10.襲う鼠
「これで全部か?」
「はい、流石に粉になった骨までは拾えませんでしたが……」
「上等だ、良くやったな」
「えへへ……」
霧子が霞の頭を優しく撫でると、霞は嬉しそうに頬を赤らめた。
畳に膝を付き、風呂敷包みを開くと、霧子は骨を物色し始める。
「なるほど、鼠か……」
頭蓋骨を一瞥しただけで、その生前の姿を見抜く霧子。
「すごい、骨で分かるんですか?」
霧子の背中越しに、怖々と覗き込みながら、霞が感嘆の息を漏らす。
「鼠は修業時代によく喰ったからな……」
振り返らずに骨を物色したまま、呟く霧子。
「アナタ、凄い体験をしているのね……」
吹絵が、霞とはまた違った意味で、驚きの視線を霧子に送る。
「じゃあ、この屋敷に巣食っている悪霊の正体は、鼠なのかしら?」
吹絵の問いに、霧子は首を横に振った。
「それもあるが、それだけじゃあ、並の祓い屋が逃げ出したって話が腑に落ちない。それに、鼠は始終何かを喰っていないと死んじまう動物だ、共食いしたにしても、この数は尋常じゃない……」
「つまり、鼠は何かの餌になった、と……?」
霞が額に指をあてながら、首を傾げる。
「その通りだ、鼠を喰らい、その霊を手足の様に従えるモノが、少なくとも一匹はいる」
骨の検分を終え、立ち上がって両手をはたきながら、霧子が答える。
「病院の子供たちに憑いているのも、鼠の霊って事ね」
吹絵は、パズルのピースが徐々に埋まっていく感覚を覚えた。
「匂い的に言っても間違いなさそうですね。でも、アタシ達って、もうかなり屋敷を荒らしていると思うんですが、あちらさんのリアクションがありませんよね……」
周囲の気配を探りながら、霞が不思議そうに尋ねる。
霧子は周囲を見渡すと、霞の疑問をそっと掻き消した。
「そうでもない、どうやら相当知恵を蓄えた奴等だ……私達の人数が減り、逃げ場が無くなるまで深く誘い込んでから取り囲み、一斉に襲い掛かる……人を、それも祓い屋を襲い慣れているな」
周囲の気配に鋭く目を配り、霧子が呟く。
キイ、キイ、キキキ……
霧子の言葉に答える様に、床と言わず壁と言わず天井と言わず、ありとあらゆる方向から、邪悪な霊の気配が現れた。
「本当だ、すっかり囲まれていますね」
裕に百は越えようというその気配に、霞はため息を吐く。
「参ったわね、あのお爺さんが言っていたのは、こういう事だったのね」
吹絵も呆れた様に、前髪をかき上げる。
二人を見回し、そこに恐怖がない事を確認する霧子。
「まあな、だが誤算もある……それは、私達が並の祓い屋じゃない、妖檄舎だって事だ」
そう言って、両手に黒い指だし革手袋を嵌める。
吹絵も、霞も、それぞれの得物をおもむろに抜いた。
「それはごもっとも、いっちょう揉んでやりますか!」
霞がうずうずと武者震いしながら、肩をぐるぐると回す。
「屋内で長物は振り回したくないけど、何とか立ち回ってみるわ」
吹絵はあくまで冷静。
リーチを短くするために、柄の根元を握りこむ。
「新居に傷を付けたくないからな、私も真銃を抜かせてもらう」
霧子の両掌の眷珠が琥珀色に輝き、二挺のパーカッション拳銃を出現させる。
「各人、準備はいいわね?」
臨戦態勢を整えた三人の喉がゴクリと鳴り、各々が各々の敵を捕捉し、瞳だけが動く。
「散開!」
霧子の号令一閃、襲い掛かる鼠の亡霊と、三人の美女が今、激突した。




