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憂鬱が吹き飛ぶ訪問

 わたし、メリー。都市伝説の中ではメジャー的な存在なのに前回ターゲットに選んだ男性がとんでもない珍しい個体を引いてしまい少し、…かなり面を食らってしまったの。そして、次に選んだターゲットの女性も彼に負けず劣らずの珍しい個体を引いてしまい非科学的存在ながら物欲センサーの存在を信じるようになってしまったわ。この世って面白い。

 その女性もまた人間たちから恐怖に慄きなりふり構わず逃げていく存在のわたしを物好きここに極まれりを体現したかのように監禁しようと企ててるの。見世物小屋ではなく、重すぎた愛ゆえにね。

 不覚にも慣れてきたこの感じにわたしは疎ましく思っても嫌な感じがしなくて、だからもう少しだけ彼女たちに付き合うの。本当にわたしったら甘くなって…、都市伝説の名折れだわ。

 帰路の途中、急に降り出した水っぽい雪。見上げて灰色の空を睨んだところで降り止まず、やり場のない気持ちを肺の底から吐き出した。

 コートに積もった雪を払う傍ら鞄の中を漁る。払い終わるのと見付ったのはほぼ同時で悴む寸前の手で鍵を開けた。冷えた体に身震いしてそそくさと部屋の奥に歩を進める。テーブルに置かれたリモコンのスイッチを押し、エアコンの起動音がしたのを確認してから女は閉め忘れていた鍵を閉めるべく踵を返した。

 「わたしメリーさん。今あなたの目の前にいるの。」

 見開いた目が元に戻ってくれない。出そうで結局で無かった驚愕の声を咀嚼して飲み込んだ。

 「ねぇ。一緒に遊びましょうよ。」

 女が動かぬとも人形は床から少し浮きそのまま距離を縮めていく。とても弾んだ声で、とても楽しそうな声を鳴らし距離を縮めていく。




 「遊ぶのは私も貴方も体を温めてからね。」

 すれ違いざまに言われた言葉。メリーが体ごと反転して女が向った先を見詰めた。

長い髪が揺れ、施錠する音が後に続く。女が下にいるメリーを目で確認せず、攫うように体を持ち上げふかふかのソファに座らせた。

 ソファに座らせた相手と視線を合わす為に屈む。透き通る様な金色の髪が冷たさと湿り気を帯びているのが指先から伝わる。双方表情を変えず、今度は頬に指を這わせてみた。こちらも氷のように冷たい。

 「ちょっと待ってて。」

 一言言い残し女は姿を消した。そして、次にメリーの前に現れた時には手に白いバスタオルを持っており、それで多少乱暴だが濡れた相手を拭き始めた。自分も雪で濡れているのに着替えず、滅多に来ない来訪者の世話をする。

 漸く暖房が利いてきたのか暖かくなる室内。粗方水分を拭き去り、乾き始めたメリーに女の目が細まった。

 「これで風邪ひかない。」

 「変わりにあなたが風邪をひいてしまいそうね。」

 珍しく出た相手を労る言葉に女の思考が一気に停止した。思考が停止すると共に行動も凍りついた。

女の頭では今起きた出来事を超高速で把握と処理をしており、心は理性を待たずに動き出したいと暴れ出している。そんなのを知ってか知らずかメリーは無表情で女を見続けていた。そして数分経ち、女はその美貌を余すことなく表に出した極上の笑みでソファに座る怪奇現象の塊に微笑んだったのだ。


 「可愛すぎる。今直ぐに監禁したい。」


 恐い台詞を吐きながら。

 思えば怪奇現象相手に随分と調子に乗っている発言をしている。そんな相手にメリーの顔は真顔をキープ。一人勝手に悶え苦しみフローリングで蹲っている女の見る視線なんてまるで生ごみを見る様なものだ。

 「相変わらず、恐ろしい子…。私いつか貴方に萌殺されるかもしれない…っ。」

 「わたしは違う方法で命を落として欲しいけど。」

 「つまり、幸福過ぎてしあわせ死するってことね!?」

 「お願い、あなたもちゃんと会話を成立させることを覚えて。」

 先程ではないけれど不服の態度を示すメリーに女は明るく謝罪とは程遠い謝罪の言葉を紡ぐ。止まらない謝罪の言葉が遠くなったと思えば、着替えが済んだ女が未だに謝罪の言葉を言い続けていた。程無くメリーの思考内には救急車のサイレンが思い浮かんだ。

 「体の芯まで冷えてお腹も空いたでしょう?」

 「分かっているならさっさと出して欲しいわ。」

 「かしこまりました、全ては貴方様の思うがままに…。」

 「恭しく御辞儀する暇あるなら早くして。」

 ピシャリと言ったのに花を舞わせながらキッチンに向う女。メリーの愛らしい眉が潜まるように見えても仕方が無い。

 サラサラ長い髪から覗き見えるうなじの色香。伏せた瞼から伸びる睫毛の長さ。ふっくら潤いを帯びたセクシーな唇。豊満な胸でなくともスタイルの良い体格はモデルである女の強みであり武器であり商品である。ファッション雑誌やCMで持て囃される美貌が今となっては、

「もうちょっとで出来るから待っててねぇん。」

 奇奇怪怪、喋り踏ん反り返る人形になよなよ。これ以上に幸福な事など無いと言わんばかりの喜びよう。シェフお墨付きのフレンチだって男を悩殺する一つであるというのに男に振るわず極稀に来る嬉しい珍客に持成していた。

 程無くしてテーブルを埋め尽くす料理の数々は明らかに女一人と人形一体の胃袋に収まらない量である。しかし、女は相手が残そうが食べなかろうが関係ない。メリーとのささやかで幸福な時間が過せれば一向に構わない、構いやしない。今も尚、料理に手を付けているのはメリーだけで女はそれを見ているだけ。

 「今日はりきって沢山作ったから遠慮せず食べてね。」

 「全部は食べきれないわ。」

 「いいの、残しちゃって構わない。貴方が美味しく食べてくれればそれで幸せだから。」

 頬杖をして料理を食べる光景に女は酔いしれた。男達を挑発する深く暖かな谷間。それは絶賛目の前にいる人形に向けられている。艶かしい目線は相手が料理と料理を咀嚼する口元を飽きずに往復。頭の中にある思い出図書館に大切に大事に保存されるだけでは無く、モデルを撮影するカメラマンの如きノリと動きでフィルムに収めていった。アングルから照明、光の当て方など本格的。流石、実際に撮られている側はどの様にすれば美しく綺麗に撮影出来るかを熟知している。

 「こんな沢山あるからデザート食べる前にお腹いっぱいになっちゃじゃない。どうしてくれるの?」

 「はあん…。そんな理不尽さもイイ!! とっても素敵っ、こっちに視線頂戴!!」

 結局あれこれ言うものの甘いものは別腹らしく嬉しがる気持ちを抑え込み手作りチーズケーキを頬張るメリー。此方に悟られまいと食べる姿にまた悶絶してカメラを持ったまま震える女の図は奇妙なものであった。




***




 大体同じ時期に出会ってしまったイレギュラーな存在(×2)。居心地は悪くないが悪い。何を言っているか分からないだろうがメリーにとっては正にそうなのだ。

 けれど初めて出会った不思議で可笑しな存在。彼らと遊べば当分の間、暇を玩ばずに済む。自分の気が済むまで、つまらなくなるまでメリーは男と女の家を行き来した。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 この作品は別の投稿サイトに投稿していた作品を修正したものになります。はじめましての方は、はじめまして。この文章どこかで…って思った方引き続きよろしくお願いいたします。

 では、異種間恋愛が三度の飯より大好き担々狸の作品今後ともどうぞごひいきに。

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