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仙境異聞 霞  作者: 神楽坂 幻駆郎
第1.5話:妖檄舎、引っ越し騒動記
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10.襲う鼠

「これで全部か?」

「はい、流石に粉になった骨までは拾えませんでしたが……」

「上等だ、良くやったな」

「えへへ……」


 霧子が霞の頭を優しく撫でると、霞は嬉しそうに頬を赤らめた。

 畳に膝を付き、風呂敷包みを開くと、霧子は骨を物色し始める。


「なるほど、鼠か……」


 頭蓋骨を一瞥しただけで、その生前の姿を見抜く霧子。


「すごい、骨で分かるんですか?」


 霧子の背中越しに、怖々と覗き込みながら、霞が感嘆の息を漏らす。


「鼠は修業時代によく喰ったからな……」


振り返らずに骨を物色したまま、呟く霧子。


「アナタ、凄い体験をしているのね……」


 吹絵が、霞とはまた違った意味で、驚きの視線を霧子に送る。


「じゃあ、この屋敷に巣食っている悪霊の正体は、鼠なのかしら?」


 吹絵の問いに、霧子は首を横に振った。


「それもあるが、それだけじゃあ、並の祓い屋が逃げ出したって話が腑に落ちない。それに、鼠は始終何かを喰っていないと死んじまう動物だ、共食いしたにしても、この数は尋常じゃない……」


「つまり、鼠は何かの餌になった、と……?」


 霞が額に指をあてながら、首を傾げる。


「その通りだ、鼠を喰らい、その霊を手足の様に従えるモノが、少なくとも一匹はいる」


 骨の検分を終え、立ち上がって両手をはたきながら、霧子が答える。


「病院の子供たちに憑いているのも、鼠の霊って事ね」


 吹絵は、パズルのピースが徐々に埋まっていく感覚を覚えた。


「匂い的に言っても間違いなさそうですね。でも、アタシ達って、もうかなり屋敷を荒らしていると思うんですが、あちらさんのリアクションがありませんよね……」


 周囲の気配を探りながら、霞が不思議そうに尋ねる。

 霧子は周囲を見渡すと、霞の疑問をそっと掻き消した。


「そうでもない、どうやら相当知恵を蓄えた奴等だ……私達の人数が減り、逃げ場が無くなるまで深く誘い込んでから取り囲み、一斉に襲い掛かる……人を、それも祓い屋を襲い慣れているな」


周囲の気配に鋭く目を配り、霧子が呟く。


キイ、キイ、キキキ……


霧子の言葉に答える様に、床と言わず壁と言わず天井と言わず、ありとあらゆる方向から、邪悪な霊の気配が現れた。


「本当だ、すっかり囲まれていますね」


 裕に百は越えようというその気配に、霞はため息を吐く。


「参ったわね、あのお爺さんが言っていたのは、こういう事だったのね」


 吹絵も呆れた様に、前髪をかき上げる。

 二人を見回し、そこに恐怖がない事を確認する霧子。


「まあな、だが誤算もある……それは、私達が並の祓い屋じゃない、妖檄舎だって事だ」


 そう言って、両手に黒い指だし革手袋を嵌める。

 吹絵も、霞も、それぞれの得物をおもむろに抜いた。


「それはごもっとも、いっちょう揉んでやりますか!」


 霞がうずうずと武者震いしながら、肩をぐるぐると回す。


「屋内で長物は振り回したくないけど、何とか立ち回ってみるわ」


 吹絵はあくまで冷静。

 リーチを短くするために、柄の根元を握りこむ。


「新居に傷を付けたくないからな、私も真銃を抜かせてもらう」


 霧子の両掌の眷珠が琥珀色に輝き、二挺のパーカッション拳銃を出現させる。


「各人、準備はいいわね?」


 臨戦態勢を整えた三人の喉がゴクリと鳴り、各々が各々の敵を捕捉し、瞳だけが動く。


「散開!」


 霧子の号令一閃、襲い掛かる鼠の亡霊と、三人の美女が今、激突した。


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