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最強の無能力者  作者: まさかさかさま
第一章・動き出す指針
22/65

十九話

 閑散とした室内。

 微かに香る消毒液の匂いが鼻腔をくすぐり、僕の目を覚ます。

「……病院、じゃないよね。どこだろう? ここ」

 どうやらかなりの時間、寝てしまっていたらしく、体が重い。

 周囲を見渡す。見知らぬ木造建築で、僕はそのベットの上に居る。どういうことだろう? 起き抜けで回らない思考を切り替え、ここ最近の記憶を引き出す。

「ああ、そっか」

 ここは例の組織の拠点の一つだ。おそらく救護室か何かだね。

 つまり作戦は成功したんだ。“アレ”と良人が相打った時はどうなるかと思ったけれど。それに、筋書きでは僕らをここまで運ぶのは『烏合の衆(レジスタンス)』の連中のはずだったのに、なぜか“白でも黒でもない無地(グレーホワイト)”がその代わりを果たしていた。僕はしっかりと見た、薄らぐ意識の中、彼女が僕らの目の前に現れたことを。

 なぜだろうか? 本来ならば、篤木 圧土を救援に来た『烏合の衆(レジスタンス)』に、ついでにここまで運んでもらうというのが作戦の内容だから、結果オーライと言えば結果オーライだけれど。

 ……そうか、“アレ”が私情でやり過ぎたせいで、良人は瀕死の重傷だったんだっけ。『烏合の衆(レジスタンス)』の救援を待っていたら死んでしまうほどに。そう言えば、学園はなんであんなコントロールの利かない駒を差し向けたんだろう? 『右軽光(ライトアップ)』の能力者。アレは任務の度に余計な問題を起こす出来損ないだ。アレがやり過ぎたせいで、良人に見られたくないものも見られてしまったし……。

 ……学園にとっての、この作戦の重要性が低いから? だからあんな出来損ないの兵を遣わした? ……いや、そんなはずは。

 分からない。学園の腐った思考なんか分かるはずがない。分かりたくもない。

 とにかく、だから彼女、“白でも黒でもない無地(グレーホワイト)”が現れた。良人を死なせないために。自ら出向いて良人の応急手当をし、そしてここに預けた。そう推測出来る、というかそれでつじつまが合う、今までの彼女の謎の行動に。よくよく考えてみれば、“あの時”も彼女が良人を助けたのだから、もうこの推測で間違いない。

 あの時。

 能力試験の時。僕の能力が原因不明の暴走を引き起こした。狙い済ましたかのように、僕の火炎弾は良人を襲った。あれは確実に良人に直撃した、はずだった。だが良人は生きている。あの瞬間、誰かに助けられ、生きながらえている。

 そして今回も、僕の能力は暴走した。一応の演技で“アレ”に対して火炎弾を放った時、また僕の能力は暴走した。それは何やら良人の予測通りだったみたいで、あいつは難無く避けていたけれど。おかげで、曲がりなりにも味方に攻撃を当ててしまったけれど、まあアレの安否なんか知ったこっちゃない。

 一体、僕の身体に何が起きているのだろうか? また後頭部に水を入れられたのだろうか? 誰に? そんなことして何になる? 良人を、殺すため? なぜ僕なんだ? 良人の殺害が目的ならば、わざわざ僕の能力を暴走させる理由は無い、そんな手間を取るより直接良人の命を狙えばいい。……いや、そうか。簡単にはいかないのか、相手は“あの”良人だ。完全な意識外からの不意でも突かない限り、良人を確実に仕留めるのは難しい。だから僕を利用した? 完璧な意識外からの不意を突くために、その場に都合良く居合わせた僕を利用した? だから誰が?

 誰が?

 共通点。僕の能力が暴走した時の、共通点。

 それは、……――――、


 コッ、コッ、コッ、コッ、


 足音が聞こえる。

 よく知っている足音だ。

 この粗暴で無骨な足取りは、あいつしかいない。他にももう一人、誰だかの足音が混ざっているけれど、片方は確実に良人だ。


 !


 まずい。


 服着てない。


 咄嗟に、その辺に置いてあった服を手繰り寄せ着替え……ようとするが、出来ない。

 しまった、左手が無いんだった。アレがやり過ぎたせいで外れたんだっけ、義手。これでは服を着終わるのに相当な時間が掛かってしまう。

 

 どうしよ、もうすぐそこまで迫ってるよ足音。


◆◇◆◇


「よう行地ー、朝だぞ起きろゴラアアアアッ!」


 バンッ。


 景気付けのために、行地が寝ているという救護室の部屋を勢いよく開ける。

 ほら、こんな状況だからこそ元気に明るく接しないと。

「うわっ!? ノックぐらいしなよ良人! ていうか何をいきなりキレてへぶらりいっ!」

 スッパーン!

 行地の頬を思い切り叩く。

 いやほら、スキンシップスキンシップ。これぐらいフレンドリーに接した方が調度良いんだよ、怪我人ってのは。

「ひ、ひどいっ。何さ、顔を付き合わせるなり何をぎゃっ! ちょ、おま、やめ、いた、いたいいたい」

 スパパパパパパン。

 実に良い叩き心地で。

「てめえはコラ、何勝手に死んでんだコラ」

「いや生きてるよ!? 勝手に殺すな! っつうかいい加減叩くのやめやがれゴラアアアアアアっ!!」

 ひょい。

 行地のモヤシみたいな腕から放たれるへなちょこパンチを、俺は難なくかわす。

「おっと当たらんよ、貴様の攻撃なぞ蝶が留まって見えるわ、フハッ」

「凄いうざいっ」

 頬を押さえながら、恨みがましく睨んでくる行地。

 ……ここまでハシャげるなら心配いらねえな。

 やっぱ行地がそう簡単に死ぬはずがないんだ。だって行地だぞ? ゴキブリどころかクマ虫ですら恐れ戦く生命力を宿した、火巻目(かまきもく)行地科(ゆきちか)のグレートフル行地だぞ?

 俺は、しぶとく図太い悪友が、しっかりと目の前に存在していることを確認するように、再度軽く行地の頬を叩く。

 ペチン、と。

「何その弱々しいビンタ。逆に怖いんだけど。何? そうやって僕を逆に怯えさせる精神攻撃?」

「ああそうだ、精神攻撃だ。まったくお前は、この野郎まったく、お前がいなくなったら誰が俺のサンドバックの代わりをしてくれるってんだ、次勝手に死に掛けたら殺すからな?」

「理不尽な」

「むしろ増やすぞ」

「増やす!?」

「ああ、お前を怪しい培養液に入れて量産する。そして世界各地に売りさばく」

「なんてことをっ」

「目に浮かぶぜ、世界各地を跋扈する行地軍団。……怖」

「何を言ってんの……」

 うん、会話もいつも通りの俺とこいつだ。というかいつにも増して意味が分からない。

 とにかく無事だったんだから何よりだ。

 一方、一緒に入室して来た連れ、彦星はというと。


「ツッチー、朝です起きるですよゴラアアアア!」


 さっきの涙はどこに行ったのか、元気良く隣のベットに飛び蹴りをかましていた。

 ……うわあ、鬼だなあいつ。普通、怪我人にあんなことしねえよ。

 というか篤木の容態が気になるんだが。あいつ確か、半身掻き消されたんじゃなかったっけ?


「っぬ、ぬうう。か、香苗殿、飛び蹴りはあんまりじゃ、傷口が、傷口がああああっ!」

「きゃあああああああああ!? ぎゃああああああああっ!!」


 全身白い布に包まれた篤木が呻く。そのミイラ男のような姿を目の当たりにし、悲鳴を上げる彦星。

「何ですかそのカッコイイ手足はあああああああっ!!」

 カッコイイのか!?

 見てみると、篤木は消された右手右足の代わりに、銀色に輝く厳めしい義手と義足を付けていた。皮肉にも、篤木をここまで追いやった狂人と同じような姿。

 ……。

「ぐ、ぐぬうっ、や、やめるんじゃ香苗殿っ」

「うっさいです! 全くこの役立たずは勝手に一人でやられて! そのまま死ねばよかったんです!」

 篤木の上で飛び跳ねる彦星。先ほど垂れていた文句を口にしている。

「う、ぬう、……すまぬ」

「本当ですよ! ここ最近のあなたは本当にひどいです、家来失格です! 解雇です! デスるがいいデス!」

「……言葉もない」

「……それで……容態はどんな感じなんです? まさかもう、私に仕えることは難しいだなんて言わないですよね?」

 飛び跳ねるのを止め、篤木の腹に乗っかったまま聞く。

「それは心配しなくとも大丈夫じゃ。右手と右足はこの有様じゃが、体組織は腕の良い医能力者殿にほとんど再生させてもらったからのう。この通り、ピンピンしとるわい」

 篤木は軽く右半身をはだけさせ、そこにちゃんと生身の身体があることを証明する。マジで怖いんだが、現代の医療技術。

「後はこの生まれ変わった右腕と右足の神経が繋がれば完全復活じゃな。くたびれ損ないの木偶の棒じゃが、また従僕として仕えさせてくれんか? 香苗殿」

「……犬のように使いまわしてやるです」

「はっは、それは楽しみじゃのう」

 やがて、篤木い抱きつき、そのまま動かなくなる彦星。すーすーと微かに寝息が聞こえてくる。

 その、主の前では常に厳めしい面が緩む。……どこからどう見ても親と子だ。

「よう、案外元気そうだな篤木」

「む、これは異無殿。失敬、見ておったか。いやはやむずがゆいのう」

 頬をポリポリと掻くオッサン同級生。

「いいのか? あんな見え見えの嘘付いて」

「……はて、なんのことかの?」

 わざとらしくとぼける

「もうボケたのかジジイ。その右半身、見た目だけは人間のそれだな」

「さすが異無殿、気付いておったか」

 当たり前だ、そう簡単に再生だのなんだのしたら苦労はしない。確かに現代の医療は信じられないほど進んでいるが、こんな何の設備も整っていない場所で治療して、掻き消えた体組織が蘇るわけがない。

 そのはだけた右半身の皮膚は、どう見ても、明らかに人工物のそれだった。おそらく、中身の肉やらも人工物で補っているのだろう。さすがに右手と右足はあからさまな義肢にするしかなかったようだが。

「あんまり無理するなよ? 子供が泣くぞ」

「はっは、そうじゃのう。本音を言うと、今すぐにでも気絶してしまいたいぐらいじゃ、あちこち傷が痛んで仕方ない」

 痛む、なんてものじゃないだろう。右半身の、臓器以外をごっそり人工物に変えられてしまったのだ、それは気が狂ってもおかしくはないほどの激痛のはず。

「強がってんじゃねえよ」

「むう、お見通しか。ふむ、では……お言葉に、甘えさせて、もら、ぅ……」

 篤木の目が閉じる。気絶したのだろう。というか、あの重態で起こされたのだからたまったものじゃない、相当無理していたはずだ。

 それにしてもこの絵面、見れば見るほど親子だな。


「……で? お前は何でずっと布団に包まったままなんだ? 熱いだろ、頭だけ出してたんじゃ」

 俺が部屋に入った時から、行地はずっと布団を肩まで被っている。往復ビンタしてる時も、なぜか手を出して抵抗することもせずに居た。

 いや、おかげですげえ叩きやすかったが。サンドバックもいいところだ。

「あー……なんか起きてからずっと寒いんだよ。うん、凄い寒いね。布団剥いだら確実に凍え死ぬね僕。風邪引いちゃったかなー、げふんげふん」

「嘘付く時は目を逸らさない方がいいぞ、行地」

 ギクッ、と擬音が聞こえてくる。泳いでるぞ、目。

「あ、ああああれだよあれ。良人があまりにもイケメソ過ぎて、まともに見てると発狂しちゃいそうだったからさアハハハハ」

「お前、すんげえ気持ち悪い発言したぞ今……」

「……うん、僕もそう思う」

「発狂て……お前いつもそんな目で俺を……怖」

「ち、違うんだ良人。それは誤解だって。僕はホモじゃない」

「じゃあなんで逸らしんだよ目。やっぱ何か隠してんだろ。どけてみろよ、その布団」

「うっ、……ぐう、……そ、そうさ! 僕はホモなんだ! 今こそ明かそう僕の本性を、男の身体が大好きです! だからさっきは照れて目を逸らしたんだ、別に何かやましいことがあったわけじゃない!」

「そ、そうか……怖。分かった、分かったからこっち見んな……マジ怖……超怖」

「うう、何か大切なものを失った気がする」

「でも別にそれは布団をどけない理由にはならないよな?」

 ニタリ、と悪友を安心させるために、友好的な笑みを浮かべる。

「ひ、ひい! 何その笑顔! 良人のがよっぽど怖いよ!?」

「じゃかあしい、いいから布団の中に何隠してんだコラこの野郎、行地の分際で小賢しい」

 オルァ、と行地の布団を引っぺがそうと掴む。

「ちょ、やめ、やめ、マジやめれ」

「いいではないかいいではないか」

「いやあああああああっ! 変態いいいいいっ!」

「乙女かお前は」

「じゃあやめろ! いや、やめて下さいお願いします」

 固く布団の中に閉じこもったまま、頭を下げ懇願してくる。おもしれえ。

「いいだろ別に。大丈夫だって、例えお漏らししてたとしても放送室のマイクに向かって言うだけだ、決して人にはバラさねえ」

「漏らしてはないよ!? というかなおさら嫌だああああああっ!」

「そんな隠されたら逆に気になる。いいからその布団を寄越せ」

「やあああああっ、めええええええっ、れえええええええええ」

 ぐぐぐぐぐぐぐ。

 そのモヤシな身体のどこからこれだけの力を引き出しているのか、なかなか布団を離さない行地。なんだこいつ、こんな力強かったっけか? いや、それだけ必死なのか。

 仕方ない、かくなる上は。

「ほれ」

 パッ。

 そこまで言うなら離してやる。

「へ?」

 俺が布団をいきなり離したため、思い切り身を後ろに引いていた行地は、そのまま力の向く方向、つまり後方へとグラつく。

「うわ、うわっ」

 抵抗空しく、ベットから落ちる。


 ドシン、


 大層な尻餅を付く。地味に痛そうだ。

「あいたたたた。うう、いくらなんでもあんまりだあ」

 だがしっかりと布団は掴んだまま。

 そんなに見られたくないものなのか? 何が?

 いやまあ、人間なんだから隠し事の一つや二つあるもんだろうけど。それに行地には昔の事件もあるのだから、人に言えない事情ぐらい持っていたって不思議ではない。

 例えば、大きな火傷の跡とか。親しい仲だからこそ嫌ってこともあるだろうし。いや俺は今更そんなこと気にしないが。

 ……ちょっとやり過ぎたかも知れない。

「はあ。あー、悪かった悪かった。そんな怒るなって、もう何も聞かねえよ」

 仕方ねえなあ。

 俺はベットを跨ぎ、倒れている行地に手を貸す。

「いいさ別に。どうせ良人にとって僕なんかサンドバックに過ぎないんだ。ふん、いいさいいさ」

 文句を言いながら、差し伸べられた俺の手を無視し、布団に包まったまま立ち上がる行地。

 すげえむくれてる。何か腹立つな、行地のくせに。

 つうかこんな動いて大丈夫なのか? こいつ。怪我はもうほとんど完治してるって、去り際に神々のやつが言っていたが。

 分かった分かった、と適当に相槌を打ち、俺は軽くベットに腰掛ける――――、

 ?

 何だ、手になんか当たったぞ。

 腰掛けた身体を支えるために、ベットに付いた手で、何か得たいの知れないものに触れる。

 興味本位で、というか確認しない理由もないので、軽く後ろを向き、手に握ったそれを確認する。

「……」

 これは……、

 布?

 ハンカチ、にしてはやけに触り心地の良い生地を使ってんな――――、


 というか。



 下着?

 しかもこれって――――、



「!? うぎゃああああああああああああっ!! いやああああああああああ!!」


 行地の叫び声。

 な、なんだどうし――――、


 バキッ。

 視界が暗転する。


◆◇◆◇


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