
「ちげぇ?」
「お前は、上級貴族の女ってより――ガキだ」
「ガキ、ですか?」
「昔、俺の領地にお前みてぇなガキが居た。遠慮なく近づいてきて口の中に野いちごを突っ込んでくるような奴だった。そんな感じだよ、お前は」
何それ、気が合いそう!この人と仲良くなったらその人に会えるかな。
「その方とは今でも会うのですか?」
「……仲は、悪くねぇ。だが、変わった。成長してお互いの立場ってのを理解したんだ。俺が上。そいつが下。そいつは、俺を敬うようになったよ」
「なら、私もあなたを敬った方がいいですか?」
精悍な人は目元を緩めた。
「てめぇで決めろ」
えー、でも、この人のこと、あまり知らないし。
「じゃあ、私たち、もっと知り合わないと、ですね。だって私、あなたのお名前も知りません」
「……名前なんて、今はいいだろ」
「うーん、でも困りませんか?男性の方、だと、周りの人と区別がつけられません。なんて呼べばいいですか?」
「それもてめぇが考えろ」
「じゃあ……えーと……」
えーと、んーと。
何にも出てこない。
こういう時には女神さまの引き出しが役に立つよ。
名前がわからない人の呼び方は?
「えーと、『名無しの権兵衛』さん?」
「……ふ、ははっ、なんだそれ!ゴンベって、どこの国の響きだ」
「え。ダメですか?」
名前が不明の人はそう呼ぶって、女神様の引き出しに教えてもらったんですけど。
「ダメじゃねぇ。名も無きゴンベ。気に入った――」
精悍な人は私を強く抱き寄せて、止まった。
「お前のことも、な」
え? どうしたんだろ、ゴンベさん。
まだダンスは続いてるよ。みんな私たちの周りで踊ってる。
ぎゅっと強く抱きしめられて、少し、苦しい、かも。
「ガーネット。お前には価値がある」
やだ。目立っちゃうの困るよ。周りが私と、精悍な人を見てる。
「俺のそばに居続ける権利がある」
顔がとても近い。
「このウエストリアで、俺の隣を歩ませてやる」
瞳に私が映ってる。
「だから、俺のモンになれ」
ん?
ああ、そういうこと!やっとわかった、この人の行動。その意味!
「あなたの言いたいこと、すごーく、わかります」
私は、背伸びして精悍な人の耳に口を寄せた。
「あなたは私と子どもを作りたいんですね」
「ぁは?」




