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仙境異聞 霞  作者: 神楽坂 幻駆郎
第一話:遠い山から来た少女
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ACT5 霞:3

 黒依の背中を一刀両断し、霞は血飛沫を全身に浴び、血まみれの姿で空虚に立ち尽くす。

「く……終わらぬ、このままで、終わってたまるか!」

 地の底を這うような、黒依の呻き声。

 その姿は、華奢とも言える黒依の体型を内側から破り、みるみる巨大化していく。

 その姿は、もはや美しさの欠片もない、巨大なムカデの様だった。

「ち、変妖しやがった……K!」

 霧子が、銃の封印を解き、巨大な魔物の頭部に照準を合わせる。

「……フ!」

 霞は、バネ仕掛けの人形の様に飛びずさると、間合いを取り、刀の切っ先を高く掲げた。

「逃げるな、人形! 我はもう助からん……ならばせめて、我が牙の餌食とするのみ! 我が冥府への道……その道標を照らすがいい!」

 巨大ムカデは、地面を削りながら、霞に向かって一直線に襲い掛かる。

 霞の反応より早く、黒依の牙が、喉元深く突き刺さった。

「どうじゃ! 捉えた者を千年は蝕む毒の牙! 如何なお前とて、尋常ではおれまい!」

 最後の攻撃を、見事敵に打ち込み、勝ち誇る酷月の黒依。

 しかし霞は、喉元を牙で穿たれたまま、黒依の頭部を、その両手で優しく包み込んだ。

「錬神……還虚……」

 霞の口から、微かな言葉が漏れる。

「な!? こやつ、我が霊気を……!」

 霞は、深々と撃ち込まれた牙を通して、黒依の霊気を吸い取り始めた。

「コオオ……」

 黒依の霊気が、霞を通じて、まるでフィルターを介したように無害な存在となって、虚空に放出されていく。

 黒依は堪らず、牙を離し、後ずさった。


 シャリーン……


 霞は再び、太刀を正眼に構える。

 吸い込まれるような、虚ろな瞳。

「……よ、寄るな、寄るな! あ、ああ!」

 まさに、一閃。

 霞の刀が、巨大ムカデとなった黒依の頭部、その額を真っ二つに割る。

 頭を割られた巨大ムカデは、地面に崩れ落ち、そのまま灰となって消えた。

 それが、帝都北東区を蝕む若き聖魔、酷月の黒依の、最後だった。


 戦いを終え、霞は、糸の切れた人形の様に、崩れ落ちる。

 それを辛うじて抱きとめる霧子。

「K……K! しっかりしろ!」

 そう叫んで、霞の体を揺すり、頬を叩く。

 人間の姿を取り戻した霞が、弱々しい笑みを浮かべた。

「どうです、お姉さん……アタシ、やれましたでしょ……?」

「K、お前、あの姿は一体……」

 動揺を隠せない様子で、霧子が問いかける。

「はは、ビックリしましたよね? 無理もないです……」

 霞は、照れくさそうに笑った。

「ああ、ビックリしたさ……まるで幽霊みたいだったぞ」

 霧子が答えると、霞は少し目を伏せた。

「鋭いですね……実はアタシ、人としては、とっくの昔に死んでいるんですよ……」

 寂し気な笑みを浮かべ、そう告白する。

「な……に!?」

 霧子は、驚いて口をつぐむ。

 人の生死、その魂の変化を敏感に感じ取るのは、修錬丹師ならではの感覚だ。

 しかし、霞と出会って、彼女が変異するまで、いや、変異してもなお、霧子は彼女に死者の匂いを感じる事はなかった。

 それなのに、霞は自分が死んでいると言う、これはどういう事なのか?

 霧子は、霞の告白を、黙って聞いていた。

「……アタシは、幼い頃に聖魔に殺されました。仙境の武仙よって魂のみを救われたアタシは、化魄と呼ばれる木人形に魂を宿す事で、かろうじて生き残ったんです。先ほどのは、化魄の本性……鬼の姿です」

「恐ろしかったぞ……さすがの私も、少し引いた」

 動揺してはいけない、彼女を傷付けてしまう。

 霧子は、おどけたような態度で、笑って見せる。

「あは、引いちゃいましたか……それでも、こうして庇ってもらえて……アタシ、嬉しいです」

 霧子の腕の中に抱かれたまま、霞は微笑む。

「言ったろ? 私は、お前が何者であろうとも、変わらずに受け入れるって」

 霧子は、心から嘘偽りのない言葉をかける。

「……立てるか?」

「はい、ありがとうございます、お姉さん……」

 そう言って、霞はおぼつかない足取りで、立ち上がった。

「さて、これで事は大きく動くな……おい、お守り様とやら!」

 霧子が社殿に向けて声をかける。

 社殿の中から、狐の神使と吹絵が出てきた。

「終わったの?」

 吹絵が訊ねる。

 吹絵には、霞の変化については語らない方が良いだろうと、霧子は判断した。

「ああ、Kの奴が、軽くひねってくれた……大した奴だよ、こいつは」

 そう言って、霞の頭を撫でる。

「あの、社長……刀、どうもありがとうございました」

 霞が一礼して、吹絵に刀を返す。

「ああ、うん、役に立ててよかったわ」

 吹絵は刀を鞘に納めると、苦い顔をする霧子を見つめた。

「霧子、事が動くって、どういうこと?」

「今やっつけた奴な、多分、大妖の吾子だ。愛しの我が子を殺され、大妖様は怒り狂うだろうよ……そうなったら、奴の潜む現場は、最悪の状況になる」

 そう言って、霧子はお守り様に問いかける。

「出来れば明日の突入まで、この事は隠しておきたい。お前等の結界で、現状を封鎖できるか?」

「現状のまま、この場を封鎖し続ける事は可能だ。だが、お主等を外に出すには、一瞬であるが結界を解かねばならん」

 狐の神使が、声を揃えて答えた。

「その時にバレるか……」

 霧子は、右手で前髪を少し持ち上げ、眉を顰める。

「でも、ここを出ない訳にもいきませんよ?」

 霞が問いかける。

「仕方ない、予定を早めよう……吹絵!」

 霧子は、意を決したように、吹絵に声をかけた。

「分かった、菊ちゃんに王子警察に来るよう、連絡するわ」

 吹絵が答える。

「頼む、私は鷲尾ちゃんに連絡する」

 大社の大門に向かい、歩き出す三人。

「それじゃあ守り様、お願いします」

「うむ、武運を祈るぞ」

 狐の神使の念力によって、大門の扉がゆっくりと開く。

「ありがとうございました、お守り様!」

 霞は、振り返ると、大きく手を振った。

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