【20】元男、誘い出される(笑)
日本の警察はたいしたもので、あの後、十分もかからずにパトカー数台が騒々しくサイレン鳴らしてやってきて、大勢の警官がぞろぞろコンビニ内に突入してくるわで、それはもう大騒ぎになった。
なのに強盗犯は俺の改変でぶっ倒れたままだったので、せっかく来た警察の人は虚しく空騒ぎ。そのほとんどがトンボ返りすることになった。
せっかく駆けつけて来てくれたのにすまんかったです。
それでも数名の警官は残って当たり前のことながら現場検証を始めだし、床に刺さったままだった強盗犯のナイフも丁寧に回収され、俺たちは俺たちで直接の被害者ってことで事情聴取が始まってしまい、さっさと帰るなんてことは無理な状況になってしまった。
それぞれが同じようなことを何回も聞かれるから面倒でしかたない。
ちなみに犯人はすでにパトカーで連行されていったのでもういない。運ばれてく最中も目が覚めることはなかったから、俺の改変ってマジ強力なんだなって改めて確信が得られた。
なんにせよ、あんな奴と一緒にいたくもなかったし、これで一安心ってところ。
「茂木さんはとりあえずこんなところか。また後で話聞かせてもらうから。じゃあ、次は、あなたにも、もう一度お話を伺わせてもらいますね?」
「は、はいぃ……」
コンビニの店員さんや、居合わせてしまった俺は、駆けつけてきた警官からの寄ってたかっての質問攻めがひたすら続く。
事件についての調書を作らなきゃいけないってことで、ナイフで脅されてた高校生男子っぽい店員さんは特に長々話を聞かれてた。彼はこの後も警察署まで連れてかれてまだまだ話が続くらしい。お気の毒さま。
ま、俺もただの客ながら、その時の様子を知る数少ない当事者ってことで、なんだかんだとなかなか解放してもらえなかった。
か弱い女性ってことで早く帰してくれませんかね?
ダメ?
あ、そう。
裏を取るために同じようなことそれぞれに聞いて回ってる感じで、まぁ警察の人も大変だね。
結局、解放されるまでに更に一時間ほどかかった。
勘弁して!
***
「お姉ちゃん! あんまり心配させないで」
「佑奈、パパもさすがも肝を冷やしたよ」
「警察から電話かかってきたときはママ卒倒しかけちゃったわ」
家族からの電話が終わらないでござる。
――それは警察の事情聴取中のできごと。
俺、お約束で女子高校生と思われ、すぐ保護者に連絡して身元確認、ってなったわけ。いや、保護者って……、俺成人してるし。そんなの絶対嫌だった俺は、「私、成人してます!」って、強く訴えたにも拘わらず全く信じてもらえなかった。
まじ家族に連絡なんてやめて!
めんどくさく……、いや、心配かけたくないから。
そう思った俺は、ポーチから免許証を取り出し、どうだとばかりに警官に見せつけ、ようやく納得してもらえた。
なんでそんな時まで免許証なんて持ってるか? それは今回のことに限らず、成人してるって信じてもらえないことが余りに多かったから!
だから身分証明証はいつも持ち歩くようにしてるわけ。
で、ちゃんと納得してもらったはずなのに!
結局連絡された。解せぬ。
泣きたい――。
「ああもうわかったから。いい加減しつこい。切るから!」
ばっさり電話を切ってやったら、今度はLINIEのコメントが止まらない。ああ止まらない。
ピロリピロリとうるさくてたまらない。もう勘弁して。
こうなったらスマホの電源落としてやる~!
***
後日――。
警察から犯人が起訴されたとの連絡があった。余罪もかなりあったらしく、厳しい刑罰になりそうとのこと。
あんなやつ、もう一生刑務所に放り込んどいてください。
ま、無理か。
あの場でなぜ犯人が倒れたかについてもちょっと話が出たけど、極度の興奮とストレスで貧血状態に陥り倒れたのではないかって推測されてるみたい。けど、今後もはっきりした結論は出ないだろうし、これ以上の調査もしないって……。
ま、その場で逮捕されたしね。どうでもいいよね。
倒れた原因、俺だしね。うん、混乱させちゃったみたいですまない。
そんなこんなで、事件後しばらくはコンビニ行くことは自重してた俺だったけど。
のど元過ぎればなんとやらで、一週間も経てば、ぞろ行きたくなってくるわけ。人とは我慢を強いられれば余計それに反発したくなるものなのだ!
それが人ってものでしょ? ねぇ。
例によって夜も八時をまわるころ、そこそこ身だしなみを整え、当然免許証もスマホや財布と一緒にポーチに入れ、俺はついにコンビニへと旅立った。
コンビニには普通に入れた。
ちょっと拍子抜け。ま、そりゃそうか。
客はまばら。時折騒がしい観光客が入ってきてウザい程度で、平穏そのもの。
警官だらけだったあの時をもう遥か昔に感じるわ。
お菓子やコンビニスイーツを適当に見繕い、この前引けなかったくじを引くとしよう。俺の欲しかったフィギュアはまだ残ってるかな?
小さめの手提げカゴに手に取った品を入れ、最後にレジ前陳列棚のくじ景品を見てみれば、まだ欲しかったフィギュアが残ってる! スパイが家族ごっこするやつのフィギュア。俺が欲しいのはもちろん女殺し屋のやつ。幼女はいらない。ピンク髪が被るし、俺はロリコンじゃない。
もうほとんど諦めてたのに、ラッキーが過ぎる。
「これ、おねがい……します。あと、頂点くじ引きます。十回! あ、あの、C賞出るまでとか……ダメ、ですか?」
レジ空いてるし、お金全部先払うから……、ダメ? いやもういっそ、残ってるくじ全部買ってしまう? いや、そんな夢のない、っていうか人迷惑なこと……。
今の俺は大人の男の時と違い見た目は女の子だ。フィギュアのくじだろうがなんだろうが開き直って堂々と引いてやる。
会計してもらってる間もそんなことを考えてたら……、
「――円です。……ではココからくじ十回引いてください。それとですね、出るまで引くというのはちょっと……。回数決めて先払いでお願いします。で、ですね。あ、あのぉ……、後でちょっと話しできないかな!」
「そっ、そですか。じゃ、十回だけで……、って、え?」
人とはなるべく顔を合わさないようにしてるから、急にそんなこと言われてびっくりした。でも、くじはダメか。ケチ~。
「あ、君は……」
改めてちゃんとレジの人を見れば……、あの時の高校生君だった。ナイフで脅されてた子。
なんだ? あの時は大変でしたね~ってお互い労い合おうとでも?
ま、別に……女性じゃないからまだ話しやすいけど。家族みんなから知らない人に付いてっちゃダメって、口を酸っぱくして言われてるんだよなぁ。
「その、急にゴメン! 僕、もう上がりなんだ。ほんの少しでいいんだ。すぐ済むから。だからお願い、この通り」
レジで俺に向かって頭下げて拝んできた。
「ちょ、ちょっと! わかった。わかったからやめて」
はっず!
目立つことやめろっての。まばらとはいえ他にお客もいるし、店員だって一人じゃない。とりあえず、このあと特に用もないし、このマンションの中でならってことでOKしてしまった。
もちろんくじはしっかり引き、九回目でなんとか女スパイをゲットできた。
ギリギリやん……。
でもウレシイ!
***
で、今はマンションのエントランスホールのロビーにいる。ここならコンシェルジュの目もあるし、安心出来る。
「ごめんね、急に声かけちゃって……。その、びっくりした?」
「今更……、もういい。で、なに? この前のこと?」
引きこもり系社会人の俺でも、さすがに高校生の男子くらいとなら何とか会話くらい出来る。出来るとも。
「あ、ああ、うん、そう、そうなんだ。……えっと、あの日は大変だったね。僕、あれから三日続いて警察の人と会う羽目になっちゃった。もう懲り懲り。それで、さ。君は大丈夫だった? 怖かったよね。あの時しゃがみこんじゃってたでしょ?」
「む。別に怖がってなんかないし。ちょっとびっくりしただけだし。……それと勘違い……、してると思うから先に言っとく」
間違いない。君呼ばわりしてるし、俺のこと絶対高校生女子だと思ってるわ。
「わ、私、大人だから。いま二十三歳! 君より年上のお姉さん。わかった?」
ほれ、驚け!
「あ、そうだった。君の見た目でつい。って、また君って言っちゃった。えっとね、一応警察の人から大人の女性だとは聞いてたから。それ以上は個人情報だからって教えてもらえなかったけど……」
な、なん、だと。
「僕、茂木楓太。十七歳の高二。近くの公立高校に通ってる。で、あのさ。出来れば君、いや、お姉さん? の名前も教えて欲しいかなぁ……なんて」
お姉さん? ってなぜ疑問形! 俺は年上だって言ってんだろ。それにしてもこいつ、いっちょ前に色気づいてんの?
だが俺は元男。今は見た目美少女とはいえ、間違っても男、しかもまだ子供の男子高校生に靡いたりはしない!
でもまぁ、名前くらいは教えてやるか。強盗被害者仲間だからな。
「川瀬佑奈。二十三歳。個人事業主! よろしく」
これが俺と楓太が初めて会話らしい会話をした日だ。
ちなみにこの先、また会うかどうかさえ知れない関係でしかない。
以上!




