解決不能の事件
私の名前は山家、首都圏の警察署に勤める警察官だ。
朝方某市の高層マンションの駐車場で発見された少年を巡り、私達は少年の部屋まで来ていた。少年の両親にちょっとした聞き取りを行ったが、両親は心の底から驚いていた様子の上に型に嵌まったように「全く気づかなかった」の一点張りだったのであまり役にたたないだろう。
「事件の線はなさそうだな」
少年の住んでいた部屋で、同僚が現場を見ながらそう呟いた。
私は煙草を吸いながら鑑識の現場の写真撮影を待った。煙草は嫌いなのか、現場保存が基本の場所で煙草を吸うことに疑問を抱いたのか、私を見た同僚の表情が一層険しくなった。
「女性が煙草吸ってるのは印象が悪い。人を拒絶している雰囲気が出て婚期がまた遅れるぞ。」
今度は私の顔が険しくなる番だった。
仕事一辺倒だった私も年を重ねる毎に孤独感が増し、家庭、そこまで行かなくても恋人を作りたいと思っていた。しかし、今更恋人の作り方を訊くわけにもいかず、このまま作れず終いなのではないかと思っていた。何より結婚するには越えるべき壁が多すぎる。
そんな私の思考を仕事に戻すかのように鑑識の撮影が終わり、部屋を調べる許可が出た。私達は鑑識と共に一通り部屋を調べる事にした。事件の線は無いにせよ、薬物が見つかる可能性はある。
真っ先に目に付いたのは勉強机の上に置かれたノートだった。少年が死の間際に書いたノートだろうが、パラパラと中身を見たが、汚い字なので中身を読むには時間がかかりそうだった。右上には数字の羅列が書かれている。どれも5桁の数字でどのページも上から3桁目が1で固定されていた。
本棚から何かを取り出して読んでいた同僚が声を上げた。
「ひょっとしたらこれが原因かもしれないな。」
そういって私にノートを見せた。ノートには日記帳と書かれている。中身を読むと、最初の方は綺麗な字で学校の事が書かれていたが、徐々に字が汚くなり平仮名ばかりになっていた。そして終いには実名がリストアップされており、その上から
「ぜったいにゆるさない」
と大きく書かれていた。同僚が口を開く。
「随分精神的に追い詰められていたんだろうな。やはりいじめが原因の自殺だったか。」
私も同じ考えを抱いたが、同時になぜ両親は全く気づかなかったのかと強い憤りを感じた。同僚がそれを感じたのか、
「良くある話だが…殺人犯を捕まえられないのはもどかしい限りだ。俺が学校や署に報告するから今日はゆっくり休め。」
と私の肩を叩いて日記帳を持って外に出て行ってしまった。殺人犯、私はその言葉を聞いて言いようのない感情が胸中を埋め尽くすように感じた。この殺人事件は間もなく迷宮入りする。それをどうする事も出来ない私達。今日も身投げした被害者を救うことが出来なかった…。どん底の中帰ろうとした私の足を止めたのは私以外はいないはずの部屋で感じる何者かの視線だった。




