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報告80 5章エピローグ:絶望を塗り替えて

【1】


 北野の騒ぎが収まった放課後、私は校長室に呼び出された。飛田に案内され入室した校長室には、副校長、校長の2人がソファーに座って待ち構えていた。


「校長先生。お待たせしました。」


飛田が校長にそう言うと、校長は私の顔を見て言った。


「北沢くん。ごめんね、放課後に呼び出してしまって。」


「いえ…。」


「まあ、座ってよ。」


「はい。失礼します。」


私と飛田は、校長室のソファーに座った。私は、その後、今日から今までの北野の行動を事細かく説明した。説明を終えると校長は、私に言った。


「君には、本当に辛い思いをさせてしまったね。本当に申し訳なかった。」


「いえ。私はいいんです。」


「では、飛田先生。北沢くんへの聞き取りはここまでにしましょう。北沢くん。今日はありがとうございました。それにしても、話すのが上手いですね。言葉遣いもきちんとしていますし。まるで、大人と話しているように感じました。」


「恐れ入ります。」


私は、校長に軽く会釈し飛田と一緒に校長室を後にした。



 次に私は、応接室の前に案内された。扉の前で、飛田は私に言った。


「今、この部屋に北野さんを待たせています。本当に話をするのですか?」


「はい。最後に伝えなくてはいけない事がありますから。」


「わかりました…。」


 飛田はそう言うと、静かに応接室の扉を開けた。その扉の隙間からは、魂が抜けかけたように椅子にもたれる北野の姿があった。私と飛田は、何も言わず反対側の椅子に座った。しばらくして、北野が話しかけてきた。


「あなた、本当にあの北沢なの?」


私は、答えた。


「やっと、お話が出来ますね、高幡先生。」


「今更何を…。もう満足でしょ。」


北野は、完全に意気消沈していた。私は、そんな彼女に一枚の地図を渡した。


「何これ?」


「白河くんとお母さんが眠っているお墓の地図です。場所を知らないと思いまして。」


「今更、行ってどうするのよ?何?謝りに行けばいいの?」


飛田は、勢いよく立ち上がりそうになっていた。それほどまでに、北野の態度に憤りを隠せないようだった。私は、話を続けた。


「いつか向き合える時が来たらで構いません。そこで、何を思うかも自由です。ですが、必ずその時はやってくる。そんな気がするんです。」


「何言ってんの?そうやって見下して、いい身分ね。」


「そんなつもりは、毛頭ありませんよ。」


「教師失格だと、思っているくせに。白々しいんだよ。」


「まさか、そんなこと思ってませんよ。」


「だったら何で余計な真似をしたんだ!!」


「あなたが見誤ったことは、働く場所を間違えたことだと思います。」


「どう言う意味だ!?」


「私は生意気な新人でした。当時は、実力がないと判断した人間の言うことに聞く耳を持っていませんでした。でも、高幡先生の言うことに反抗したことは無かったはずです。何故だか分かりますか?」


「……………。」


「私は、教員になった当初、職場の先生たちの授業を片っ端から見学しました。その時ですよ、あなたの授業に感動したのは。」


私は、無言になった北野に一冊のノートを差し出し、言った。


「このノート差し上げます。夏休み前に、先生が私に咎めた例のノートです。そこには、ご存知の通り、先生の板書、授業展開、指導方法が記録してあります。再会したあなたの授業は、全く衰えていなかった。いや、それどころか、電子黒板、タブレット、探究活動、ありとあらゆる最新技術を取り入れ進化を遂げていました。あなたの授業は本当に素晴らしい…そう思います。」


「そんなこと、今さら言って何になる。私を排除しておいて」


「あなたは、多くの生徒を傷つけた、それは紛れもない事実です。しかし、あなたが担任になったおかげで、神田くんは小学校から悩んでいた、いじめの連鎖からひとまず抜け出す事が出来ました。あなたが救った生徒も少なからずいるんです。働く場所次第では、もっと多くの生徒の力になれたのかもしれません。しかし、どんな現場であっても、不変なものがあると私は考えています。」


「………。」


私は、カバンから封筒を取り出し、北野の前に差し出した。 

 

「生徒は人間です。生徒指導に絶対はない。適切な指導をしても裏切られてしまうこともあるでしょう。でも、教科指導は、授業は決して裏切らない!!私は、そう思います。その封筒の中には、私が書いた紹介状と青葉学園の採用試験についての書類が入っています。私が、かつて勤務していた学校です。あなたの英語の授業を青葉は必要とするはずです!!」


「北沢さん!!あなた、何を!?」


飛田が思わず立ち上がり、私の顔を見た。北野は、しばらく黙った後、静かに言った。


     「あんたの提案なんて…。」


北野は、顔を伏せたまま、何度もそう言いながら、私が差し出した封筒を、ただ強く握りしめていた。



【2】


 次の日、私は大崎と待ち合わせをしていた。待ち合わせ場所は、いつも遊んでいる公園だ。私が到着して間も無く大崎はやって来た。


「先生…おはようございます。」


「それじゃ、行きましょうか。」


私は、公園の外に止めてあるタクシーを指差して言った。大崎は、それを見て言った。


「いや、確かにタクシー止まってるなとは思いましたけど…。本当に呼んだんですか?」



 私は、大崎と一緒にタクシーに乗り込み、ある場所へ向かっていた。私は、タクシーの中で、北野と高幡が同一人物である事を大崎に打ち明けた。大崎は私に言った。


「そう言う事ですか…。そりゃうまくいかない訳です。」


「今まで黙ってて済まなかった。全てが終わってから伝えた方がいいと思ってね。」


「終わったと言うのは、どう言う意味ですか?」


「彼女は、来週から学校に来ません。そのまま、退職することになります。」


「そう言うことですか。じゃ、もう学校に行っても良いんですね。」


「はい。本当に助けるのが遅くなってしまいました。良くここまで我慢しましたね。」


「先生、実はお願いがあるんです。」


「何でしょう。」


「一目でいいから、転生する前の母親に会わせてくれませんか?居場所、ご存知なんじゃないですか?」


「……わかりました。でもまずは…。」


その時だった。タクシーはゆっくりと停まり、運転手が私たちに言った。


「君たち。着いたよ。」


「ありがとうございます!さて、行きましょうか、清くん。」



【3】


 私たちは、タクシーを降りて向かった先は、墓地だった。彼は不思議そうな顔をしていたが、黙って私について来てくれた。そして、ある墓石の前で立ち止まった。大崎は、白河家と書かれた墓石を見て言った。


「先生…ここって…。僕の父さんが眠ってるお墓ですよね。」


「ええ。あなたのお父様は、あなたが小さい頃に亡くなったと聞きました。お母様が女手ひとつであなたを育てたそうですね。」


「はい、でもなぜ、転生前の父の墓に来たのですか?」


私は、強く目を閉じて言った。


「……ここには、清くん。君の転生前の体も眠っています。」


「……え?」


「あなたが、自分の死んだ瞬間を覚えていないようでしたので、ずっと黙ってました。すみません。」


「……どうして僕は死んだのですか?」


「お母様に……。」


「母さんが!?」


「その原因は、高幡先生による執拗な嫌がらせによる精神疾患でした。」


「そんな……。僕は…母さんに…。」


「今日は、あなたに真実を伝えたかったのです。」


「……それで、母さんはどこに?」


「会うつもりですか?会ってどうするのですか?」


「謝りたい…です…。」


大崎の目からは、知らぬ間に涙が流れていた。私は、大崎の右肩に手を置き言った。


「謝らなくていい!あなたのことは、きっとお母様も分かってくれています。だから、あなたが言うべきことは、「ありがとう」と「もう大丈夫」です!!」


「…先生。…早く母に会わせてください!!」


私は、右手の握り拳を強く握りながら俯いた。


「先生!!」


大崎が私の答えを急かした。私は、俯いたまま途切れそうなか細い声で言った。


「…はじめから、そのつもりであなたを連れて来ました。」


「…え?」


「あなたのお母様は、あなたの命を絶った後、自らあなたの跡を追いました。お母様は、今、あなたの目の前で眠っています…。」


「…そんな。」


「…そんなのありかよ。」



「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



大崎は、地面に手をつき、叫びながら泣いていた。


「どうして!?どうしてだよ!!?何で僕だけこんな目に遭うんだ!!!」


大崎は、そう叫んだ後、立ち上がり私の胸ぐらを掴んで言った。


「何で、そんな大事なこと、もっと早く言わなかったんだ!!!!」


私は、胸ぐらを掴まれたまま言った。


「あなたがこの事をもっと早く知ったら、高幡先生に危害を加える可能性が高いと判断しました。こんな言葉では、足りませんが本当に申し訳なかった。」


正直、殴られる覚悟でここに来た。大崎は鋭い目つきで私を睨みつけている。その瞳の奥には、強い憎悪と悲しみが渦巻いているようだった。彼は、それらを吐き出すかのように、私に怒鳴った。


「危害を加えるだ!?あんなやつ、今すぐにでもぶっ殺してやりてぇよ!!!!せめて、一発殴らないと気が済まねぇよ!!」


「あなたがそんな事をしたら一番悲しむのは、お母様です!!もちろん、今のあなたのご両親も悲しむ!!!」


「……。」


「君の死んでしまった両親のために、あなた自身の為に、そして今の両親のために出来ることはただ一つ、絶望だった日々を希望で塗り替えること、それ以外に無いんだ!!」


「……。」


大崎は、私を掴んでいた手を静かに放した。私は、手を差し出して言った。


「白河清くん、約束です。これからは、大崎保久としてもう一度、中学校生活をやり直しましょう。ですから…いや、だからもう俺は、君の先生じゃない。違和感しかないと思うが、これからはクラスメイトだ。」


大崎は、私の差し出した手を握り言った。



「はい…。いや違うな。よろしく、北沢!」



 大崎は、やっと長い迷路を脱け出した。今度こそ、幸せに向かって歩き出して欲しいものだ。




いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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