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待ち望んでいた訪問者

 わたし、メリー。都市伝説の中ではメジャー的な存在なのに偶々ターゲットに選んだ男性がこともあろうか怖がる素振りを一切見せてくれないの。それどころか人間にとって不気味でいつ殺されるかも分からない恐怖から拒絶反応の起こすのが当たり前の私に求婚を申し入れてくるの。

 今は多様性を重んじる時代だけれど、流石に先取りし過ぎてるわ。でも、打算的に…打算…、そこは要検討ね諸々一旦保留にしても、ここまで真直ぐに私を見つめ相手する人間ははじめてだからもう少しだけ彼に付き合ってあげることにしたの。

トゥルルル トゥルルル


 無機質な着信音が響き渡り、その数秒後音は消えた。

 「…もしもし。」

 『わたしメリー。今あなたのマンションの前にいるの。』

 ブツンと切れた通話。感情が籠らない電子音だけが男の鼓膜を震わす。徐々に早くなる呼吸と鼓動。乱れ始めたそれを気持ちで整えていれば再び鳴り始める着信音。三回鳴り、カタカタ目標が定まらない指で通話ボタンを押した。

 「も、もしもし…。」

 『わたしメリー。今あなたの部屋の前にいるの。』

 男は通話を切らずに玄関に向って駆け出した。相変わらずいう事を利かない手が慣れ染み込んだ行動が出来ずにいる。ドアノブを握り締め、不器用に響く鍵の解錠音、扉を開け放ち辺りを見渡した。だが影も形も誰かが訪問した形跡も無かった。男が何度も左右を確認している時、三度鳴る着信音。だが今度の音は一つでは無い。


トゥルルル トゥルルル

 トゥルルル トゥルルル


 重なり刻む電子音。手の中で鳴るものと、男の後ろで鳴るものが静かな空間に反響する。

 恐る恐る振り返る。すると通話ボタンを押してもいないのに聞える声は確かに電話口で聞いたのと同一。弾む高い声質はまさに子供のもの。

 生唾を飲み込み、錆付いた時計の針の如き動きで振り返る。

 「わたしメリー。今あなたの目の前にいるの。」

 背筋が一気にゾッとした。男の目は通常より下を見下ろし、目を逸らせず向け続けている。詰まる息、手に汗が滲み、いつの間にか閉じた扉に背を預け少しずり落ちた。

 アンティーク調の気品良いドレス。陶磁器に似た肌に赤く染まる頬が幼さを強調させ。真紅の唇、日光を透過する金色の髪、深く煌めく青い瞳がまるで宝石のように輝いていた。浮世絵離れした美しさにそこはかとなく漂う不気味な空気。赤ん坊と同じかそれより小さい人形は音も立てずに男の部屋に侵入していた。

 「くすくす。」

 恐怖に竦み上がり声も出ない男を見るや大層御機嫌になっている様子。両手で口元を押さえ上品さと子供らしさを兼ね揃えた仕草で目の前の男を笑う。

 「ねぇ。一緒に遊びまし、」

 「ぃよろこんでぇえええ!!」

 基本表情を変える事が出来ない人形だが、この時ばかりは苦々しく非常に冷め切った視線を男に送っているように見えた。それとは真逆に男といえば顔はおろか体全体で喜びを現している。引き攣ったテンションの高い笑い声にまた人形の顔が不快感を示していた。心なしか失望と疲労が入り混じっているようで人形は頭を抱えた。

 「ん~~っ!! その仕草もがわいいぃい!!」

 男の非礼に無礼を咎める暇すら与えてもらえず人形は男に抱き抱えられた。

作法に習い人形の腰を己の腕に腰掛け、落ちぬようバランスをとり、失礼の無い扱いでリビングに向う。男は既に自分が相手に対し失礼な事オンパレードしているが気付いていない。それどころじゃない。久々に来てくれたお客さんを持成そうということで頭が一杯らしい。

 「ここ最近、君に会えなくてとても寂しかったよ。」

 整った顔付きに甘いマスク。背広を脱いだが未だにシャツのボタンとネクタイはしっかりしている格好。溢れ出るセンスとブランド臭が男の会社での地位と男の年収を物語る。テレビに映る女優から大富豪の令嬢、素朴な女性に年場のいかない幼子から求愛を求められるモテる要素満載の男がテーブルを挟んだ向かい側に座る小さな珍客に現を抜かしていると誰が知り得ようか。

 熱が籠る吐息。慈しみが宿る眼差し。一身に寵愛を捧げる姿に後悔の念は一切見えない。

 「俺が出迎えるまで中に入っちゃ駄目って言っただろ?」

 「あなたの許可が無いと駄目?」

 「んっは~ん!! そんな事ぜぇんずえぇえんありませ~ん!!」

 「………。」

 垂れ下がった目元に伸びきった鼻の下を曝す男にメリーが無言で出された紅茶を口にした。

 悔しいが男が持成してくれるものは全ておいしい。庶民が手を出すのを躊躇う値段の茶葉だって水のように出してくる。手間暇かかる準備だって嬉々として行い、嫌な顔一つしない。多寡が人形一体に此れほどまで淹れ込み、…恐がらない人に逢うのは珍しい。

 「さあっ! 今日こそ俺の花嫁になりたまえ!!」

 賑やかに踊るティーセット。少し飛び散った紅茶の染み。勢いよく出された婚姻届。

きっちりかっちり男の分は既に記入済み。何故か嫁の項目も判子を残し記入済み。(男には当然見えないであろうが)メリーは青筋を立てた。テーブルに身を乗り出し、無邪気さを忘れない少年の瞳で見詰める男相手に心の波は立たない。立つ気配すら皆無。

 メリーが持つ摩訶不思議な力に因って婚姻届は粉砕された。

 「こんなくだらないものはいいから。早く新しい洋服ちょうだい。」

 「はぁ~んっ、そんな冷たい君も素敵だぁあ!! 俺の心を掴んで離さない悪い子ちゃんめ…っ。」

 勝手に惚れ直した男を顎で扱いメリーは所望の品を要求。

 ハートを鬱陶しく撒き散らしながらリビングの端に重厚感たっぷりに鎮座するクローゼットの扉を開けた。開け放った途端、溢れるフローラルな香りと女の子らしい色合いの数々。細かな細工から裁縫まで手を抜かず拵えられたドレスの全ては人のサイズではない。

 男が鼻歌交じりにドレスを選んでいるが視線だけは本気で真面目に動いている。シャッシャッと音をたて吟味している男の足元にメリーは音も無く近付いた。

 「偶には可愛らしいものをお召しにならないかい。」

 「いやよ、そんなピンクピンクしているやつ。目が痛いじゃない。」

 「うーん。君になら素敵に着こなしてくれると思うんだけどなァ、残念。」

 「わたしはあなたのお人形さんになる気はないわ。」

 甲斐甲斐しく視線と高さを合せ指定されたドレスを人形に合せる男。暫し無言の時が流れ、男がドレスをあてながら朗らかに微笑んだ。

 「俺は君を人形だと思っていない。人形以上の存在と扱いをしているつもり…、」

 鏡越しに見える男の手がドレスごと人形の体を包み込む。逃がさないように、逃げれないように柔らかく暖かい腕の檻に閉じ込めた。無機質な宝石が鏡から後ろにいる男を見ようと振り返る。ぼやけた視線の先に見えた女性とは違う唇に人形の心が動いた。

 「気色悪い。」

 「うごふっ、またフラれてしまった。」

 小さな唇を奪う予定が特注で頼んだドレスとキスをした。でも男は全然気落ちせず、愛おしい人形のドレスを選び続ける。久しく見ていなかった愛らしい行動に心底満足したらしくニヤニヤ気持ち悪く笑い選び続けた。

 無論、再びメリーがドレスを無慈悲に男の顔に当てたのは想像し易い。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 異種間恋愛が三度の飯より大好き担々狸の作品今後ともよろしくお願いいたします。

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