09 スカラベと生産その2
「ところで、スカラベさん、あなたは何をするためにサンプルスフィアを作ったのですか?」
「金属を溶かした時に発生するとても軽いガスを集め、インパクトで圧縮するためだ。太陽のような光が生まれるらしい。」
「凄いことを考えますね。インパクトで圧縮とかいうの、ちょっとこの赤い液体一滴を使ってやってみてください」
少し道具を片付けたあと、サンプルスフィアに赤い液体一滴を捉え、それを中心に正四面体の頂点上にインパクトを放った。一瞬部屋が強烈な光に包まれた。そして、視界が暗転した。ドスンと衝撃が背中に来た。倒れてしまったらしい。
「スカラベさん、スカラベさん、大丈夫ですか?」
フリカッセの声が聞こえる。魔力感覚も恐ろしく強烈な魔力流を捉えてしまったらしく、黒落ちした。
「目が見えないし、魔力感覚も使えないが、大丈夫だ。」
「それは大丈夫とは言いません。魔力感覚を一旦切って、再び使ってください。」
魔力感覚を一旦停止する。何も感じられない恐怖と安堵が混ざり始める。魔力感覚を使う。全方位の視界によって、一瞬頭が焼けるような熱さを感じる。人間の頭はすごいもので、すぐにその感覚に慣れる。サンプルスフィアに残った白い粉を知覚する。そして、ゆっくり立ち上がってフリカッセを見る。
「心配をかけてすまん。また見えるようになったぞ。」
「本当に恐ろしいことをしますね、スカラベさん。神官として長いこの私でさえ、目が眩むような実験を行うとは。」
「今指示したのはあなただろう。ところで、こういった時に目や魔力感覚を守る道具は作れないか?」
「作れると思われますが、そのレシピはこの神殿にはありません。ところでこの実験、この神殿の若い神官の修行に使わせてほしいのですが、どうでしょうか。魔力を感じる訓練に使えそうです。」
「後輩の頭を弾けさせる気か。他の液体の圧縮も行えるならいいだろう。この赤い液体しか行わせてくれないなら、だめだ。」
「もちろん、この神殿にあるありとあらゆる薬品を提供しましょう。」
「ところで、残ったこの白い粉を調べてくれないか?」
「量が少なすぎます。もう少し、増やさなければ満足に調べられないでしょう。それに、別の生産に使うスキル作成権の数が足りません。レベル上げをしましょう。この部屋にあなたの杭を打ってください。」
杭を打つと念じると、杭が現れ、床に刺さった。杭にはさわれなかったし、触ろうとした手がすり抜けた。他のものとは明らかに違う魔力の流れが見えた。
「打ち込めたぞ。」
「それでは手を握ってください。」
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気がつくと、知らない森の中にいた。杭を打つと念じた。
「ここは、どこだ?」
「都市から少し離れた森です。手長猿、虫、鳥、豹などが襲ってきます。ここでレベル上げをします。」
瞬間、恐ろしい数の攻撃が殺到したが、フリカッセが杖の一振りで直撃コースのもの全てを打ち払った。私は動転して前後左右それぞれ私達から100m離れたところに50重ねたインパクトを撃ってしまった。飛んできた木や生き物の破片は私達の半径10m前後で止まった。
「インパクトって攻撃用のスキルとして使いづら過ぎませんか?」
フリカッセが呆れた顔で言った。
「定点発動型の爆破スキルとしてはすごい出力だと思いますが、爆破する角度を制限できないのは欠点としか言いようがないです。安全に使うためには恐ろしいほどの研鑽が必要です。次に覚えるスキルはそれを制御できるスキルにする必要がありますね。」
「次は前方1km地点に800個重ねて放ってください。こっちに飛んできたものは全て撃ち落とします。」
「わかった。 5、4、3、2、1、0」
前方に轟音が鳴り響き、フリカッセが破片を全て撃ち落としたのが見えた。
「それでは前方に進みましょう。壁がでてきたら全て爆破してください。」
「そうしよう。」
前方に100mほど進んだとき、フリカッセが呟いた。
「スカラベさんは太陽よりも爆発が好きなだけなのではないでしょうかね。焦がす、燃やすではなくただの爆発だと、太陽との接点ってほとんどない気がします。」
さらに100m進んだとき、ふと下を見ると絶壁になっていた。球状の爆破痕の底は、どの獣もいない安全地帯となっていた。
「降りましょう。」
「どうやって?」
「スカラベはインパクトを使って安全に降りてください。わたしは飛び降ります。」
足裏にインパクトを発動させてゆっくりゆっくり中心に行くと、フリカッセが飛び降りて、一跳ねで中心まで飛んだ。
「ここで杭を打って神殿に戻りましょう。」
そういうと、フリカッセはすぐに消えていった。私も杭を打つと念じて、神殿の杭を選択し、神殿に戻った。
黒落ちとは
昔のカメラで太陽を撮ると黒い穴が映る現象。