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仙境異聞 霞  作者: 神楽坂 幻駆郎
第一話:遠い山から来た少女
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ACT1 仙道 霧子:2

 数刻後、現場は警察隊によって封鎖され、無線連絡の声が飛び交い、騒然としていた。

「やったか」

 人垣を掻き分け、皺だらけのスーツをだらしなく着込んだ、貧相な風体の中年男性が、霧子に近づき、話しかける。

「ああ、鷲尾ちゃん、お疲れ。そこに転がってるよ」

 霧子が、足元に横たわる化け物の骸を、煙草の先で指した。

「北東区は路上禁煙だぞ」

 鷲尾と呼ばれた男は、そう言って霧子の煙草を取り上げる。

「まだ火、点けてないじゃん。それにコレ、煙草じゃないよ? ヤ・ク・ソ・ウ! ニコチン&タール、ゼロなんですけど!」

 霧子が、飴玉を取られた子供のように、ブーブーと抗議する。

 鷲尾は、そんな霧子を無視して、骸を覗き込んだ。

「どれどれ、うわっ、ひでぇなこりゃあ、お前、何発撃ったんだよ?」

 骸の惨状に、一瞬言葉を失う。

 霧子は、いかにも面倒臭そうな表情で、呟いた。

「・・・・・・全部。何人喰ったか教えなかったからな? とりあえずあるだけくれてやった」

「お前なぁ、遺骸だって貴重なサンプルなんだぞ? 無駄弾使うなよ」

 鷲尾が、悪戯をとがめる教師のような口調で、釘を指しに来る。

 霧子の表情は、ますます面倒臭そうに、ふてくされていった。

「うるさいなぁ。いいじゃないか、銃も弾も、それにお札まで、全部自前で用意してるんだからさー、助かってるだろ? 経費」

 霧子は、わざと鷲尾に聞こえるように、チッと舌打ちをした。

「あーあ、コレだからフリーランスは嫌いなんだよ。お前らはアレだ、銃が撃てればハッピーなんだろ? まったく、汚れ役は全部当局に押し付けて、美味しい所だけ持って行きやがる」

 鷲尾はあからさまに不機嫌な顔を、霧子に見せ付ける。

「あ、ひどい。善意の協力者なのに、それひどい、傷つくわ」 

 さめざめと泣いてみせる霧子。

 鷲尾は、ため息混じりに言った。

「心にも無いことを言うな。そして、似合わない真似はよせ、気持ち悪い」

「分かってくれて嬉しいよ、鷲尾ちゃん」

 霧子は、にっと笑った。


「ところで鷲尾ちゃん。浄山は、まだ何も言ってこないのかい?」

 霧子の表情が、元通りに引き締まる。

「要請はしている。近くにも道士が派遣されると思うが、な」

 鷲尾も、そう言って、真剣な表情に戻った。

「近くにも? 思うが? まったく、大妖の気配が濃いってのに、やる気あんの? 連中は」

 霧子が心底嫌な顔をする。

「仕方ないだろ。そもそもお前がそう言ってるだけで、本当に大妖がいるのかすら分からんのだから」

 そう言って、鷲尾がなだめる。

「だから、それを調べに来いって言ってるんだよ、私は。奴はいるよ、絶対に」

 霧子はなおも食い下がった。

「仙道・・・・・・お前、なんだってそう大妖にこだわるんだ? 例え見つけたって、そんなもん俺らの力じゃどうしようもないんだぞ」

「やってみなけりゃ分からないだろ? 弱気になるなよ」

 霧子の表情に、静かな殺気がよぎる。

「大妖狩りは浄山の仕事だ。お前の方が、良く知ってる事だと思うがね」

 言い含めるように、鷲尾は呟いた。

「それでもやりたいんだよ。私には、そうする理由と、権利がある」

 霧子は、鷲尾の眼を真っ直ぐに見つめ、言った。

「ま、どうしてもって言うなら、俺は止めないがね。仙道、お前、確実に死ぬぞ」

 鷲尾が、ひときわ真剣な顔で釘を刺す。

 それを聞いて、霧子は呆れた表情を浮かべた。

「何言ってんの、鷲尾ちゃん。そん時はアンタも一緒にやるんだよ? チームなんだから」

 そう言って、鷲尾の胸を人差し指でトンと突く。

「まじかよ・・・・・・」

 鷲尾は、半分冗談めかしながらも、確実に青ざめた。

「さてと、少し疲れた。悪いけど、帰って、メシ喰って、屁こいて、寝るわ・・・・・・あとは、よろしく」

 その表情を見取り、会話の潮時を悟ったのか、霧子は短いため息をつくと、すっと踵を返し、鷲尾に向かって背中越しに、手をひらひらと振った。

「へいへい、お疲れさん。報告書はちゃんと書けよ」

 鷲尾もため息を突き、それを見送る。

「化け物を撃って殺しました。以上、報告終わり。そのように書いといて」

 そう言って、虎テープを跨ぎ、鷲尾の視界から消えていく霧子。

「通らねぇよ、ばーか」

 鷲尾は、その背中に、愛情のこもった、小さな罵声を浴びせた。

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