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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第三章 帰宅と疑惑と捜索 4



    4



とはいえ、藍には「何読んでいるの?」と尋ねてくる友人は数人いたし、成績は学年上位だから試験前にはヤマ張りが上手く人気者になっているし、ご飯を一緒に食べる友人もそれなりにいた。

だが、その時に藍は決まって弁当だった。

そろそろ、購買部や学食を利用したかったが、母親が子ども二人の弁当を朝作ることを生き甲斐にしていたから、断り辛い。

それに藍のお母さんが作る料理は美味しかった。

帰宅して、その弁当箱をシンクにある水の張った洗い桶の中に入れるのが日課だ。

既に弟の昭の弁当箱が漬けてある。

ここ最近、昭を言動ではなくこんなカタチで「いた」証拠として認識することが多かった。

父親はいつも帰りが遅く、夕食は藍と昭と母親で摂ることが多かったが、極端に口数が少なくなった。

それでもTVがついていて、バラエティ番組なぞかかっていると芸人の巧いツッコミにくすりと笑うのだが、それを母と姉に知られたと思った瞬間に又ムスッと黙る。

父親よりは母親と接触の多い藍はその態度を母に問うことが多い。

「思春期だし、高校受験だし、色々あるのよ」

―いや、受験は関係ないだろう。私と同じで中高一貫なんだから。

藍と昭の母親はたまにこのようなおためごかしを言うのだった。

玄関のドアが開く音がする。

ビニール袋のこすれる音が近づいてくる。

その母親が帰って来たようだ。

藍を呼ぶ声や帰宅の挨拶も聞こえてくる。

「持つよ」

藍はその買い物の詰まったビニール袋の4つのうちの一つを取って、キッチンにあるテーブルに乗せた。

「ありがとう! 弁当箱を水に浸けてくれるのもありがとう」

「これくらいはするよ。いつも作ってもらっているし」

「藍は料理を私から習いたいって最近、言わないよね。どうして?」

こういう時に藍は「面倒だから」とか「まぁ、そのうち」とごまかし、今回は後者のベクトルを発言した。

藍も中学の頃から、何度も母親とキッチンに立ったものだが、遠のいていった。

単純に、料理作りは好きだった。

食材をどういうダシや味付けで生かし、彩りや付け合わせを考え、献立としてどういった料理を他に作るべきかと思案するのは面白かった。

だが母親は料理を作っている最中、教えるだけでなく、よけいなことを言う。

主に、「これはお父さんが好きなのよ」とか「最初にお父さんに作ってあげた料理なの」と夫との惚気を娘の藍にやたら言うのだ。

藍としては料理は面白いから習ったり、作ったりしているのであって、男性のために作っているのでない。

しかし母親は暗に、いや、実際に何度かは「藍も将来、好きな男の子に作ってあげないとね」と言われるのがすごくイヤだった。

で、なんとなく遠ざかるようにしてきた。

それでも事あるごとに母親は夫との惚気を云う。

家族の中で唯一の同性だし、家事をこなしてくれる母親ではあるので、既にツッコミもせず、はいはいと聴いていた。

この買物後のビニール袋を冷蔵庫や戸棚に購入してきた食材を入れるのも、そんな儀式の一つだった。

母親が手を洗ったり、部屋着に着替える間、藍が買い物をそれらに詰めるのが定番になっていた。

それで母親は言うのだ、「それはお父さんが大好きなのよ」とか「これを切らすとお父さんは機嫌悪いのよ」とやはり惚気を言うのだ。

―世の母親とはみんな、こうなのだろうか。

藍は既に母親がウザいとかいうのでなく、訝しく思っていた。

どうにもわざとらしいのだ。

「ら~ん、全部しまっておいてよ~」

もうそれが定番になっているのに、わざわざ母親が言ってきた。

やれやれと思ったが、一緒の買ってきたものを詰めていると、例の、父親への惚気をやたら言われるので、それがないだけマシかと思って、その食材の片づけに追われていた。

四人家族だから、そこそこの量であったが、藍は何度もやっているので、特に支障なくてきぱきと捌いていった。

先程、訝しく思ったと書いたが、〈それ〉に触れた瞬間は母親を気味悪く感じた。

〈それ〉とは避妊具の箱だった。

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