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仙境異聞 霞  作者: 神楽坂 幻駆郎
第一話:遠い山から来た少女
38/63

ACT7(Last) 再会:4

 現場検証を鷲尾達に任せ、四人の美女は、警察の護送車で妖檄舎へ戻る。

「あー、疲れた……プリン喰いたい……」

 霧子が口の端から魂の半分を出しながら、吹絵と菊の肩を借りて、おぼつかない足取りで玄関をくぐる。

 それを出迎えたのは、二郎と小鉄の男二人だ。

「お帰り、みんな! プリン作ってあるよ、あと、風呂も!」

 男二人してのエプロン姿に、女性陣は目を丸くする。

「プリンって、お前が作ったのか?」

「味はシェルボンに遠く及ばないだろうけど、霧子の為に腕を振るったんだ」

 どこで手に入れたか知れない、超特大サイズのエプロンを身に纏った二郎が、ニコニコと笑う。

「貴様が隠し味を入れようとする度、止めるのがどれ程大変だったか……」

 小鉄がしかめ面で、こめかみを押さえる。

「お前等、私達が命賭けで戦ってるときに、暢気に菓子なんか作ってやがったのか……」

 呟いて、霧子がじっとりとした視線を突き刺す。

「何もしないよりマシだろ? とにかくさ、一風呂浴びてきなよ!」

 あくまで戦わない男衆は、申し訳なさなど微塵も出さない。

「ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ……行くぞ、霞」

「あい! じゃあ二郎ちゃん、また後で!」

 妖檄舎の役割分担については、霧子は良く分かっていた。

 男衆の気配りには、毎度感謝さえしている。

 会話を早々に切り上げると、二人は浴室に向かった。

「あ、アタシも入るー!」

 菊が手を上げて、霞の後に続く。

「じゃあ、私もご一緒しようかしら……」

 吹絵までもが、浴室に入って行った。

「狭いよ、二人は後にしろよ」

 霧子が叫ぶ。

「妖檄舎のお風呂は、狭くありません」

「女同士、仲良く入ろ~!」

 菊が三人の肩を抱き寄せる。

「いってらっしゃ~い!」

 その後ろ姿を、笑顔で見送る二郎。

「……霧子、Kちゃんの事を「霞」って呼んだね」

 ふと、小鉄に視線を送る。

「霞と言えば、霧子の妹の名だったな」

 小鉄も頷き、二郎を見やる。

「良く分からないけど、いい事あったみたいだね」

「そうだな」

 浴室から響く黄色い声を聴きながら、男二人、妙に微笑ましい空気を味わっていた。


「じゃあ、本当に霧子の妹なんだ……」

 女性陣が入浴を終え、妖檄舎一同が居間に集まる。

 霧子が事の顛末を説明すると、一同は改めて驚きの声を上げた。

「すみません、皆さん、大切な事なのに黙っていて……」

 霞がしゅんとなって、上目遣いに一同を見やる。

「そんな……いいのよ、話すタイミングが掴めなかったんでしょう?」

 吹絵が優しく声をかける。

「誰にでも言い辛い事はあるよ、気にしない気にしない!」

 菊がわざと能天気に振舞い、霞を慰める。

「だが、それが本当だとすれば……」

 小鉄が眉を顰める。

「ああ、タイミングによっては、私はこいつを殺していた……二郎、このプリン甘すぎだぞ」

 プリンのスプーンを咥えたまま、霧子の表情に真剣な影が宿る。

「ごめん、女の人には甘過ぎるくらいが丁度良いいんだって、小鉄が言うから……」

「霧子に妹がいて、それが変妖したという事は知っている。だが、それが今、何処で何をしているかまでは……」

 小鉄が咳払いしながら、呟く。

「分からなかった。だから最初は、こいつがそうなんだろうと思ったんだ。奴は、私を殺すと言い残して消えたんだからな」

「でも、違ったんでしょう?」

 吹絵が問う。

「ああ、一緒に行動してみて、こいつからは殺気の「さ」の字も感じなかった。そればかりか、妙に私を頼って来やがる……だから分かったんだ、こいつは違う、何か裏があるってな」

 霧子が微笑む。

「アタシの奪われた半身は、今もこの世に潜み、その時に備えて力を蓄えています……」

 霞の表情が暗く沈む。

「じゃあ、霞ちゃんは……」

 二郎が問う。

「私はお姉を助けて、一緒に「それ」を討つべく遣わされた……妖怪を殺す為にだけ生きる、人形です」

「……そんなことない」

 霧子が呟く。

「そんなことない、お前は人形なんかじゃない……人間だ、私のたった一人の妹だ!」

 霧子が声を荒げ、拳でテーブルを叩く。

「霧ちゃん……」

 その様子を、菊が心配そうに見守る。

「私が認めたんだ、私が決めたんだ、だから……誰にも覆させやしない!」

 そう言って、霧子は泣きながら霞を抱きしめた。

「お、お姉……痛い、痛いですって!」

 霧子の思わぬ行動に、霞は戸惑ってしまう。

「痛がるのも人間の証拠だよ……だからもう悲しい事を言うな、間違いでも良い、分かるまではその気でいさせろ……」

 抱きついたまま、霞の頭を撫で、霧子が泣きながら微笑む。

「……はい!」

 霞はその言葉を胸の奥に刻み、大切に仕舞い込んだ。

 それは、彼女の10年間が報われた瞬間でもある。

 霞の瞳から涙があふれ、頬を伝い零れ落ちる。

「ここは、二人きりにしてあげた方が良さそうね……」

 吹絵が呟くと。他の妖檄舎の面々も、素直に頷く。

 居間は解散となり、各々が各々の自室に戻った。


「……霞、起きてるか?」

 自室に戻り、ベッドに横たわった霧子が、板張りの天井を見つめながら呟く。

「はい、泣きすぎて目が腫れちゃって……眠れません」

 二段ベッドの下の段から、ベッドの天井を見つめながら、霞が答える。

「初めにお前をこの部屋に泊めた時の事、覚えてるか?」

 霧子が問う。

「二段ベッドの話ですか? 児童を保護するために入れたって……」

 霞が、不思議そうに答えた。

「そう、それな……実は、嘘なんだ」

「え……?」

 戸惑う霞。

 霧子が、言葉を続ける。

「私はな? 修錬丹師になって、日本に帰ってきてからずっと、二段ベッドで寝てきたんだ……何故だか分かるか?」

 悪戯な口調で、語尾をはぐらかす。

「お姉、まさかアタシを……」

「そう、いつかお前が現れて、ぽっかり空いたベッドの穴を埋めてくれるんじゃないかってな? そう思って、ずっと待っていたんだ……」

 霧子はそう言って、瞼を閉じた。

「お姉……」

「まったく、未練だよな? 女々しいというか、潔くないというか……笑えるだろう?」

 霧子が苦笑する。

「そんなことないです。私も、お姉が上の段で寝ていてくれると、妙に落ち着きましたから……、私こそ、10年待ってようやく取り戻した、懐かしい寝床だと思いました」

 霞が言う。

「そっか……10年前までは、いつもこうして一緒に寝てたもんな……霞、私が何で上の段に拘るか、覚えているか?」

「それは……アタシがおねしょ娘だったからです」

 そう言って、霞は頬を紅くする。

「そう、お前、寝相が悪いから、お前の下で寝てると、雫が私の額に垂れるんだよ……」

 霧子が笑う。

「お姉、烈火の様に怒りましたよね、それでアタシは、もう一回チビッちゃうという悪循環で……」

 霞の顔が真っ赤になって、布団を被る。

「母さんが治めるまで、すったもんだやってたよな……」

 霧子が笑う。

「懐かしいですねぇ……でも、母さんは……」

「ああ、もういない」

「すみません……」

 霞の表情が暗くなる。

「お前の所為じゃないさ、謝るな。本当に悪い奴は、別にいる」

 霧子は、あっけらかんとして、言った。

「アタシの半身……もう一人のアタシ……」

 思いつめる霞。

 霧子は、そんな霞に向かって、明るく声をかける。

「だから、違うって言ったろ? お前はお前……奴なんかじゃない。お前こそが仙道霞、正真正銘、私の妹だって」

「はい、お姉……」

 未だ吹っ切れない様子の霞を慮って、霧子は話題を変える。

「……霞、姉妹の掟って覚えてるか?」

「忘れる訳ありません! それは、お姉とアタシ、姉妹の絆そのモノじゃないですか!」

 霞が過敏に反応する。

「じゃあ言ってみろ、姉妹の掟、その一!」

「その一:愛し合う姉妹は、互いに信じ合い、協力し合うべし!」

 霞が唱和する。

「姉妹の掟、その二!」

「その二:愛し合う姉妹は、互いに嘘や隠し事をしてはならない!」

 霞が唱和する。

 それは、まさに条件反射、姉から妹へ、魂の奥底に刻まれた、真の絆を顕わす、マジック・ワードだった。

「へえ、ちゃんと覚えてるじゃないか……じゃあ、姉妹の掟、その二十五!」

「え、え……二十五?」

 突然の無茶振りに、戸惑う霞。

「その二十五はな……愛し合う姉妹は、いつまでも一緒に仲良く眠る事、だ」

 そう言って、霧子が笑う。

「そんなの、知りませんよ……」

 狼狽する霞。

 霧子は平静そのものだ。

「ああ、今作ったからな。全ては収まる所に納まり、ベッドは埋まった……これ以上の安眠材料が、他に何処にある?」

「おねしょの心配もありませんしね……」

 霞が笑う。

「そう言う事だ……おやすみ、霞」

「はい、おやすみなさい、霧子姉……」

 二人は挨拶を交わすと、布団を被る。

 そして数秒を経ない内に、二人は深い眠りに落ちていった。


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