断罪
壺をすり抜け、その目に映ったのは1匹の竜の姿だった。
(旋風竜!?)
ピシ、ピシャァ!
姿かたちは旋風竜のそれだが、体中から放電が行われている。
風の代わりに雷を纏う亜種なのかもしれない。
その魔物が大きな翼をはためかせ、アインの入っている壺に向かってくる。
旋風竜の亜種(迅雷竜)は壺を覗き込み、餌の存在を確認する。
(そういうことか。。。)
この壺は、迅雷竜の餌を入れるものということか。
壺の中に戻り少年に話しかける。
(坊主!逃げるぞ!)
「うん!」
纏いを使い、火の精霊を呼び出す。
「イグナ」
迅雷竜が壺をのぞき込んできたその時に、炎柱の魔法をイメージする。
炎柱の爆発
迅雷竜は頭を炎に焼かれ飛び退いた。
アインは風の精霊を呼び出し、疾風となり壺から飛び出した。
炎が飛び出し、次にそこから現れた少年を見て、村人は驚いた。
一匹の迅雷竜が炎で頭を焼かれてのたうち回っている。
その断末魔が仲間を呼び寄せる。
数匹の迅雷竜が現れ、自分たちに逆らう愚か者へ雷撃を放った。
咄嗟に地の魔法の結界で即席のシェルターを造る。
雷撃は大地に吸い込まれてダメージは無い。
うまく相手の攻撃は防げたが、こちらには飛んでいる魔物に対して攻撃手段が無い。
「白さん、どうしよう。。。」
(うーん)
何か使える手段が無いか周りを見ると、さっき入っていた壺が目に入った。
あれ、使えるかな。。。
(交代だ)
俺は坊主と入れ替わり、壺を覆うように土のシェルターを造る。
(何するの?)
「まあ、見てろって」
俺は壺の中に水を張り酸素と水素に分離させた。
すぐに、魔法で作った石の蓋でふさぐ。
風の魔法で強化と持続回復の準備をし、密閉した壺の中に溜まった水素に点火する。
どかぁぁん
爆風が一方後へ解放されることで、体が空に打ち上がった。
(坊主!翠脚鞭!)
「はい!」
空中で足場を作りながら、翠脚鞭を連続で飛び回る迅雷竜に叩き込む。
数匹いた竜は、あっという間に肉片と化して大地に落とされた。
地面に降り立った少年は、唖然とする村人を見て説明を求めた。
「どういうことか説明してくれる?」
すると、一人の男が前に出て少年を糾弾する。
「竜さまに、なんてことをしてくれたんだ!私たちはあの方たちにこれまで生かされてきたというのに」
その男に呼応するように他の村人もそれに加わった。
「そうだ、どうしてくれるんだ。大変なことをしてくれた」
「お前のせいで村が亡ぶかもしれないんだぞ!」
最初に糾弾し始めた男がほくそ笑む。
(?)
俺はその笑いが気になり、男を近くで観察した。
(なんだこのペンダント。魔力が漏れてる)
男のつけているエメラルドグリーンの石を見て気付く。
これ精神の宝珠じゃねぇか?
坊主がミリーから、宝珠の色による精霊の違いについて説明を受けていたのを、俺も聞いていた。
生命の宝珠と違い、精神負荷を減らすものだが、他人の意識を奪う洗脳の魔法にも使える。
(坊主、こいつをぶっ飛ばせ!)
「わかった!」
あ、人間だから手加減し。。。
坊主は言う前に草人の闘法を使い、その男の首飾りめがけて蹴りを放った。
男は吹っ飛び、その拍子に首飾りは砕けた。
すると、今まで少年に罵声をあげていた村人が、きょとんとして静かになった。
「あれ?俺たち何してたんだっけ?」
「ああ、そうよあの子が竜を倒してくれたんだわ」
「そうだ、それで駆け寄って礼を言うつもりで。。。あれ?」
「どうやら、意識を奪われてたみたいだね」
アインは地面でのびてる男を指さしてそう言った。
「俺たちはこの男に操られてたってことか?それで子供を差し出して。。。」
「あああぁぁぁあああ!私の子。。。」
村人がこれまでしてきた非道に気付きパニックになる。
(坊主、代われ)
「うん」
「静まれ!!民たちよ!」
混乱しかけた村人たちが、少年に注目する。
そこから、俺の演説が始まった。
。。。
(いやぁ、何とか収まってよかったな)
俺たちは村から離れて街道に向かって歩いていた。
「よくないよ!何でぼくが王様って名乗ってるのさ!あんな、偉そうに話しちゃってさ」
俺は村の混乱を避けるために、坊主の髪の毛を見せて自分が王だと名乗った。
村人は突拍子のないことを言い出したと、最初疑っていたが、金色の髪を見せることで真実だと信じた。
(まあ、これで丸く収まるんだからいいじゃんか。それにジルにも誓ったろ?立派な王様になるって)
「ぐぬぬぅ」
村人は、自分たちが犯した罪を誰かに断じてほしかったのだろう。
俺たちが彼らの罪を指摘し、罰を与えることで混乱し自暴自棄にならずに済んだ。
「罰ってあれでよかったの?」
(ああ、自分達の罪は自身が一番わかってるはずだ。きっと、彼らが自分達を許す時は来ないだろう。あの罰はそれを、忘れさせないためのものだよ)
俺は、彼らが生贄にした子供たちの名前と年齢を刻んだ石碑を作る様に申しつけた。
それを見るたびに、彼らは自分たちが犯した罪を思い出し、決して愚かな行為を繰り返さないだろう。
「それにしても、あの男の人。いつの間にか消えてたけど。何が目的だったんだろう」
(竜を信仰する者たちか。。。)
「え?なに?」
この世界に来て、宗教という考え方があったのは谷底の村だけだった。
あれも、信仰とはほど遠い児戯のようなものだったが。。。
この世界にも、人の意思を気付かさぬように曲げる教えが存在するのだろうか。
俺は、闇の片鱗を覗いたような薄気味悪さを感じていた。




