10.化けの皮が剥がれます?
みんな何かしら、抱えてるな〜という話。人間不信にならないで。
海藤さまがお帰りになるので、出入口まで例によって見送りに出たマヤとすれ違いに入ってきたホステスさんがいた。
ホステスにしては珍しくショートカットで、凛々しい印象のこれまたマヤのコンプレックスを刺激しそうな…スラッと長身のお姉さん(こちらは同い年くらい?)だった。
「あら葵さん。さっきはヘルプありがとうね〜」と、ママが海藤さまを外まで見送り、戻ってきて声をかけた。
あぁ、この人が写真好きの葵さんか…。
一見冷たい印象をも与えがちな雰囲気を持っていて、ちょっとマヤは気後れした。
が、次の瞬間にはガラリと印象を変えた。
「うふふ。大丈夫ですぅ〜。海藤さまともお話できましたしっ!楽しかったですっ」と。…うーん、なんというか…?ハツラツとした?明るい声色と話し方に、マヤは呆気にとられた。
「紗也子ちゃん大丈夫だったかしら?」と、ママが問えば「いま控え室で休んでますよ〜。ちょっとオーバーワークですね」要は、飲み過ぎ。
だからママがヘルプに入れたのか…。
すごい…あの店内を見渡した一瞬で、それを見定めたとは。
葵さんは、ママの影になっていたマヤを見つけ、ニヤリと笑い「ママ。また見つけて来ちゃったんですね?懲りませんねぇ」立花さん大変そー。と言って、マヤの顔の高さまで屈み込む。
ずいっと、顔を近づけてマジマジとマヤの顔を見た葵に「星野マヤです。よろしくお願いします」と、ペコッと頭を下げた。
ペコリとすると、おでこをがつんっとしてしまうから、ちょっと頭を引き気味にしたマヤの顔を、ガシッと両手で掴み葵が言った。
「うん。いい顔ね。いい声してるし」ただ足りない…と、ボソッと呟く。
…え。脳みそが足りないとか言わないよね…と、マヤが思っていたらママが「だから連れて来たんでしょー」と、葵の頭をポンポンと 叩いてから店内へ戻って行く。
「さぁ、マヤちゃんを解放してちょうだい。次のお客様が待ってるわよ〜」とママが言うのと同時に、葵の両手が離れた。
「ふん。お手並み拝見ね」と、これまた低い声でボソッと言った葵の表情は、無表情になって店内に戻って行った。
なんなの…?
みんな私を見て、やっぱり…とか、だから…とか、何、私のわからない会話してんのよっ!
と、絶賛混乱中のマヤを、控え室から顔を覗かせたママが手招いていた。
はあ〜…なんでこんなことになってしまったんでしょう?
と、思いながらマヤは早足で控え室に向かった。
「困ったことになっちゃったわねぇ…」と、ママが立花の横に佇み何かを見下ろしながら、ため息混じりにこぼした。
控え室の幕のところにいるマヤからは、二人の背に隠れて見えなかったが、誰かがソファーに横になっているようだった。
「何?また紗也子潰れたのか?」と、マヤのすぐ真後ろから声が聞こえて、増して首筋に息がかかり、ビクッとしてマヤは後ろを振り返った。
ら、またかよ…。
凜子がマヤの後ろから、控え室を覗きこんでいた。
「だから近いですって。…また?って、紗也子さんという方はいつもなんですか?」と、マヤが凜子を押しやる。
「あぁ。あいつは、ナンバーワン狙って無茶するからな」売上だけじゃ、ナンバーワンにはなれね〜のに。
と、あら?
「私服?てか化粧落としてる…」もうお帰りですか?とマヤが首を傾げる。
「そっ。俺はもう営業終了」…まあ、ジーンズと長袖Tシャツ、化粧落としてもべっぴんさん。ヒゲとかない…てか毛穴あるの?
と、近づくなと言っておいてマヤは、自分からマジマシと凜子を眺めていた。
「こらこらこらこら。毛穴探すな」化けの皮が剥がれる。やめれ。
と、いつになく(て言っても今日、数時間前に会ったばかりだがね…)照れた様子の凜子…あれ?凜子さんじゃおかしいか。
「…凜でいいよ。まったく考えがよく読めるやつ」と、クスクスと笑いながら、じゃ〜な〜っ、お疲れ〜。と帰って行った。
え〜っ。なぜ私の心の声が分かるのよ?と、首を傾げながら控え室に意識を戻す。
「あら?今帰ったのは、凜なのね…」ますます困ったわ。と、ママが眉を寄せて顎に指先を当てて思案している。
「立花。さくらちゃんは、いまどこのテーブル?」と、立花を振り返る。
「さくらさんは、ご指名のお客様に、菫さんとお付きです」どうされますか?と立花がママを見遣る。
すくっ…と顔を上げたママは、よし!と声にまで出さなかったが何か思い立ち、立花へコソコソと指示を出す。
「それは妙案です。畏まりました」と立花は、スッとその場を辞した。
???紗也子さんほったらかしですけど、大丈夫でしょうか…?と心配になったマヤが、ソファーにそっ…と近づくと。
フワリといい香りがした。凜子とはまた違ったいい香りに、フンフンと香りを嗅いで出所を探って顔を動かす。
と、控え室の幕がフワリと開いてマヤの名付け親二人が入ってきた。
さくらと菫である。
「紗也ちゃん大丈夫?」と、菫が駆け寄り冷やしたハンカチを紗也子の額に当てた。
「ママ。また紗也子さんオーバーワーク?」と、さくらがママに問う。
「そ〜なの〜。紗也子ちゃんのお客様は好みが分かれるからね〜。ご指名がかかってる方だけでも、お相手探さなきゃなの〜」と、さして問題ではないと言う感じで言った。
「わかりました。菫ちゃんヘルプお願いね?」と、ヒラリとさくらは体を翻して控え室を出て行く。
その一瞬で、ちらっとマヤを見て微笑んで行った。
「ふーん。ナンバーワンが、ナンバーツーに恩を売るか…」と、ボソッと聞こえた声は面白そうに言った。
えっ?と振り返ると、葵が壁に寄り掛かり笑っていた。
今日はよく背後を人に取られるな…。
と、マヤは、まっったく関係ないことを思っていた…。
「ナンバーワン?さくらさんがナンバーワン…?」と、呟いたマヤに葵が呆れながら言った。
「なぁにそんなことも分からなかったの〜?」あの貫禄見てれば分かるでしょうに…。はぁ〜。と言いながら、葵が紗也子に近づいて、菫が当てた冷えたハンカチを裏返していた。
…なんだかお口が悪い人だけど、悪い人ではないのかも。とマヤが思っていたら
「さて、あんた(あんた呼ばわり…)は、着替えて帰りなよ」と、葵は紗也子の方を向いたまま言った。
え?帰っていいの?と、マヤの困惑が伝わったのか…。
「ママは、今から紗也子のフォローで忙しいから、あんたのお世話まで行き届かないでしょ…」と言ったところで、いつの間にか控え室を出ていたママが戻ってきた。
「さて、葵さんにお願いがあるの〜」紗也子ちゃんを家に送り届けてくれない?と、ママが紗也子を見ながら言った。
「……はい。分かってましたよ〜」その後は直帰でいいんですか?と、葵が聞くと
「出来れば戻って欲しいから〜」とママは言いながら、マヤを見た。
「マヤちゃんは、今日はこれで上がりね」葵さんと一緒に紗也子ちゃん送ってくれる?車あるよね?
「はあ…いいんですか?」とマヤが首を傾げると、ママが「名残惜しいけどね〜っ」と抱き着いてきた。
ぐぇ…。「また連絡するから、これっきりとか言わないでねぇ〜」と、ママが抱き着いた腕に、より一層力を入れながら言ったが…。
マヤは、ギブキブッ…と、腕をタップした。
ちょっと悪いヤツを登場させようとしましたが、ダメでした…。敢なく断念。
化けの皮…真相・素性などを包みかくしている外見。




