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最強の無能力者  作者: まさかさかさま
第一章・動き出す指針
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十二話

 神屠学園、第五十学区高等部六番訓練場。夜八時。俺はモップを手に床を磨いていた。

 なぜこんな遅い時刻にこのような場所の清掃をやらされているのかと言うと、一重に行地という名の一匹のアホに端を発する。それは昨日の夕方、とあるラーメン屋にて。俺達は奈々乃の奢りによってもたらされた麺をずるずる啜りながら、雑談をしていた。


「いやあ、凄い今更になるけど、何だったんだろうねあれ。時旅さん。死ぬほど怖かったよ、あの冷凍マグロみたいな冷え切った目」

「マグロかどうかは知らんが、まあなあ。あれだ、生理痛の日だったんじゃないか? むしゃくしゃしてたんだよ」

「なるほど。ていうか何? いきなりサークルに入れろとか、わけ分かんない。可愛い子は好きだけど、あれはないね。ないないない」

「謎だよな。ちなみに今もあいつ、どっかで俺のこと見張ってるんだぜ? お前の今の言動も聞いてたかもな。帰り道背中に気を付けろよ」

「ひい、止めてよ変な冗談は」

「まあ、そんなビビるなよ。帰りは俺も途中まで付いて行ってやるから。つうか帰り道ほとんど同じだからな」

「本当? じゃあ任せたよ、僕の背中を」

「OK、グサッといくな」

「刺すなよっ!」

「すまん、むしゃくしゃしてたんだ。生理痛で」

「良人まさかの女性説!?」

「ああ、そうなんだ。最近やけに尻が痛んでな。たまに血も出る」

「ただの痔だよ!」

「なるほどっ、定期的に来るあの痛みは痔だったのですねっ」

「君のは本物!」

「こらこら、お前ら食事中にそんな話をするもんじゃないぞ」

「僕が悪いの!?」

「そうですよ火巻さん、食事中にそういう話はどうかと思います」

「いじめだあ……」

「ははは、飯が美味いぜ」

「……いいよそれじゃあ、そういう態度を取るんだったら僕にも考えがある。この依頼は僕一人で受けることにするよ」

 懐から四枚の紙を取り出す行地。見てみると、それは依頼請負いの申し込み用紙だった。これにそれぞれの名前を記載することにより、その申し込み用紙に書かれた内容の依頼を受けることが出来るのだ。

「行地、何の依頼だ?」

「……」

「火巻さん、何の依頼ですか?」

「これはね、」

 ちっ、色魔めが。

「教師からの『清掃』の依頼だよ。訓練場を絵の具とかで汚しちゃったらしくて、面倒だから依頼を発布したんだってさ」

「絵の具で汚した? 普通、そんな依頼を教師がするか? というか簡単過ぎる」

「そう。めちゃくちゃ簡単なんだよ。数分で終わるだろうね」

「だったら報奨金も百円単位とかそんなだろう」

「それがね、報奨金八万と実技のいずれかの単位を一つだって。締め切り明日だけど。どう? この紙が欲しくなった?」

「それを早く言え! いいから今すぐ申し込みに行くぞ!」

 それから俺達は即校舎に戻り、受け付け所にて申し込み用紙を提出。さっそく現場である六番訓練場へと依頼主に案内され、俺達は清掃を始めた。

 そして現在。昨日の午後八時から今に至るまで、かれこれ十九時間を俺達はこの依頼に費やしている。途中で貰った四時間の睡眠と三時間の休憩を合わせ、依頼を請負ってから二十六時間も経っているのだ、既に二十四時間すら過ぎてしまっている。

 おかっしいな、この長時間労働はどう言うことだ。今日が土曜だから良かったものの、明らかに仕事の量がおかしい。軽い仕事で大きな報酬を得られると思っていた一日前の俺を殴り倒したい。

「騙された……」

 あの時は、仕事内容にしては法外な報酬に目が暗んでいたが、よくよく考えてみると色々おかしい。というか気付けよ、明らかに怪しかったじゃねえかこの依頼。そもそも締め切り直前まで誰にも手を付けられずに残ってる依頼なんて、ろくでもないものに決まってる。

 その依頼内容なのだが、確かに絵の具で汚れた訓練場の清掃だった。ああ、それは間違っていない。だが、行地は正しくはこう言っていたはずだ。


 ----教師からの『清掃』の依頼だよ。訓練場を絵の具“とか”で汚しちゃったらしくて、


 “とか”って何だよ!? 絵の具“とか”って!

 ふざけんなあの虫野郎、色々誤魔化して読んでたんだ。実際に現場の訓練場に来てみると、そこにはコップ一杯分ぐらいのこぼれた絵の具、……と山の如く積み上げられた粗大ゴミが、俺達の目の前に立ち塞がっていた。本当に山の如くなのだ。使われなくなった机や椅子、本棚に教科書、黒板やロッカー、テレビや機械類、ビデオやデッキ、箒や塵取り、制服等の衣類、ボールや部活の備品、言っても言ってもキリが無い。それら諸々が訓練場を物置と化していた。

 ここの学区はゴミ処理場との距離が大分離れている。そういった関係もあり、ゴミが溜まり易いのだろう。そしてこんな話がある、どこかの学区の使われなくなった訓練場が、一時期的な粗大ゴミ等の停留所として使われている。つまりここがその停留所だったのだ。業者が回収し切れなかった粗大ゴミの行き場が無かったため、一時的にこの場を借りていた。で、そのまま放置。今になって訓練場の改修工事がされることになったが、ゴミが邪魔。だから片付けろ、と。

 業者の人は他で手一杯で、どこも受け付けてくれないらしい。それなのに改修工事の日程はもう間近。その改修を頼まれている主任がどうにも頑固で有名で、期限を過ぎたら改修の話はおじゃん。と言っても、別に取り立てて改修工事をしなければいけないわけではないらしく、実際は改修の話はほとんど諦めていたそうだ。が一応、“誰か請負ってくれたらラッキー”程度の気持ちで依頼を発布し、まさか頼まれてくれる人が居るとは思っていなかったらしく、適当に報奨金と単位を決め、そこに目を付けたのが行地だ。

 あのバカ、今更になって中学時代のツケが来たらしく、なんと高等部進学のための単位が一足りていなかったのだ。これは学園の試験管のミスで、最近になって発覚したらしく、“定日にまであと一単位間に合わせなければ、お前退学”との通達が昨日。そして定日とやらが休日明け。まあ、元々受かっていなかったのだから文句は言えないが、あんまりな話だと思う。無理だろう、金曜日から月曜日までに一単位なんて。だがどうだろう、駄目元で依頼掲示板を見てみると一単位取得の依頼が一つだけ残っていた。地獄の底でクモの糸を見つけた気分だっただろう、行地は早速申し込み用紙を貰い、俺にサークル結成の話を持ち掛け、ようとしたところに調度良いタイミングで奈々乃がサークルを組もう、と。そのままラーメン屋で俺を嵌めた。

 なんともまあ、実に滑稽な巡り合わせと言うか、なんというか。別にそういう事情だったなら正直に言えば協力してやったのに。

「でも良人もバカだよね、詳細ぐらい確認すればいいのに」

「帰るぞ?」

「ごめんなさい」

 土下座が似合う男ってのも珍しいな。実に素晴らしいジャンピング土下座だ。

 まあ、行地も冗談であんな騙すような形で話たのだろう。あんなちゃちぃ詐欺に騙されるとは思っていなかった筈だ。俺が詳細を読み、実際の仕事内容を確認していたら、ちゃんと事情を説明していただろう。

「で、これ終わるのか?」

 問題は定日までに仕事が終わるかどうかである。延々と十九時間も粗大ゴミを外に運び出す作業を行っているのだが、これはちょっと終わらないかも知れない。定日の朝まで残り三十五時間。限界に達しつつある精神にムチ打ち働いても間に合うかどうかといったところ。

 それにこの徒労感が半端ない。何せ報酬が割りに合わな過ぎなのだ。この調子だと、依頼完遂まで最低二十四時間は働かなければならない。現在の労働時間が十九だから合わせて四十三時間。それだけ働いて報奨金は八万。八万と言ってもサークル全体で八万だから、不参加の時旅も一応数えて、四人に分割すると一人当たりの配当が二万円だ。四十三時間働いて二万って……。つうか仕事が間に合うかどうかも分からないのだ、間に合わなければ報奨金はゼロである。

「行地、これ終わったらお前、アレだからな。お前、アレだからな。逆にもし終わらなかったら、とってもとってもアレだからな」

「怖いってっ。……まあ、お礼はさせて貰うよ」

 仕方ない、全て片した後に訪れるスーパー行地奴隷タイムを励みにしよう。何をさせてやろうか、今から楽しみだ。例えばあれだ。授業中、クラスの教卓の上に立たせ『火雷先生、僕はあなたに愛を誓います!』と叫ばせたり……ふふ。

「何? 何でほくそ笑んでんの?」

「いや……炭は拾ってやるよ行地」

「炭!?」

「残んなかったんだよ、骨が」

「僕に何をさせる気なんだよっ」

「安心しろ、お前の炭はちゃんと埋葬してやる。火鉢とかに」

「焼肉に使う気満々じゃないか!」

「実にお前らしい皮肉な最期……いや、焼肉な最期だぜ」

「うわ、そのドヤ顔ウザッ」

 雑談が一段落したところで、また作業に戻る俺達。

 というか雑談などしている暇はないのだ。口を動かすなら手を動かさなければ……と言いたいところだが、実際はそうでもなかったりする。なぜって、ぶっちゃけ俺と行地、全然約に立っていないからだ。だから本題の粗大ゴミ処理ではなく、汚れた床の掃除なんてやっているのである。

「しかし驚いたな」

 奈々乃がここまでやるとは。

 そう、男手二人を差し置いて粗大ゴミの移動作業を一人でこなしているのは何を隠そう、見るからにひ弱で小柄な、あの奈々乃だ。俺達は作業開始一時間目にして、“すみません、邪魔です”と引導を言い渡されてしまった。たまに言い難いことを平然と言うんだよなあ。

 奈々乃は作業開始前に、まず大量の台車を借りて来た。これは依頼完遂のために様々な道具を有料で貸してくれる“貸屋”から借用したものである。資金は行地の財布から出ているが、こいつのためなのだからそれぐらいは必要経費として本人も了承。

 それから奈々乃は手から、例のちょろっちょろの放水を始めた。一時間ぐらい放水し続けただろうか、そこからの手際は天晴れの一言に尽きる。

 大量の台車が一斉に働き始めたのだ。勿論、誰が押しているわけでもなく勝手に。

 隊列を組み、粗大ゴミを乗せ、訓練場の外に運び出す。

 『愚天使(ピュアドール)』。

 奈々乃 水羽の能力。確かそんな名前だった。水を自由自在に操る異能力。

 それぞれの台車のタイヤに、あらかじめ一定の動きがインプットされた水流を貼り付けているのだそうだ。“車輪は水の滑りを応用すると、とても簡単に動くんですよ”とは奈々乃の談。術者本人はゴミ山の上で水流を操り、実に精密かつ効率的な動作で台車に粗大ゴミを載せていく。終着点に着いた台車は微妙に傾き、上手く自重で全部落ちるよう詰まれた粗大ゴミが勝手に荷降ろしをしてくれる。あとはこれの繰り返しだ。

「おーい、そろそろ休んだ方がいいんじゃないのか? 夕飯も食ってないだろ。買って来てやったから」

 今や、アホの子から台車編隊の女王と化している奈々乃に、声を掛ける。

「ふへえええ」

 俺の声に気付き、奈々乃にあるまじき凛々しい表情が崩れ、元のゆるゆるな顔付きに戻り間抜けな声を上げる。

 相当疲労が溜まっているのだろう、ゴミ山からは降りずに、足場としていた跳び箱の上でペタンと座り込んでしまう。

「おい危ねえぞ、ちゃんと降りて来いって」

「ふみいいい」

 これが定日に間に合わないかも知れない、一番の原因。あれだけ効率良くゴミ山を崩していけばすぐに片付きそうなものだが、実際はそうもいかない。見ての通り、奈々乃の精神力がいい加減限界近いのだ。当たり前だ、睡眠と休憩を除いてぶっ通しで水流を操っていたのだから。逆に奈々乃の精神力が異常なのだ。これだけ長時間水流を正確無比に操れるのだから、もう無尽蔵と言っても差し支えないレベルである。

 これほどの能力者が、なぜ十五組なんぞに埋もれているのか不思議でならない。

「大丈夫か? とりあえず今日はもう、飯食って休め」

 俺はゴミ山を登り、疲弊し切った奈々乃を抱え上げる。

「異無さん!?」

 いきなり身体が持ち上がったから驚いたのだろう、

「はわわわわ」

 顔を赤らめ目がぐるぐる回っている。……いや驚いて顔が赤らむか? まあ、色々と謎の多い生き物だからな奈々乃は。何かの拍子に身体の一部が液状化してスライムみたいになったり、ざらにありそう。

 そうか! 奈々乃はそのスライム能力で美唯の顔に成り済ましていたのか! どうりで水の操作とか神がかってると思ったら!

 ……。

 いや冗談だって。

「良人はあれだねえ。デリカシーがない上に常識も無いと言うか、恥知らずと言うか天然と言うか」

 濡れていない床に座っておにぎりをモサモサしている行地が失礼なことを言う。これも昼食の時と同じ半額のシールが貼ってあり、貧乏学生の哀愁が漂っている。おそらく台車の代金は致命傷だったろう。

「何が言いたい」

「幼稚。男女の区別が出来ていない、みたいな」

「はあ? この男女平等の世に何をほざくやら」

「僕が言ってんのは差別じゃなくて区別」

「男女の区別ぐらい簡単だろ。例えば奈々乃、お前脱げ。そして俺の身体と見比べて----」

 スパンッ、

「何すんだ!」

「こっちの台詞だよっ!? 完璧に変態だったよ今! 誰がどう見ても三百六十度東西南北変態だったよ!」

「は、はわはわわ」

 目が渦巻きになった状態で服を脱ごうとする奈々乃。

「君は君でやめなさい!」

 が、心無い行地に止められてしまう。

「そんな調子だとあれだね! どうせ自宅でも美唯ちゃんに差し出されたスプーンに甘んじたりしてるんでしょう!」

「ば、バカ野郎っ、そんなの駄目に決まってるだろ倫理的にっ。ほ、ほら相手は妹だぞ、常識で考えやがれっ」

「何で妹に関しては顔を赤らめるの!? 何で妹はちゃんと女性として見てるの!? 駄目だよ良人、その道は修羅の道だよ!」

「俺がシスコンだとでも言いたいのか!? ふざけんなっ、あれは可愛い妹だ、妹なんだ! 恋愛対象とかじゃ絶対にない」

「本当に? ……既に手出ししちゃったとかないよね? 手遅れだったりしないよね?」

「ふ、その辺は心配すんな。毎晩必死に自分を抑え付ける俺の勇姿を、お前は知らないようだな。俺の自制心、結構凄いんだぜ? あれは妹だあれは妹だあれは妹だと自我に言い聞かせている」

「アウトだよ!! 絶対シスコンこじらせてるって!」

「しまった」

「しまった!? 今しまったって言った!?」

 口が滑った。

「ヤバイよ、すぐ別居した方がいいよ! 手遅れになる前に!」

「だがそれは断る」

「うわあ、もう良人が犯罪者にしか見えない……」

 失礼なやつだ。まだ何もやってねえっつうの。

 ……。

 俺はシスコンじゃないからなっ。そこのところ勘違いしてもらっては困る。

「はあ、まったく。人を変な目で見やがって。やっと飯が食えるぜ」

 ぶつぶつ文句を垂れながら腰を下ろし、コンビニ弁当を開ける。残念なことに、今日は妹特性弁当ではない。結局ここに泊り込んじまったからな、家に帰ってないのだ。本当に残念なことに。

 やっと落ち着き、俺も行地もぽつぽつと軽く話しながら、少し遅い晩飯を堪能する。しばらくしてからそれなりに回復したっぽい奈々乃も交じり、三人で何でもない雑談に興じる。本当に、これと言った目的のない、談笑。んー、行地の退学が懸かってるというのに暢気なもんだ。

 下らない話題で真剣に言い合う俺達が面白いのか奈々乃が微笑んだり。行地が爆弾発言して俺が本気で引いたり。奈々乃が天然ボケをフル稼働させて謎の言語を発したり。そう言えばいつの間に行地と奈々乃が自然に喋っている。不思議なもんだ、奈々乃とはつい昨日友達になったばかりなのに、それもあんな意味不明な形で友達になったばかりなのに、まるでずっと昔からそうだったかのように馴染んでいる。

 一応言っておくが、俺は決して友達がすぐに出来るような性格はしていない。だからこそ今までクラスで浮いてきたし、不良人だなんて不名誉なあだ名まで付けられたりもした。まあ、生まれ付き“念粒子を精製出来ない”という特殊過ぎる、人間にあるまじき体質も原因の一つだが、そんなものは一要因に過ぎない。

 そもそも中身は得体の知れない何かでも、表面上は人間の形をしているのだから、もっとちゃんとしていれば、もう少しまともに友人を作ろうとすれば、そこまで差別されたりもしない筈だ。友達が出来ないのは俺のせい。どっかの誰かも奈々乃に対して言っていた、“友達が出来ないのはお前の責任だろう”と。

 まあ俺は行地ぐらいで十分なんだけどな、友人なんて。これは強がりでもなんでもない、本当にただそう思っているだけだ。別にいいじゃないか、友人の数で人の価値が決まったりなんかしない。

 いや、気が付いたら奈々乃も加わっていたが、あれは例外だ。おそらくあの顔が悪い、似すぎている、美唯に。それで親近感湧いちまったんだな、きっとそうだ。というか本当に何なんだろうな、ただの偶然なのか? 二人の顔がこれだけ瓜二つなのは。考えたところで答えが出るわけじゃないが。

 というか大体、それも合わせて最近色々ときな臭い。

 この前出没した魔物の件も謎のままだしな。すっかり忘れていたが、彦星と篤木の『烏合の衆(レジスタンス)』のことだって何も分かっていないし、それに時旅、あいつは敵なのか味方なのか。今は例の首すじへの視線は感じないが。

 高校入学から一ヶ月、一応まだ平和ではある。

 だが水面下で、平和という皮のすぐ下には、何かどうしようもないものが蠢いているような気がしてならない。あくまで気がするだけだが。

 何も分からないが、分からないなら分からないでいい。向こうから関わってさえ来なければ、それでいい。学園が裏で何をしていようが、もう俺には関係ない。せっかくこうやってバカで楽しい時を送れるぐらいには、俺の周囲も安全になったのだ。


 願わくば、どうかこんな日々がずっと続いてくれることを祈る。


 祈る相手は勿論、自分だ。

 当たり前だ、自分はいつだって自分の味方、自らの願いを叶えようとしてくれる最高の友である。何せ自分なのだから。


 だから、頑張れ俺。


 明日も平和でありますように。



 キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン、



 ?



 眩しい。



 直後。

 訓練場の壁が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 いや違う、微塵さえも残らなかった。


 その閃光は、塵一粒残さずに壁を消し飛ばし、大穴を穿ち、

 そして奈々乃があれだけ苦労して小さくしたゴミ山を、

 貫く。

 

 チュドオン、と。嘘みたいな、バカみたいな大音響。閃光手榴弾を投げ込まれたかのような、光と音の暴力。その場の全員の意識が曖昧になる。


「――――――――――っ!!」


 誰かが必死に叫ぶ。

 聞いたことのある声だ。いや当たり前だろう、ここには俺と行地と奈々乃しかいないんだから。

 でもこれは行地でも奈々乃の声でもない。

 じゃあ誰だ? 自慢じゃないが、俺が声を覚えている人間なんて大分限られるぞ。


「――――――――――! ――――――――――――っ!」


 だから聞こえねえっつってんだろ。ちゃんと働け俺の耳。


「――――――――――――――――ろ」


 野太い声だ。

 ああ、そうか、そうだ。やっと分かったこの声は。あいつだ、ついこの前聞いた。


「――――――――――――に、」


 だがそいつの声は、そこで途切れてしまう。


 もう少しで聞き取れたのに、誰だろうか邪魔したやつは。空気を読んでほしい。

 野太い声が聞こえなくなり、というか何かに掻き消されてしまい、代わりに別の誰かの声が聞こえる。

 聞いたこともない、聞きたくもない、気持ちの悪い声だった。

 聞くだけで生理的な嫌悪を抱いてしまう、腐乱したような声。直接脳を浸食するような、不愉快な声。本当に声なのだろうか、こんな声が存在していいのだろうか。黒板を爪で引っ掻く音の方がまだ癒される。

 ドロドロとした悪意そのものが込められた、いや何かの間違いで悪意が音と化してしまったような……。


 気持ち悪い。


 声の持ち主は言う。

 誰に向かって言っているのか、

 何のことを言っているのか、

 


「さアぁあ、」


 吐き気がするっ、


「始めようぜええエぇぇええ、」


 吐きそうっ、


「楽しいィタノしい、」


 吐いた。



「茶番劇をよオおォおおッ? 、?」





 真っ赤。





◆◇◆◇


 どうしても、なかなか話が進まない。全然話が進まない!

 まだ書きたい場面を何一つ書けていません。

 この物語の執筆者は馬鹿なのでしょうか、馬鹿なのですよね、馬鹿なんですよ、すみません。

 書きたくて書きたくてたまらない展開や、バトル、ストーリーが頭の中で竜巻を起こしているのですが、なかなかそこまで辿り付けません。今もなお竜巻の回転が増し続ける一方です。このままでは頭がドリルの如く回転してしまい、シャンプーもまともに出来ない身体になってしまうことでしょう。ああ怖い。

 ちなみに、現在の物語進行度は起承転結の内、承の前半です。承と言っても、いわゆる“第一章”の中の承です。

 私は基本的に妄想馬鹿なので、何でもかんでも長期スパンで思考してしまいます。なので設計図ばかりが無駄に巨大化してしまい、気が付いたら当初書きたかった場面ではなく、その下敷きばかりを延々と書き続ける始末。これだから馬鹿は困ります、遠くを見てたら近くの車に撥ねられるタイプですね。おそらく明日あたり、バイトに行ったきり帰らぬ人となっていることでしょう。それだけ、いつ死んでもおかしくないぐらい不注意なヘッポコ作者です。目が覚めたら消毒液の匂いがするなんてザラです。

 なので、いつ死んでも悔いの無いよう、今の内に遺書を書いておくことにしました。


【遺書】

 私のお墓の前でゴミを捨てないで下さい。


 ふふ、これで私は無敵です。もう何も怖くありません。

 普通に死んだら私の墓石はゴミ捨て場のシンボルとなること間違い無しです。なので、ここで先手を打っておきました。

 私の墓石にゴミを放りたかった人はすみません、諦めて下さい。


 それでは、また会えることを祈って。

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