初めての夏祭り!(後編)
2014年4月14日。
ベフゾドは家に着くと、いつものように20分間シャワーを浴び、髪を乾かし、下に白いシャツを着ず、黒いシャツだけを身に着けた。腕と前腕が露わになっている。ズボンは今日履いていたのと同じものだが、今回は頭にキャップをかぶらなかった。髪型が台無しになるからだ。
彼はついに、自分が本当に好きで、しかも自分に似合う髪型を見つけた。濃い茶色の髪は今、ミディアムの長さでごっそりレイヤーが入っていて、乱れたギザギザの毛先が顔を縁取っている。長くて不揃いな前髪が額にかかり、サイドと後ろは柔らかな羽根のようなスパイクになって跳ねていて、いつも風に吹かれたような、寝不足みたいな雰囲気を醸し出していた。"クソ...これ、めっちゃ似合ってる...!" ベフゾドは信じられないという口調で、笑みを浮かべながら独り言をつぶやき、おかしそうに鼻で笑った。
時計を見ると、まだ午後7時だと気づいた。それで、日本に引っ越してから初めて、ロシアに残っている昔の'ダチ'に電話することにした。彼はクルパチャの一つに座って脚を組み、"Самир кент 777"(サミール、ダチ777)という連絡先にダイヤルした。
サミールが電話に出ると、会話が始まった、
"Алё,"(アロー)サミールはいつもの落ち着いた、無関心な声で言った、
"Алё, дарова"(アロー、よう)ベフゾドは、普段は礼儀正しいその声に珍しく興奮を滲ませて返した、"Ну чё блять, не помер еще?"(で、まだ死んでなかったのか?)
"Нет, к сожалению для тебя,"(いや、残念ながらお前にはな,)"Ну как Япония?"(で、日本はどうよ?)
ベフゾドは突然キャラが崩れ、少し声が大きくなり、興奮しながら、自分の奇妙な冒険についてサミールに語り始めた、"КОРОЧЕ, БЛЯТЬ, ТЫ ПРИКИНЬ--"(つまりだな、クソ、想像してみろよ--)
ベフゾドは6分かけて、日本では全員が天然のネオンカラーの髪をしていて、普通の髪色なのは自分と、数人のクラスメイト(カイト、キンジ、シズカ)、そしてマリナだけだということ、そして自分だけが、自分をいわゆる"主人公"にしてくれるはずの、いわゆる"アニメのお約束"を一つも満たしていないということを語った。
"Блять, понимаешь, я не верю тому что там ВСЕ с кислотно-цветными волосами,"(クソ、なあベハ、分かるだろ、でもあっちの全員が蛍光カラーの髪だなんて俺は信じねえぞ)"Ты как далбаеп звучишь, пока фотку не скинешь я не поверю,"(お前、アホみたいなこと言ってんぞ、写真送ってくるまで信じねえからな)
"Ну будет тебе фотка, заебал! Сегодня как раз фестиваль какой-то, я уже забыл,"(写真ならやるよ、うるせえな!今日ちょうどなんかの祭りがあるんだ、もう忘れたけど)
"Ладно, похуй, я должен идти, давай"(まあいいや、どうでもいい、俺はもう行かなきゃ、じゃあな)
"Бля, чо так быстро?! ... Лан, похуй, давай, удачи. Целую~"(おい、なんでそんな早いんだよ?! ... まあいいか、どうでもいい、じゃあな、頑張れよ。ちゅっ~)
"Фу блять, гей. Ты до сих пор по гейски шутишь?!"(うげ、クソ、ゲイかよ。お前まだゲイっぽいノリで冗談言ってんのか?!)
"Самир, в мире бессмертны три вещи - насилие, гордость, и мое гейство,"(サミール、この世には不滅のものが三つある--暴力と、誇りと、俺のゲイっぷりだ)
"Блять, хоть что-то умное выдал. Лан, все, пока."(クソ、やっとまともなこと言ったな。まあいい、じゃあな。)
"Бай, бай."(バイバイ。)
ベフゾドは通話を切り、携帯をポケットに突っ込んで、安堵のため息をついた。'あの野郎...ほんと大好きだ...' 彼は果てしない誇りと温かさとともに、心の中でそう思った。
それからもう一度ため息をつくと、茹でたそばの実の皿を平らげ、立ち上がってキッチンへ行き、皿を洗い、キッチンの引き出しに突っ込んだ。コップに水を注いだ。ベフゾドのビール用コップは500ミリリットルも入るからだ。そしてそれを飲み干し、同じようにキッチンの引き出しに突っ込んだ。
その後、すべての明かりを消し、窓の鍵を閉め、エアコンを切って、アパートを出てドアに鍵をかけた。ドアに鍵をかけると、いつものように素早いジャンプで階段を駆け下り、勢いを失わないよう手すりを掴んで角を曲がりながら、鍵をズボンのポケットに突っ込んだ。
彼はいつもの歩幅で通りを歩いた。左手はポケットに突っ込み、右手は脇にぶらりと垂らしている。マリナの家まで行って、彼女を連れ出さなければならないのだ。
20分後...
二階建ての家にようやく着くと、ベンチに座ったマリナが、足をぶらぶらさせながら、嬉しそうな三日月形の目で何かを鼻歌で歌っているのが見えた。彼女の浴衣は、昼間の祭りのときと同じものだった。
"よう、" ベフゾドは近づきながら言った。その声はいつものように穏やかで、淡々としていて、礼儀正しい、
マリナはベフゾドを見上げると、すぐに歯を全部見せてにっこり笑い、ベンチから飛び降りて彼の腰にぎゅっと抱きつき、でれでれの幸福感に満ちた顔で彼を見上げた、"ゾディクちゃん!やっと来た!ここに置いてけぼりにされたかと思ったよ!" 彼女は軽くくすくす笑いながら言った、
ベフゾドはすぐに氷のように溶けて、抱きしめ返し、彼女の頭のてっぺんにキスをした、"これは俺たちの初めての祭りだからな、お前にも見せたいに決まってるだろ、" 彼は愛情のこもった優しい声で言いながら、彼女の背中を撫でた、
一方、窓の向こうでは、ベフゾドとマリナの父親が、深い憂愁を湛えて二人を見つめ、タバコを吸っていて、その横で母親が皿を洗っていた。
マリナがようやく彼を離すと、二人は夏祭りそのものへと続く道を歩き出した。
"ゾディクちゃん、どうして自分の悩みとか問題のこと、ぜんぜん話してくれないの?" マリナは突然、母親のような気遣いを込めて尋ねた。いつもの笑顔はなく、ただ好奇心に満ちた瞳で彼を見上げている、
"あー、えっと..." ベフゾドはすぐに赤面し、頬を掻いて彼女の視線を避けた。だが彼女の本物の心配を見て、首を振り、ゆっくりと息を吐いた、"... ロシアに元カノが二人いたの、覚えてるか?ヴィカとマリア。"
"うん?" マリナは好奇心から眉を上げた、
"前は心を開いて、自分の問題を話したり、愚痴ったり、とかしてたんだ。でも彼女たちは、俺のことを、問題を自分で解決せずにひたすら愚痴ってばかりいる、めそめそした男の子だと見なした。それに、父さんや母さんに何か問題を話すたびに、いつも '10代に問題なんてあるわけない' とか '俺たちの問題の方がもっと大きい' みたいなことを言われてさ、だから俺はいつも、自分のトラウマは大したことないって思って、自分で解決した方がいいって思うようになったんだ。" ベフゾドはまったくいつも通りの声で説明した。その声は少しも変わらなかった、
"それは...ひどいよ、ゾディクちゃん..." マリナは今度は少し悲しそうな顔になった、"だから、あの人たち今は私にあんなに優しいんだ..."
"たぶんな。でも、もうそんなことどうでもいいんだ、今はもう問題なんて一つも残ってない。一人暮らしを始めたら、全部消えたよ。" ベフゾドは彼女を安心させようとして、落ち着かせるために彼女の頭のてっぺんを軽く掻くように撫でた、
"ゾディクちゃんも幸せなら、私も嬉しい," マリナは突然ベフゾドの手首を掴み、手の甲にキスをして、そこにおでこを寄せた、"ありがとう...いつも私の壁になってくれて...ゾディクちゃんは、世界中で一番大好きな人!" 彼女は誇らしげな満面の笑みでそう宣言し、彼の手を離して、両手を腰に当て、胸を張った。
"お、俺は..." ベフゾドの頬は一瞬で真っ赤になった。これがベフゾドの隠された一面だ。予想外だけれど嬉しいことが起こると、実は本当に照れ屋になるのだ。"あ、ありがとう...スウィーティー..." 彼は少しどもりながら言ったが、その声は今や完全に温かさに満ちていた、"お前も...俺の一番大事な人だ..."
"夏祭り"という名のエルドラドへの残りの道のりは平穏に過ぎ、その途中でベフゾドとマリナは、学校で見たときと同じ浴衣姿のシズカに会った。
"マリナちゃん、ベフゾドくん!" シズカは突然近づいてきて、乙女のように45度のお辞儀をした、
"よう、そんなふうにお辞儀するなって!なんか傲慢な貴族にでもなった気分になる," ベフゾドは手を振って遮り、軽く笑った、
"こんばんは、シズカちゃん!" マリナも完璧な45度でシズカにお辞儀を返した、
"二人とも元気?~" シズカは元気いっぱいに尋ねながら、ベフゾドとマリナを先導して歩き出した、
"元気、元気。" ベフゾドはいつもの礼儀正しい声で、微笑みながら答えた、"そっちはどう?"
"うん!シズカちゃん、今日すっごく元気そう!" マリナは迷子にならないようベフゾドの手を握りながら、くすくす笑って答えた。
"え、えっと...二人と一緒に過ごすのが大好きなだけだよ!" シズカは濃い深紅の赤面で顔を覆い隠し、すぐに振り返って道を進み続けた。
彼らが今しがた通り過ぎたベンチには、短髪で若く見える金髪の男が座っていた。蒸し暑い夏の夜だというのに、洗練されたハイカラーのシャツを着て、不気味なほど礼儀正しく微動だにしない姿勢でアイスティーをすすっている。その瞳は人間らしい温もりを一切欠いた、虚無のような淡い青色。人の魂を内側から粉々に砕くために設計された、柔らかく催眠的な囁きで話す、社会病質の操作者、ロハン・キシバラの特徴的な眼差しだった。彼の襟のバッジには 'ロハン・キシバラ、孤児院 '子供の心' 第9代管理者' と書かれていた。
ベフゾド、シズカ、マリナは彼に気づかなかったが、ロハンの方はマリナに注目していた。'面白い...' 彼は膝に肘を置き、頬に手のひらを当てながら、心の中でそう思った。'脆そうだ...'
ベフゾドはマリナの手を握ったまま、彼女とシズカを屋台へ連れて行き、そこで餅を買ってやった。支払いのためにベフゾドはマリナの手を離した。だがその時...マリナは突然ふらりと、大きな人混みの中へ入り込んでしまい、純粋なパニックで目を見開いたまま、その中をうろついた、"ゾディクちゃん...?"
"迷子かな、お嬢ちゃん?" 背後から、柔らかく、不気味なほど優しい声がした。ロハンは静かな神社の屋台の影から歩み出て、彼女の目線の高さまで膝をついた。その笑みは滑らかで心地よさげだったが、完全に空虚で、共感というものが欠けていた、"君は、あの男の妹だろう?かわいそうな子だ...あんなに重い鎖を首に巻いて生きているなんて," ロハンは、毒を含んだ静かな強制の気配を滴らせる声で囁いた。"彼は、君が遊んでいられるように、自分の青春も、安らぎも、自由も犠牲にしたんだ。彼の傷の一つ一つ、孤独な夜の一つ一つ...全部、君のせいなんだよ。心の奥では分かっているだろう?君は彼を闇へ引きずり込む重荷でしかないって。君がただ消えてしまえば、彼の人生はずっと軽くなると思わないかい?"
マリナの瞳孔が縮んだ。目の中の明るい星々は一瞬で死に絶え、圧倒的で押し潰すような罪悪感の、虚ろな茶色の輪に取って代わられた。息が詰まり、手が震え出した、"わ、私は...私が...?"
一方ベフゾドは、目を皿のように見開き、絶対的な超集中の「スナイパー・ビジョン」を発動させ、純粋で混じりけのないパニックの中で周囲を見回し、シズカを完全に置き去りにして人混みを荒々しくかき分けていった、"マリナ!!!!マリナーーーー!" 彼はパニックと罪悪感の入り混じった声で叫んだ、'どこだ...どこにいる?!' 彼は顎を食いしばりながら心の中で思ったが、そのとき突然、凍りついた。目の前でロハンがマリナを見下すように話しかけていて、マリナの目はすっかり虚ろになり、今にも泣き出しそうな顔をしていた。心理系アニメを数本観たことのある男として、ベフゾドはロハンがどんなアーキタイプを象徴しているのかを理解した。
突然、不自然で絶対的な静寂が夜を飲み込んだ。
音楽も、笑い声も、揚げ物のジュウジュウという音も、すべての音が一瞬にして漆黒の虚無へと消えた。ロハンの背後でも、周囲の明かりが死んだ。
ベフゾドはそこに立っていた。全身が漆黒の影のシルエットに飲み込まれ、左目は純粋で目も眩むような白い光を放って燃え、残像の軌跡を残している。共感ゼロ。ためらいゼロ。後悔ゼロ。彼はキックボクシングを使わなかった。武道の名誉など気にしなかった。無言で、打ち捨てられた屋台から重い鉄製のパイプ椅子をひっつかみ、ロハンの背後に歩み寄り、跳び上がって、わずかに体を回転させながら全身の生の勢いでその椅子を振り抜き、ロハンの頭頂部めがけて叩きつけた。ガキィッという凄まじい音とともに!
モノクロの衝撃フレームが、暗い路地いっぱいに炸裂した。
ロハンの体は舗装路に激しく叩きつけられ、人を操る余裕は一瞬で砕け散って純粋な恐怖に変わった。何が起きたのか理解する間もなく、ベフゾドは凹んだ椅子を落とし、ロハンの髪を掴んで、全力で床に何度も何度も叩きつけ始めた、
バンッ!バンッ!バンッ!
床だけでは怒りが収まらないと悟ったベフゾドは、ロハンに馬乗りになり、両手の拳を組み合わせて、持てる限りの全力でロハンの顔面に振り下ろし始めた。それでも気が済まないと、今度はただ殴り、顔を踏みつけ始めた。一撃ごとに、白黒の衝撃フレームが炸裂した。ベフゾドの食いしばった顎と剥き出しの歯は原始的な怒りを放ち、その目はロハンの折れかけた鼻と砕けた顔に釘付けになっていた。"もう一回言ってみろ、このクソ野郎!もう一回言ってみろおおおおおお!" ベフゾドの咆哮がついに静寂を打ち砕き、祭りの警備員たちが慌てて駆け込んできて、彼の肩を掴んで、意識を失い、血まみれで、永久に顔が変形してしまった操り屋から引き剥がした。その男は、暗闇に光る白い目の記憶に生涯トラウマを抱えて過ごすことになる。
シズカが駆けつけると、彼女はすぐに、安堵で泣いているマリナのそばに立った、"マリナちゃん!何があったの?!" 彼女は極度のパニックと見開いた目で尋ねた、
"あ、あの人..." 彼女は床に倒れた、意識のない血まみれのロハンの体を指さした、"ゾディクちゃんは私のことを好きじゃないって言ったの..." 彼女は突然微笑み始め、涙を拭いながらシズカの方を向いた、"でもそしたら...お、思い出したの...ロシアで--...私が一度お母さんの花瓶を割っちゃったとき、ゾディクちゃんが自分が割ったって言って、そのあとお父さんがベルトで彼をぶったこと...それから、ゾディクちゃんがいつも、私のことを好きじゃない人や私を傷つけた人をみんなボコボコにしてくれたこと...私に悪い言葉を言った、背の高いすごく大きい男の子だって、まるまる一年間、昏睡状態だったんだよ...!" 彼女は時々言葉につかえながら語り、その間にベフゾドは連行され、マリナとシズカは警備員たちの後を追って歩き出した、"ゾディクちゃんは、この世の何よりも私を大切に思ってくれてる..." 彼女は安堵のため息をついた、"私も、だからこそゾディクちゃんのことが果てしなく大好きなの..."
ベフゾドが実際にどれほどの痛みを背負っているのかを聞いたシズカは、純粋な気づきに目を見開いたまま、黙って歩いた。'だから彼はあんなに大人びてるんだ...子供時代なんてなかったんだ...' シズカは心の中で思った。'彼って、本当にどれだけ完璧なの...?!'
30分後...
マリナ、ベフゾド、シズカは警察署を出た。ベフゾドは疲れた半開きの目をしていたが、マリナとシズカはいつも通り幸せそうだった。
"危うく裁判沙汰になるところだった、くそ," ベフゾドはいら立ちながら独り言をつぶやき、指の関節を噛んだ、
"ゾディクちゃん!" マリナは突然ベフゾドの腰にぎゅっと抱きつき、前に歩きながら、目を愛らしい '>_<' の形に閉じていた、"だーいすき!" 彼女は嬉しそうな声でつぶやいた。
"俺も大好きだよ~" ベフゾドも同じくらい嬉しそうにつぶやき、手を下ろして彼女の頭のてっぺんを撫でた。
その隣でシズカは、体の横で両手を握り合わせ、目を幸せそうな三日月形に細めて、"あぁぁ~!" と、そっと声を漏らした。
3分後...
ベフゾド、マリナ、シズカは再び餅の屋台にやって来て、ベフゾドが全員分の代金を払い、それからベンチに座って餅を食べた、
"んん~っ" シズカは空いている手で頬を押さえながら声を漏らした、"甘ーい!ありがとう、ベフゾドくん!"
"いいって..." ベフゾドは空いている手を振って軽くあしらい、一口かじると、その感覚に思わず目を閉じ、幸せそうに微笑んだ、
一方マリナは、もう一度目を拭い、ベフゾドを見上げた、"ゾディクちゃん...ありがとう...いろんなこと全部..." 彼女はほんのりバラ色に頬を染めながら優しく囁き、背伸びしてベフゾドの頬にキスをした、"壊れない壁でいてくれて...いつも助けてくれて...そして、私を無垢なままでいさせてくれて..."
ベフゾドの顔が固まった。いつもの無表情は一瞬で、純粋な感情のむき出しの脆さへと溶けていき、彼は手を伸ばしてマリナの肩をぎゅっと抱きしめ、彼女の肩に顔を埋めて小さく泣き声を漏らした、"マリナァァァ!!! 感情を呼び起こすなぁぁぁ!!!" 彼の薄い赤面の熱がマリナの肩を温め、彼女は明るく、メロディのように笑い始めた。
一方シズカは、ハートの目でそれを眺めていた。両手は鎖骨のあたりで丸められている。'大当たりを引き当てちゃった!ライデンが私のことをすっごく羨ましがるに違いない!!!' シズカは純粋な興奮とともに心の中で思った。
数分後...
シズカはマリナのために何か景品を取ろうと射的に挑戦することにし、マリナ本人は熱心にシズカを応援していた。その横でベフゾドは、ひどく憂いを帯びた顔でそれを眺めていた。'なんで...シズカの近くにいても、"ときめき"を全然感じないんだ...' ベフゾドは心の中で思った。'つまり...マリナ以外で初めて優しくされたことを、恋愛感情だと勘違いしてたってことか?... 中二病ぶるのは好きじゃないけど...彼女は好みですらないのに...なんで俺は彼女のことを好きになったんだ?' ベフゾドが心の中でそう思っていると、マリナが突然声をかけてきた、
"ねえ!ゾディクちゃん!" マリナはベフゾドの手をつついた。
"えっ?!誰だ?!" ベフゾドは首を振った。
"シズカちゃんの代わりに撃ってみて、シズカちゃん下手くそなの!" マリナははしゃいだ。
"ちょっと!そんなことない!" シズカが叫んだ。
"あー...分かったよ...!" ベフゾドはつぶやいた。
ベフゾドはためらいながら、シズカと位置を交代した。どうやらコルク銃のゲームらしい。本物の銃じゃなくて助かった。彼は左目を閉じ、ライフルを胸に構えて照準を覗き込み、目を見開いて超集中のスナイパーモードを解放した。
ポン!
コルクは三つのプラスチック缶を貫き、熱心で心底誠実そうな屋台の店主が、巨大なテディベア(約1.5メートル)をベフゾドに手渡した、"おめでとう!もっとやるかい?~"
ベフゾドは、一度に三つの缶を撃ち抜いたという事実に本気で驚いていた、"待て、どうやったんだ、俺..." 彼は混乱して瞬きしながら独り言をつぶやいた、"撃ったことなんて一度もないのに...これがいわゆるベタ展開ってやつか?" だが店主がクマを手渡すと、彼はハッと我に返り、そっと抱きかかえた。片手でクマのお尻を支え、もう片方の手で胸のあたりを抱えて、落ちないようにしていた。
"あはははは!" シズカはベフゾドがクマを抱えている姿を見て、声を上げて笑った、"それ持ってるとすっごくかわいい!なんかこう、無表情で困惑した顔に、巨大なかわいいクマって組み合わせ、あはは!"
"シズカちゃんに賛成," マリナは腕を組み、温かく微笑み、目を幸せそうな三日月形に細めて付け加えた、"ほんとにかわいいよ!"
"えっと...ありがとう、でいいのか...?" ベフゾドは困惑しながらつぶやいた。その顔は、純粋な無表情と真顔さを極めた、コミカルな "o_o" だった。
だがそのとき...
ブッブー!ブッブー!
マリナとベフゾドの両親がミニバンで到着した。マリナはすぐに駆け寄り、ベフゾドは苛立ちと嫌悪の混じった舌打ちをしたが、それでも彼らの方へ歩いていった。シズカは後ろに残り、その目は純粋な困惑の白い丸い輪になっていた。
"お父さん!お母さん!見て、ゾディクちゃんが射的で私に取ってくれたの!" マリナはベフゾドの手からクマをひょいと受け取り、それをお父さんに渡した、
"かっこいいおもちゃだな!" お父さんは歓声を上げた、"よくやった!"
ベフゾドは何もコメントせず、嫌悪に歪んだ顔でそっぽを向いた。腕は組んだままだ。
お母さんは車の中に残っていた。
"あー...ゴホン、さて、マリナ、家に帰ろう、もう寝る時間だぞ!" お父さんはミニバンを指さしながらマリナに言った、
"やだ!お願い!ゾディクちゃんと一緒にいたい!" マリナは本当に悲しそうに言った、
"だめだ!ゾディクちゃんは自分で寝る時間くらい分かる年なんだ!" お父さんはマリナを叱った、"ほら、行くぞ!"
マリナは心底悲しそうにため息をつき、シズカとベフゾドに別れを告げようと振り返り、それから、突然にやりと笑った、"ねえ、二人でこうして並んでると、夫婦みたいだよ!"
シズカの顔は一瞬で真っ赤になり、恥ずかしさのあまり耳からすぐさま湯気が噴き出した、"ち、違うよ!"
ベフゾドの顔は変わらなかった。嫌悪に歪んだまま、赤面もしなかった。ベフゾドがクールで中二病だからとか、そういうくだらない理由ではなく、この瞬間、シズカが彼の"妻"の座に就くことは決してないと、心の底から悟ったからだ。"... そう見えるかもな。たぶん。" 彼はマリナを見下ろし、膝をついて、彼女の額にキスをし、頭のてっぺんを軽く掻くように撫でた、"... たまには、おっさんの顔を見に来いよ、な?俺の家を知ってるのはお前だけなんだから..."
"私も知ってるよ!" シズカはハムスターのように頬を膨らませて、ふざけてふくれっ面をしたが、ベフゾドにもマリナにも無視された。
"おっさん?! ぷっ! ゾディクちゃんはすっごく若いよ!" マリナは突然背伸びして、お返しにベフゾドの頬にキスをした。彼の頬は一瞬で核爆発級の赤面に覆われ、その間に彼女はミニバンへ歩いていった、"ばいばーい!~" 彼女はベフゾドとシズカに投げキッスを送り、ミニバンは走り去った。
その後には、意気揚々と飛び跳ねるシズカと、憂鬱で悲しげなベフゾドだけが残された。
'やっと!' シズカは目をキラキラさせて意気込み、みるみる赤面しながら思った、'これからお祭りを回って、甘いものを食べて、最後には花火の下でお互いの唇にキスするんだ!'
"家に帰る。" ベフゾドは淡々と言った。
ドーン。
シズカの頭の上半分が青くなり、その背後に劇的な稲妻が走った。ベフゾドは疲れすぎていて、それにツッコむ気にもなれなかった。
"ま、待って...家...?" シズカは完全に混乱し、目は大きな白い輪になっていた。'甘いものの分け合いっこは?秘密の共有は?花火の下のキスは...?' 彼女は駄々をこねたい気持ちで、心の中で思った。
"ああ。寝たいんだ、もう午前0時だし。" ベフゾドは無表情で、無関心とも言える顔で答えた。
"え、えっと...じゃあ、わかった...?" シズカはほとんど元気もなくゆっくり手を振り、ベフゾドは背を向けて、路地を抜ける道をすたすたと歩き去った、"ふん!じゃあね!" シズカは防御的なツンデレモードに入った、"私だって、あんたに用なんてなかったんだから!" そう言って彼女は振り返り、足を踏み鳴らして、彼女も去っていった。
路地で...
ベフゾドは、この路地が実際どれだけ暗いかに鳥肌を立てながら、手に懐中電灯を持って進んでいたが、突然立ち止まり、パニックモードに入った、"クソ...空気がまた変わった?!またヤンデレの襲撃か?!" 彼は被害妄想気味に周囲を見回しながら叫んだ。するとそのとき...
"私、きれい?" ベフゾドの背後で、女の声が響いた。その人影は背が高く、着物を着ていて、美しかったが、顔にはマスクをつけていた。口裂け女、口が裂けた女の有名な都市伝説だった。
"え?!" ベフゾドは振り返り、礼儀正しそうな背の高い女性を見た、"きれいか...?" 彼は被害妄想を落ち着かせたが、日本の都市伝説にはまったく疎かったので、彼女を上から下まで気軽に眺め回した、"まあ...確かにきれいだな...でも...君は俺のタイプじゃない。"
口裂け女の目は、困惑を表すコミカルな点になった、
"君も、こういう力を--"
"わ、私が...タイプじゃない...?"
"ああ。"
"えっと..."
かわいそうな口裂け女はあまりに混乱していて、ベフゾドがもう路地を出ていたことにすら気づかなかった。彼は一直線に家へ帰った。
家で...
ベフゾドは部屋着に着替え、ヘッドバンドを外し、自分の新しい髪型で自撮りを何枚か撮って、Facebookに投稿した(2014年当時は人気だったからだ)。だがそのとき、彼は突然、自分で顔面に手を当てた、"クソ...ネオンカラーの連中の写真撮るの忘れた..." 彼は完全に「俺はバカだ」という態度で息をのみながら独り言を言ったが、すぐに目を回して呆れた、"まあいい、学校でまた撮ればいいか。"
彼はただ顔を洗い、電気を消して、眠りについた。
つづく...




