十三話
もうお気付きでしょうが、私の文体はかなり不安定です。
めちゃくちゃ句読点の数が変動します。たまに文章がぶつ切りになります。気が付いたら無駄に冗長な文を書いています。
そして何よりも、ここ二ヶ月のスパンにより、私の文体は三百七十度ぐらいおかしな方向に進んでしまいました。一周した上に十度ほど意味不明な方向に傾いているのですから救いようがありません。二ヶ月前に書かれた話と最近の話を比べてみるとよく分かると思います。いや本当、申し訳ありません。私的にも、もう少し読みやすい文章を書きたいのですが……。色々頑張ってみます。
それでは長くなりましたが、本編をどうぞ宜しくお願いします。
「とんだ茶番だぜェ」
壁を薙ぎ払い、勢いを衰えさせぬままゴミ山を貫いた、閃光。閃光が直撃し、ゴミ山に穿たれた大穴。
ソレは、調度その大穴から姿を現した。
光の塊が直撃したそこから姿を現した。
「……つウか、まァたやっちまったァ。アクセル利き過ぎっつウのも考エもんだぜェ。なァ? 虫ども」
未だ粉塵の舞う訓練場内。穴から這い出て来たソレは、頭をぼりぼり掻きながら、そう言う。誰にともなく。
良人は例え、閃光手榴弾を足元に放られようと、音響弾を耳元に放られようと、催涙弾を目の前に放られようと、即座に対処することが出来る。しっかりと五感の一部を損失しながらも、使い物にならない身体はすぐに意識から外し、まだ無事な他の部位で的確なその場しのぎを試みる。
現に、三角錐の魔物による直下からの突撃にも、奈々乃を攻撃すると見せ掛け良人に方向転換した触手にも対処してみせた。それだけの経験と理不尽を積んできている。
だがどうだろう、その光景を前にして何をすることも出来なかった。
良人は唖然とする。呆然と立ち尽くす。
目の前の光景が、あまりにもあんまりだったため。
突如現れたソレが右手に持っていたもの、それがあまりにあんまりな姿だったため。
「オ? どウした、これがそんなに珍しイか? まじまじみちゃってまア、そんなに見んなよォ照れるぜェ」
どちゃり、と。
足元に放られる、変わり果てた知人の姿。
一昨日見せた損傷とは比べ物にならない程の致命傷。いや、致命傷どころではない、どう見てもこれは即死だろう。
「アッはァ」
閃光の能力者の顔面が歪む。それで笑んでいるつもりだろうか。
「ぼくァね、大っ嫌イなんだよ、“右”ってやつがァ。だから、」
放られた残骸。
それは大柄のクラスメイト、篤木 圧土の左半身だった。
右半身が、、無い……。
「奪ってやった」
誰がどう見ても即死。これだけの傷を負って生きている筈がない、これで生きているのは有り得ない。
そう、生きているのは有り得ない。
だから――――、
「何で、だ」
当然の疑問。
「何でこいつはまだ生きてんだよっ!!?」
――――目の前の光景は有り得ない。
「アッはァ、イイねエェその反応っ! 最高に最低な気分だぜェ!? あひゃ、あっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
そいつは嘲笑う。完全に狂っている。
通常の狂い方ではない、より歪んだ、より曲がった、より屈折した嘲笑。
腹を抱えながら、狂笑を響かせながら、地団駄を踏みながら……そいつは目から“大量の涙を流している”。
決して笑い涙などではない、愉悦と快感と哀惜と後悔を内包する矛盾した感情。怖気が疾走しそのまま失踪してしまうような未知なる情緒。この男の精神は既に人間から逸脱してしまっている。
「ひ、ひっク、ひゃ、ひゃはっはァっ。どーだァ? イイィ感じに仕上がってんだろウ? 身体活性化させて生き長らエさせてんだ。なに、んな難しイ話じゃねェ、ようは生きてさエイりゃイイんだよ。右手、右足、右胴体の骨と肉、あと脂肪は元からほとんどなかったがァ、それら“だけ”を消し炭にした。内臓と血管傷つけずに“彫る”の大変だったんだぜェ? 見てみろ、こイつ気絶しながら止血してやがる。念粒子の塊で傷口塞いでんだなァ。なかなかどうして便利で不便なクソ能力だぜェ」
まるで手をかけて作り上げた芸術品を自慢するように講釈を垂れ流す狂人。
確かに言う通り、内臓と血管は傷ついていない。だらしなくはみ出してはいるが、光り輝く強い念粒子の輝きに包まれ、外気と地面に触れないよう施されている。
大した能力だが、ここまでして生き長らえるぐらいなら死んでしまった方がまだマシだ。
「っぐぅ、げ」
狂人の異常さに、気持ちの悪さに、篤木の有様に、再度胃の中身をぶちまけそうになってしまう良人だが、寸での所で堪える。
今は吐いている場合じゃない、一時の感情に身を委ねてはいけない。
いつでも冷静でいられた側が勝つのだ、篤木の惨い仕打ちには怒りを覚えるが、だが怒りに身を任せてしまったら、きっと報われないのは篤木本人だろう。切り抜けられる場面を私情で台無しにしてしまうのが一番怖い。
まずは状況確認。いつでもどんな時でも、何よりも状況の把握が最優先。あのキチガイの鳴き声など聞こえない。意識の隅には置くが、何の情報も持たない言葉は右から左へ受け流す。
「お前は何者だ、なぜ篤木を襲った」
だが口と耳には働いてもらう。情報収集のためにも、思考する時間を稼ぐためにも、会話を続ける。
「あー、こイつお前の知り合イだったのかァ」
良人と狂人の距離は、約十メートル。超能力者同士の戦闘ならばゼロ距離に等しい。お互いが同レベルの能力者なら、異能力による“殴り合い”が出来る位置。そして、おそらく狂人は超能力者だろう。あの威力の大技を何の苦も無しに発動したのだから。まだまだ余力を残している。だからこそ、こうして会話を行っている。自分が圧倒的な優位に居ると、絶対に負けることはないと確信しているから。
「っんな睨むなよゥ、怖エェ怖エェ。仕方ねェだろ? 命知らずにもこそこそ跡をつけて来たのはそイつ
なんだぜェ? どこの組織のもんかは知ったこっちゃねェが、ハッはァ、とんだ茶番だぜェ」
最初、ゴミ山に開いた穴から這い出て来たということは、おそらくあの閃光はこいつ自身が何か強力な力を纏い、突進した姿。十中八九、『附加系統』の能力者と見ていい。あいつはその内の“強化タイプ”。篤木と同じで、自身の身に何かしらの力を宿らせ闘うタイプだ。強力で持久力も高いが、リーチが極端に短いのが弱点。近付くのは禁物、逆に言えば攻撃は遠くからするべきだ。
そして、強化タイプにはもう一つの弱点がある。能力発動までのタイムラグだ。
襲撃前、キイイイン、という耳鳴りのような音が聞こえていた、大体一秒ほど。それから閃光は訪れた。つまりあれが狂人が能力発動のために要するタイムラグだ。いや、それでも恐ろしく短い発動時間だが、“超能力者にしては”遅い。
――――そう言えば、狂人が着ている服は上も下も真紅。あれは知っている、『赤服』の連中だ。何の用があってこんな所に居る? 俺が目的か? これは考えたところで分からないが。
髪の毛の色は空白のような白。あの色合いも知っている、時旅と同じタイプの白髪だ。関係者なのかも知れないが、これも今はどうでもいい。
「お前の目的は何だ?」
次に自陣の考察。
こいつが現れてから奈々乃と行地の声を聞いていない。
閃光とともに狂人が現れる前、奈々乃はゴミ山の辺りをちょろちょろしていた筈。そしてゴミ山は崩れた。気付かれない程度に視線を動かす良人。
案の定、そこに奈々乃は居た。粗大ゴミに埋もれ、虚ろな目でこちらを見ている。あの様子だと能力は使えない、戦力外だ。
いやそれどころではない。狂人はゴミ山から這い出て来た、つまり良人よりも狂人の方が奈々乃に近い位置にいる。最悪だ、あそこに奈々乃がいることが気付かれたら人質にでもされかねない、それか即殺されるか。だからこそ、奈々乃は痛みを必死に堪え息を殺している。せめて足手まといにならないようにと。
奇しくも魔物と一戦交えた時と同じ状況。良人はなんとか舌打ちを漏らすのを堪える。
「あー? イやそれ言っちゃ駄目なんだがァ……つウか本当は会話すら禁じられてんだがなァ」
行地の姿が見えない。
襲撃の前は、確か訓練場の倉庫付近に居た。瓦礫に埋もれたなんてことはないだろう。
――――俺達はゴミ山の片付けをしていた。つまり大掃除。寂れた訓練場。淀んだ空気。換気。
――――なるほどな。
チラリと視線を一瞬上に向ける良人。
更に、もう一度奈々乃を見やる。
「ま、学園の指示なんかどウだってイイしな、答エてやんよ。こんな登場しとイて言うのもアレなんだが、ボクァ、別にお前ら虫を潰しに来たわけじゃねェのよ。実際の任務の目的は別にアってだなァ……やァ、こりゃアさすがに言エんけどなァ」
よし、最大の情報も得られた。
こいつは馬鹿だ。能力の強さに奢り高ぶって油断しまくりの馬鹿だ。
材料は揃った。今にも殺されかねない奈々乃、どこにもいない行地、油断している相手、視線、倉庫。
作戦が決まった。
――――つうかもう、作戦は終わっている。
「今だ! 能力を発動しろ!!」
と、良人は奈々乃に向かって思い切り叫ぶ。
「ばァればれだっつの虫どもが」
念粒子を練る狂人。
狂人の右半身が赤い服越しに白く発光し、
キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン、
一秒ほどで訓練場は眩い光に満たされる。
その右半身が、超身体能力を発揮するための充電を終える。
狂人は気付いていた。
先ほどから念粒子を練る気配がする、と。ぶつぶつと妙な声も、微かだが聞こえる。
そして斜め後ろに能力者が居ることも。
だから振り返る、小賢しい伏兵を消し炭にするために、
「あ゛ァっ!?」
が、そこには能力などまともに使える筈のない、瀕死の少女が居るだけで、
(――――何て言うと思ったか? 虫。)
それには気付いていた狂人。
奈々乃が動けないことなど最初から確認済みだ。
“斜め後ろに伏兵が存在している、と狂人に認知させる。そのために、わざと狂人が気付くように奈々乃のことを見やる。狂人は思うはずだ、奈々乃が伏兵なのだと。これだけあからさまに念粒子を練る気配がするんだ、そう思うに違いない。そして奈々乃を襲う狂人を、別の伏兵の不意打ちにより攻撃する。”
というのが良人の狙いである。
そんなことはお見通しだ。
当たり前だ、伊達に超能力者をやっているわけではない。
良人達の狙いは、影で膨大な念粒子を溜め続ける、もう一人の能力者。行地だ。
今日この日、良人一行は訓練場の粗大ゴミの片付けをしていた。大掃除。つまり換気を行っていた。全ての扉も窓も開け放っている。倉庫の中の窓も開かれていることだろう。その証拠に、倉庫の扉は開いている。おそらく換気のために開けられているのだろうに、肝心の窓だけ開けないなんて道理は無い。だから倉庫の窓は開いている。
そして誰かが倉庫の中に入っていったのも確認済み。
倉庫に入ったそいつは何を思うだろうか? つまり、ここに居ない人間、行地の思考回路。それはこうだ。
“仲間がピンチの状況で、自分だけは逃げることが出来た。おそらく相手は気付いていないだろう、不意打ちのチャンスじゃないか。でも自分がこの中に入っていったところを敵に見られたかも知れない。それでは不意打ちは無理だろう。そうだ、今なら外に出ることが出来るじゃないか。倉庫から出るためには窓を開けなければいけない、でも今窓を開けたら音で確実に気付かれるだろう。だけれど、幸いなことに元から窓は開けてある。これなら音を出さずに、外に出ることが出来る。そして外に出て、別のポイントから敵を攻撃しよう。”
と推測出来る。
だが倉庫の窓は果たして人間が通れるほどの大きさなのか?
その懸念も、良人が“一瞬上を向いた”ことにより解消される。
良人はなぜ上を見たのか? そんなものは決まっている。そこに伏兵の姿、つまり行地の姿があったからだ。そこに行地が居たということは、倉庫の窓は人間が通れるものだった筈。
良人が狂人を騙し、狂人が奈々乃を襲ったところを、遠距離から行地が仕留める。
そういう作戦。大した連携である。何の打ち合わせもなしに。
そして、案の定、本命の伏兵が能力を発動したのだろう、
ドゴオオオオオオオオオ、
巨大な何かが放たれる音が聞こえる。行地が放った火炎弾だ。
良人の作戦によると、この火炎弾は奈々乃に向かっている。作戦通りに行けば、狂人は奈々乃を襲う筈だからだ。
だがそれは、むしろ狂人の思うつぼ。
狂人はぎりぎりまで奈々乃に迫っていた。このまま軌道を変えずに奈々乃を攻撃しようとすれば、火炎弾が直撃し、狂人はただでは済まないだろう。
だがこれは狂人の演技だ。伏兵に攻撃をさせるための。これを避ければ、逆に奈々乃に火炎弾を当てることが出来る。労せずに一人撃墜。だから奈々乃の目の前で軌道を変えられるよう、突進の威力と速度は調整してある。
軌道の変更先は一つ。即ち、本当の伏兵が潜む場所。そこに突っこむ。伏兵の位置は知れている、良人が目で確認した方向。その方向に向かって直進すればいい。記憶力と観察力には自信がある、寸分違わず突っこむことが出来る。
“そして狂人は、良人の作戦通りに、軌道を変更した。”
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、
と。
狂人の着弾点。伏兵が居ると予測していた地点。
火炎弾はそこに向かって放たれていた。全てを狙い済ましたかのように。
つまり、狂人は自ら火炎弾の着弾点に突っ込んだ。
ことここに至り、自分の予測が、まんまと相手の思い描いたものだと気付く。
“そう”思わせるための、良人の目配りと言動だったということを、ようやく理解する。
「ふ、ざ、け、」
だがもう遅い。
既に一回軌道を変更しているのだ。
いくら調整していたからと言って、ここから更に軌道を変更することなど不可能。
狂人は、諦観したように言う。
「とんだ茶番だぜェ……」
閃光と火炎弾が激突する。
爆発音。
◆◇◆◇
はい。その見解は正しいです。
その通り、この作戦、かなり運任せです。狂人が必ずしも騙されるとは限りませんからね。
一応、良人は“狂人の目の動きから”逆に狂人の大体の思考を読み取っていたので作戦を決行したのですが……それでも成功率は百パーセントにはならないでしょう。そもそもが、良人自身“成功すればいい”程度の期待しか込めていません。成功したから結果オーライなんですけど。とんだ茶番ですね。
それに、これが成功しなくてもまだ手はありました。その中の一つがたまたま成功しただけです。主人公なんですから、奥の手の一つや二つや三つや四つや五つや百つぐらい隠し持ってたりしますよ。千手観音みたいなやつですね。
冗談はさておき、もう一つ懸念要素。
行地がどうやってこの作戦に気付いたのか。
良人の作戦を把握していなければ、狂人の着弾点に火炎弾を放つことなど不可能。でなければ狂人の予想通り、奈々乃を焼き殺していたことでしょう。
一応、これにも理由はあります。ですがこの場で言うのも流石に憚られますので、また本編にて説明もどきを致します。……その内……出来たら。
そんなわけで、苦し紛れの言い訳コーナーでした。
次話にて説明はしようと思っていたのですが、読み返してみるとちょっとアレでしたので、一応この場で。すみません。どうみても私の力不足です。いつかそういった点も含め、まとめて修正するつもりです。……いつか……出来たら。
それでは、また会えることを祈って。




