【21】そうだドライブに行こう!
今日は早起きし、さっさと株トレーダーの日課をこなした。
その理由はなにかと言えば、予てから確認したかった車の運転。やっとそれを試してみる準備が整ったからに他ならない!
GWから三週間以上たち、六月も近い。鬱陶しい梅雨を迎える前には是が非でも確認しておきたかった。
うまく行けば、いや、いくに違いないが――、そのままドライブにしゃれこもうと考えている。窓から外を眺め見れば、多少雲は出ているものの、すっきりとした青空が広がっていて、遠くまで景色がよく見える。
絶好のドライブ日和!
運転するつもりだから服装は動きやすいもの。上はTシャツにパーカー。下は裾が細いタイトなデニムパンツにした。髪は邪魔にならないよう背中で一つにまとめてゴムで括り、運転中は日焼け止めも兼ねベースボールキャップもかぶるつもり。帽子は愛用してたのがあったけど、今の俺には大きすぎだし、ちょっとした臭いや汚れが自分のものだったはずなのに妙に気になり新調した……。日焼け対策は母さんや妹からも散々言われてるし、そもそもスキンケアもちゃんとしろってうるさい。
だがしかし、俺、この姿になってから肌のトラブルっていうの? 腫れるとかむくむとかその他モロモロ、そういうのに煩わされることが一切ない気がするんだけど……、気のせいだろうか?
まぁ一応気にはかけてるけど、俺だし、適当なものだ。
それにしても、改変によって成された状態を維持する力……、もう強制力って言ってもいいくらいで、なんか末恐ろしい気がしてくる。
ついでにこの日のために靴も新調した。持ってた靴はみんなサイズ的にアウトで全とっかえ状態なんだよなぁ……、ツライ。ちなみにドライビングシューズってやつで、靴底は薄目で足裏の感覚が掴みやすく、かかとも丸まってるのでペダル操作で引っかかったりせずとても運転しやすくなる。
運転がらみだと、他にも偏光のサングラスとか指出しのドライビンググローブとか、全て今の体に合わせてオーダーしてたので、全て揃うのにここまで時間かかったってのもある。
ドライブに行くには何かと前準備に時間かかる。女の子がお洒落に時間かけるのに通づるモノもある……かな? う~ん、ちょっと、いや、だいぶ違うか。
ま、こういうのも楽しみの一つ。好きなことをするための努力は待つ時間も含め、何してても楽しいものだよな!
さて、準備も整ったことだし我が愛車のところまで行くとしよう。
外に出てエレベーターで駐車場のある地下階まで降りる。地下は天候に左右されないから俺の車を止めておくにはとても助かる。紫外線や風雨から確実に守れるし、砂や埃まみれにもならない。防犯的な意味でも地下駐車場は大変良きである。
エレベーター出口から車まで少し離れてるから歩く。地下駐車場はこの時期だとまだ少し肌寒さを覚える。
「うん、二ヶ月前と変わった様子はないな」
淡い銀色のボディカバーで覆われた俺の愛車。特に変わったところもなく普通に止まってる。まずはカバー、外さなきゃな。
「う~、体小さくなって余計めんどくさくなった!」
そんなに大きな車じゃないけど、それでも普通乗用車サイズ。身長百五十ちょいしかなく、非力な俺にはかなりの重労働……、ってほどじゃないけど大きなカバーを捲りながら畳むのはマジでめんどくさい。このためだけに人を雇いたくなるわ。
「そうだっ、茂木クン呼んだら喜んで来てくれるんじゃね?」
そんな小悪魔的考えが頭をよぎったが、冗談でもやめとこう。あのくらいの高校男子はすぐ都合よく解釈して、おかしな風に勘違いするんだ。ラノベでよくあるから詳しいんだ、俺。
二分ほどカバーと格闘し、なんとか脱皮に成功した俺の愛車。周りが写り込んだボディの明るい黄色がやたら眩しく見える。
「くぅ~、いつ見てもカッコいい!」
声を出して愛車をべた褒めのピンク髪の美少女。人が見てたら引くレベルだ。
見てないよね?
背が低めの俺でも余裕で手が届く低い天井、かつ全体的にも地を這うようなフォルム。小さい割に車幅のあるボディ。なにより一番の特徴は、エンジンが運転席の後ろにある、いわゆるミッドシップレイアウトってこと。引きこもり系社会人の俺とは正反対の陽キャな見てくれの、余り数も見ないスポーツカー。
これが俺の愛車である。
昔はF1にも出てたらしい、イギリスのロータスが作るライトウエイトスポーツ。まぁ詳しいことは俺もたいして知らない。
この車、今どきの車と違って便利機能は何もついてないし、パワステすらない。当然二人しか乗れない。荷物もたいして載せられない。カーナビも無ければスマホの接続コネクタすらない。ほんと何もない。
父さんにはそんな不便な車はやめて買うならドイツ車にしなさいって言われた。スポーツカーがいいならPrとかBzとかBmとか各社から色々出てるぞと。いや、高校出たばかりの陰キャに外国メーカーの高級車勧めるなっての。
いやまぁ、こいつも決して安くはないけど高級ブランドな日本車と同じか、それより安いくらいだ。だから最初はつまずいたものの、出直しで始めた株トレードで得た金でじゅうぶん買えた。
これは自分へのご褒美なので買ってもらうのは違う。日本でいえばロードスターもあるけど俺は特別が欲しかった。なんでこいつにしたのか、なんてはっきりとした理由はないけど、ビビッと来た。そうとしか言えない。
まぁ、株の元手は父さんだから遡れば出してもらってるってなるかもだけど。
いけないいけない。つい思い出に浸ってしまった。微妙な蘊蓄こねるのはこれくらいにして、さっさと確認しよ。
長期放置した車お約束のバッテリー上がりを防止するため、電気的接続をカットしてあるのでそれを再接続する。バッテリーはリアエンジンの後ろ側、トランクルーム左の奥の方に設置されてるで背伸びしながらの作業となる。
何気につらい。ふ、踏み台が欲しい……。
「よし、これで大丈夫のはず!」
分厚いドアを開け、車内に乗り込む。
のり……こむ。
「あ、相変わらず乗りづらい」
この車のサイドシル、いかんせん分厚く、しかも高さもある。だから油断しなくてもすぐ股を開いて乗り込む羽目になってしまう。そんなものにスカート、特にミニスカートとかで乗り込もうとすれば……。
まさに女の敵状態な車である。横に男が乗れば彼女とかの足が存分に見れて、鼻の下が十分伸ばせる……かもしれない。ま、俺はデニムパンツだからそんな隙は存在しない。
男に見せるパンツなどない!
サイドシルを無事乗り越え、地面の上に置いてあるんじゃないの? ってくらい低い座面のシートに尻を落とし込む。サイドシルが高いってのはそういうことでもある。マジ落とし込む感じになり、これ今度出られるの?って心配になる。
「いや、まじ俺出れるの?」
ま半分冗談だけど、それくらい苦労しそうだ。ツライ。
「うん。座ってしまえばあとはなんとかなりそうだ。もともとローポジションの車だし、インパネも低いから前方視界も問題なし。シートを前に寄せれば十分足も届く、と」
いけそうである。
キーを挿して段階を踏んで回していく。イモビがあるから解除する必要もある。
エンジンを始動。普通にかかった!
背中からその振動を感じる。
「いいねいいね」
一気にテンションあがった。俺の表情はさぞニッコニコに違いない。
今日は天気もいいので屋根を外し、オープンにして走ろう。そうしよう。帽子と、偏光サングラスはそのために用意したまである。
スマホを備え付けてあるホルダーにセット。これでナビと音楽は十分まかなえるし、後付けのカーオーディオと連携してあるから音はちゃんとスピーカーから出る。最高。
「よっし、準備おっけー、出発だ!」
クラッチは多少重いものの許容レベル。
少し進ませ、通路に車を出すためにハンドルを切る。
切る。
「……お、重……い……」
パワステのないこの車。
低速でのステア操作。
半端なく重かった。
ツライ。




