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番外その1 社長を酔わせるとこうなります

以前一時期置いていた拍手に、入れてあったお礼SSです。

「ね……いいでしょ?」

 そう言いながら、わたしは壮一さんににじり寄る。

「だっ駄目ですっ!」

 慌てて腰を引く壮一さん。

 ちょっとはへたれ返上してくれたと思ったのに、弱腰は健在だ。

「気持ちよくしてあげようって言ってるだけなのに、何で駄目なの?」

 口をとがらせて文句を言えば、壮一さんは真っ赤になってしどろもどろになる。

「それは……その……そういうことは、すべきじゃないと……」

「へー……この逆はやったことがあるのに駄目なんだ?」

「……っ!」

 壮一さんはわたしにこれを言われるのが、未だに堪えるらしい。喉を詰まらせ、後悔を表情に刻みながらうつむいてしまう。わかってて言うわたしはかなりあくどいと思うけど、いい加減焦れてきちゃったのよ。

 ソファの端っこに腰かけ項垂れる壮一さんに、わたしは肩に片手を置いてしなだれかかる。

「ねぇ壮一さん。たまには趣向を変えてみてもいいんじゃない? お酒でちょーっと自制の箍を外してみると、すーっごく気持ちよくなれるかもよ? 飲めないわけじゃないんでしょ?」

 そう言いながらほとんど口を付けてない缶カクテルをずいっと差し出す。


 そんなことをやってるわたしも、実のところちょっと酔ってる。

 今日は壮一さんのマンションにお泊りで、「壮一さんの手料理が食べたいなー」と言ったらごちそうを作ってくれて。カクテル系のお酒が大好きなわたしのために、冷やした缶カクテルとおつまみも用意してくれて。

 一晩じゃ飲み切れないくらいたくさん用意してくれたのに、四本目を開けようとしたら「これ以上は駄目です」とまさかのストップ。

 じゃあ開けちゃったこれはどうするのよ? という話になったところで、壮一さんがわたしの前でアルコール類を飲んだことがないのを思い出したってワケ。


 壮一さんが立ち上げた会社の共同経営者である田端営業部長が、壮一さんは下戸だと言ってたのは覚えてる。それに対して壮一さんが下戸じゃない、好きじゃないだけだと言ってたのも覚えてる。

 つまり、好きじゃないから飲まないってことよね?

 そういうことなら気になるじゃない? 好きな人──カレシが酔ったらどうなるかって。

 それに、わたしの醜態は見られちゃってるのに、壮一さんは見せてくれない(?)っていうのは不公平だと思うの!


 で、一つうっかりしてたことが。

「もしかして、壮一さんってカクテル嫌いなの……?」

 嫌いなら、飲みたがらないはずだ。相手の好みも考えずに押し付けようとしてたとしたら、恥ずかしいくらい申し訳ない。何だか情けなくなって涙目になってうつむくと(←お酒のせいで感情の起伏が激しい)、壮一さんは慰めるように顔を覗き込んできた。

「カクテルが嫌いなわけじゃないんです。ただ、アルコールを摂取して自制の箍が外れて……もし君に乱暴なことをしてしまったらと思うと……」

 あ、そういうこと。

 わたしは壮一さんから顔を逸らして缶カクテルをぐっと煽ると、片手を添えて壮一さんを上向かせ唇を重ねる。薄く開いた唇に逃げる隙を与えずカクテルを流し込むと、わたしにかかるのを気にしてか、壮一さんはむせるのをぐっと我慢して、抵抗らしい抵抗なくわたしが流し込んだものを飲み下した。

 わたしが離れると、壮一さんはわたしの肩を押して距離を空け、背中を丸めてしばし咳き込む。それが落ち着くと、口元を拭いながら恨みがましそうな目をわたしに向けた。

「な、何するんですか……!?」

「わたし、壮一さんにだったら何されても傷つかないよ? それより、自制を利かせて壮一さんが満足してくれなかったりするのがツラいの。ね……一度くらい自分を解放して、わたしを好きにして……ね?」(←さっきまで泣きそうになっておきながらこういうことを言う辺り、やっぱりあくどい)

 壮一さんは湯気が上がりそうなくらい真っ赤になったかと思うと、わたしからカクテルの缶をひったくり、ぐーっと一気に煽る。

 上下する喉仏をぼんやり見ていると(←ぼんやりしてるのは酔ってるから)、壮一さんは空にした缶を音を立てて勢いよくローテーブルの上に置いた。

「どんなことになっても知りませんからね……っ」

 そう言って、壮一さんはわたしを抱きすくめ、唇を強く重ねてくる。

 ソファに押し倒されながら、わたしは壮一さんに愛されてることに大きな幸福を感じていた。



「ええっ!? それでその……?」

 車の後部座席に並んで座る溝口さんが、ドキドキわくわくした様子で先を促す。期待を煽っちゃってゴメンナサイと思いながら、わたしは話を〆た。

「いえ、それでおしまいです」

「は?」

「押し倒してくれたと思ったら、そのまま壮一さん寝ちゃったんです。重い体の下から抜け出るの、大変でしたよ。起きないし、体を冷やして風邪ひいちゃったら大変だと思って予備の布団を持っていって掛けて、壮一さん大きいから一緒にソファで寝ることもできず、わたしは昨日一晩一人寂しくベッドで寝たんです」

 これできっちりTHE ENDというところまで話し終えると、車を運転している溝口さんの恋人でもある田端営業部長が大笑いする。

「だから言っただろ? 壮一は下戸だって」

「和弥うるさい。下戸下戸言うな……」

 あ、和弥っていうのは田端部長の名前ね。で、それを言った壮一さんは、助手席でぐったりしている。頭は痛くないんだけど、ぼんやりしててちょっと気持ち悪いんだとか。アルコール度数3%、350ml缶一本でこんなになっちゃって、悪いことしちゃったなぁと一応反省。


 今日はダブルデートの約束をしていて、壮一さんが車を出す予定になってたんだけど、壮一さんがこんな状態なので急きょ田端部長がハンドルを握ることに。

 どうしてこんなことになっちゃったのか、そりゃあ聞きたいよね。予定変更のせいで出発が遅れてしまったこともあって後ろめたかったわたしは、溝口さんに促されるまま洗いざらい話してしまった。

 途中まで阻止しようと騒いでいた壮一さんは、田端部長に運転の邪魔だと言われ、“もうどうにでもなれ”と思ったのか他人のフリして養生を心がけている。

 私は助手席のヘッドに顔を寄せて声をかけた。

「そろそろどこかのコンビニか道の駅に寄ってもらいます? たくさん水分を飲んで出すのが、二日酔いには一番効くそうですよ」

 何がいけなかったのかわからないけれど、壮一さんは最後の一撃を食らったかのようにぐったり体に袈裟がけになってぴんと張られたシートベルトに寄りかかった。


おしまい

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