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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第三章 帰宅と疑惑と捜索 7



    7



藍は咄嗟のことに驚いた。

―谷口って、誰だよ!?

しかし切り替えさなければ、せっかく雪解けムードの弟を困惑させるワケにはいかない。

「あの女性、谷口っていうんだ」

藍は名前を知らないという設定を直ぐに編み出した。

「谷口早苗というんだ。お父さんと不倫の関係にあると言っていた」

なによりまず藍は朝の暴漢女性を想起した。

―あれが谷口早苗、なのか。

だがそれはどうも違うようだ。

昭の詳細はこうであった。

去年の暮れのこと、イベント事が好きな昭とその友人たちは、江戸情緒や下町風情も好み、酉の市に来ていた。

昭や藍の、麻井家から自転車で行ける距離に、大きな寺があり、昭はそこの酉の市に友人を誘った。

厚着の人々が行き交う雑踏に、変わり種の意匠を凝らした熊手らに中学生男子はその雰囲気を楽しみ、屋台や出店で売られるイカ焼きやチョコバナナをもっと楽しんだ。

更に、ここの屋台では鮎の塩焼きやアメリカンドッグといったレアな食べ物も売られ、それらは中学生男子の好奇心と胃袋を満たすに足る存在だった。

昭たち四人は、歩きながら・座りながら・食べながら、冬アニメの品評や面白いユーチューバーについて話し合った。

その中の一人がトイレに行きたいと言い出し、もう一人がつられるように「オレも、オレも」と二人でトイレに行った。

昭と残った友人の手には食べ物が握られていたし、尿意はなかったので、「じゃあ、オレらも」と言い出すタイミングを逸した。

カラフルなチョコレートの粒がまぶされたバナナを昭は直ぐに食べ終えたが、連れの友人はりんご飴を未だ持っていて、明らかに飽きたふうであった。

―僕がいるから捨て辛いのかな。

そう思うと、目の前にはお祭り用の大きなごみ箱もあるし、昭は試してみる気持ちになった。

「眼鏡柱、オレ、あの屋台のベビーカステラが気になったから見てくるよ」

眼鏡柱とはりんご飴を持っている友人のアダ名だ。

昭の言葉に対し、ああとか眼鏡柱は云った。

その直後の昭の顛末には関係ないが、昭は自分がりんご飴に飽いているのを気づき、でも友人の前では食べ物を粗末にするようなことができないので、ムリに用事を作り、自分から離れたのだろうと勘づいていた。

眼鏡柱は急いでりんご飴を食べることにした。

気を遣わせたことへの返礼として。

その眼鏡柱から離れて直ぐ、昭は肩をポンと叩かれた。

「麻井くんよね」

昭は特に返事もしなかった。

肩を叩いてきた女性の笑顔に少々、イヤなものを感じたからだ。

「麻井さんの息子さんでしょう? 麻井延彦のお子さん。三葉の写真でしかあなたを見たことないから、自信なかったんだけど、一人になったのを良いタイミングだと思い声かけちゃった」

女性は名乗った。

彼女は昭からすると二十代後半から三十代前半に見えた。

長い髪を束ね、トレンチコートを着ている。

「はい、麻井です。それが何か」

年上の不良めいた高校生男子や横柄な教師といった年上の同性には、昭という文系の真面目な男子でも、少しは抵抗する素振りくらいは見せるという矜持はあったが、女性にはどういう態度を取ればいいのか判断つかなかった。

「延彦さんとは仕事で出会った。何度かセックスをした。お父さんに聴いてみて」

溢れんばかりの笑顔で谷口早苗は云った。

「だからなんだって言うんですか」

これが昭のできる限りの虚勢であった。

確実にこの女性は昭に悪意を持っている、そして昭の父・延彦にも同様の気持ちを抱いている。

「確かお姉さんいたよね。お母さんでもいいけど」

昭はこの言葉を聴いた瞬間、この女性を敵と認識した。

だが昭は若い男としての矜持があったので、手を出すどころか、声を荒げることもなかった。

「谷口早苗って、本名ですよね。ついつい言っちゃったんスか。今夜のこのやり取りで痛い目見るのはそっちだよ」

昭には、父の不倫よりも、これだけ純粋な敵意をぶつけられたことが人生初めてであり、それが女性からのものであった方がショックだったが、平静を装って、やり返した。

「もうね、とっくに見たよ。あなたのお父さんの子を処分したのよ。ちゃんと産れていれば、あなたの弟になったのに」

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