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仙境異聞 霞  作者: 神楽坂 幻駆郎
第1.5話:妖檄舎、引っ越し騒動記
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最終話.そして、明日が始まる

三人が屋敷から出ると、ちょうど出張君1号が滑り込んでくる。


「屋敷の素性が分かった。何というか、数奇なものだったよ……」


小鉄も二郎も、神妙な面持ちだ。


「まあ、あらかた片付いちまったがな、聞こうか」


小鉄が語り始める。


「屋敷の主は山本という姓の者だ、明治の終わりに高知から移り住んだ」

「高知か……」


「察しの通り、山本家は犬神持ちの家系だった。一族とトラブルを起こし、故郷を追われたんだな……屋敷の体は温泉宿だが、旅館業は営まず、地域の人々とも接触せずにひっそり暮らしていたらしい」


「娘がいただろう? ユキという名の」

「ああ、移住してきてから程なく生まれている」


「そうか……だから生まれちゃったんですね、シロさん……新しい犬神が」


霞が頷く。


「故郷を離れても、犬神の呪詛が消える事はない、犬神は一人一体、家族が増えるとその分増えるからな」


霧子が言葉を継いだ。


「両親は犬神を使わなかったの?」


吹絵が尋ねると、小鉄は淡々と言葉を重ねていく。


「それは分からん、ただ、山本家が越してきてから、周囲で不審死が続発した事があったらしい、山本家はその災厄の元凶として吊し上げられたそうだ」

「私刑……か、当時の住民の反応としては当たり前か」


霧子が吐き捨てるように呟く。


「それは惨たらしい結果だったようでな、両親は勿論、赤子まで犠牲になったそうだ……以降、ここは呪いの館として禁忌になったらしい」


小鉄が語りつくした後、霧子は心底深くため息をついた。


「分かった、しかし、もう大丈夫だ、ユキもシロも、遠い所に行っちまった……」

「ご両親の行く先が、天国だったといいですね……」


霞が呟く。


「ところで、菊ちゃんはどうした?」


ふいに、二郎が問いかける。


「そう言いや、連絡来ないな……何やってるんだ?」


霧子はそう言って、スマートフォンを取り出した。


「菊か? そっちはどうだ、変化はあったか?」

「あー、ごめん霧ちゃん、ちょっと寝てた……」


菊の寝ぼけ眼が見えそうな声が、スピーカーから響く。


「お前なー……」


霧子は呆れ返ってしまう。


「は、針を経由して霊脈を操るのは大変なんだよ! すっごく神経使うの!」

「分かったから、子供たちを診てくれ……多分、治ってると思う」


霧子がそう言ってから数分後……・


「あー! ホントだ! すごい霧ちゃん、どーやったの?」


菊の素っ頓狂な悲鳴が、周囲に響いた。


「まったく……」


通話を切り、溜息を吐く霧子。


「でもこれで、完全解決ですね!」


霞が歓喜の声を上げる。


「と、いう事は……」

「この屋敷、僕たちの物だ!」

「こうしちゃおれん、役所に行くぞ、二郎!」

「光回線、光回線の契約しないと!」

「電気・ガス・水道が先だ!」

「いいや、ネットが先だよ! WIFIルーターじゃ、辛抱堪らん!」


二人はけたたましく言い合いしながらドアの音を響かせ、再び出張君1号で爆走していく。


「さて……霞、仕上げと行くぞ、ええと、何か掘るものは……」

「これをお使いください」


ふと気付くと、件の老人がスコップを携え、佇んでいた。


「あんたは……」

「幼少の事ながら、この家の事は心残りでしてな、弔ってくれるのなら、これ程ありがたい事は無い……」


老人はそう言って、申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「爺さん……分かった、一緒に来な」


スコップを受け取ると、霧子はそう言って老人を手招きした。

スコップを担いだ霧子と霞、吹絵と老人が、屋敷内に入る。


「ここは、異次元空間だったんじゃ……」

「廊下の方が、な……小鉄が持ってきた図面で分かったんだが……空間をループさせていたようだ」

「じゃあ、この先の部屋に……」

「畳を上げる、手伝え」


霧子はそういうと、畳を上げ、床板を剥がす。

そして、僅かに盛り上がった土面を慎重に崩すと、人間の白骨遺体が数体、現れた。


「これは……」

「成人の白骨二つ、幼児の白骨一つ……そして……」

「犬の置物……シロだな」

「ユキちゃんもご両親も、殺されて埋められちゃったんですね……」


霞が涙を浮かべる。

老人は、黙って手を居合わせる。



「今からでも遅くない、荼毘に付してやろうな……」


遺骨を取り上げ、霧子が優しく微笑んだ。


その、数日後……


「ええっと、祠ってこんな感じでいいのかな?」


二郎がおぼつかない手つきで石碑を組む。


「おう、上等上等! ジローは器用で助かるよ」


それを見て、霧子は満足げに頷いた。


「何を収めるんです? こんなものを作って……」


霞が尋ねる。


「ユキとシロに決まっているだろう? 私達だけでも覚えておいてやらなきゃな、あいつらが間違いなくここにいたって事を……」


そう言って、笑う霧子。


「お姉……」


霞は、瞳の端に涙を浮かべた。


この人は、こうして亡き者の居場所を、どれだけその心の中に分け与えてきたのだろう。


霧子の笑顔を見つめると、その優しさに霞の胸がきゅんと疼いた。


「さあ、新しい生活の始まりだ!」


霧子が勝鬨を上げる。


「おー!」


こうして、妖檄舎は新たな活動拠点を得た。


「ユキちゃん、シロさん、元気でね……いつもここから見ているから!」


霞が満面の笑みで、天を仰ぐ。


明日から新しい日が始まる……霞の胸は、期待と不安で目一杯に膨らんでいた。


(了)


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