2.取り戻す力
書類への署名は、既に30枚を超えていた。
霧子の銃は、違法工作物等措置要綱に則り、本庁保管庫にて厳重に管理されている。
これは、霧子が修錬丹師となって帰国した際、日本国内の仙境=浄山との関わりを持たなかったが故に、武具の携行が許されなかった事に因る。
銃火器。それも単純な銃ではない、呪的破壊力を秘めた霊具は、管理規定が他のどの武器よりも厳重であり、当局がその破壊力を完全に把握し、尚且つ使用者の人格に問題がない事、そして万が一使用者が社会的脅威となった際に始末できる組織の保証が確認できるまで、日常の携行が許されない慣例なのだ。
霧子が帰国し、妖檄舎に所属してから、既に2年。
日本の修錬丹師として活動を始めてから1年ほどで、当局や浄山との繋がりは確固たるものとなり、帰国時に接収された霊具の解析も既に終了している。
しかし、霧子がこれまで彼女本来の銃の返納を具申しなかったのには、彼女なりの訳というか、拘りが在った。
たった一人の妹。
あの日、聖魔へと変妖し、家族と故郷を奪った、妹の姿をしたモノ。
それを確実に殺す為、必殺の武器は隠しておきたかった。
武器の秘匿先としては、警察庁の保管庫はまさに最適な場所だ。
だが、事情が変わった。
北東区に巣食う大妖を滅ぼす為に浄山からやって来た、身長140㎝にも満たない少女。
その正体は霧子の妹、霞の正なる半身であり、その目的は、霧子の記憶の中で血まみれの姿で微笑みながら闇に姿を消した魔物、その半身を自分と共に倒すためだと知らされた。
大妖との戦いの中でそれを悟り、全てを理解し受け入れたからには、もはや霧子に隠し玉を持つ理由はない。
持てる武力の最大限を用いて、事を殲滅する。
58枚目、武器受け渡しの最後の書類に署名捺印する霧子に、もはや迷いなどなかった。
独りではない、自分には霞がいる。
それを感じるだけで、自分は無限に強くなれると思えた。
霧子は警察庁本部庁舎地下4階の保管庫に通されると、一抱え程もあるジュラルミンケースを受け取る。
解錠し、蓋を開けると、懐かしい硝煙と荒野の匂いがした。




