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報告79 行き過ぎた正義感がもたらす問題行動

【1】


 大崎と別れ、家路に着いた頃、スマートフォンに飛田から通話の通知が来ている事に気がついた。神田の事があったため、着信に気づけなかったのだ。私は、慌てて飛田に電話を折り返した。


「もしもし、飛田先生ですか?着信に気づけなくてすみません。」


「いえいえ、こちらこそ。夜中にすみません。北沢さんに伝えておきたい事がありまして。」


「何でしょうか?」


私はそう言いながら、スマートフォンを耳に押しつけたまま、ソファーに座った。その直後、飛田が今日の放課後に起こった話を始めた。


「今日の放課後、北沢さんが下校した後のことです。北野さんが、神田くんを呼び出していました。話の趣旨としては、学級委員をあなたから神田くんに変更するというものでした。」


「また、ずいぶんな暴挙に出ましたね。調査書や通知表にそんなこと書けないでしょう。そもそも、クラスの生徒たちが納得いかないでしょうしね。いい具合に自滅してますね。」


「ええ。学年主任の私に全く相談もせず。本当に勝手をしてくれたものです。ただ、北野さんも生徒たちが納得いかない事は、わかっているようで、神田くんに相談を持ちかけていましたね。」


「なるほど…。で、神田くんは、何て?」


「僕に考えがあります。って言ってましたよ。おそらく、北野さんは明日にでも、動きがあると思います。私も彼女を止めに入ろうと思っています。ですから、連携できるように…。」


「たぶん。その必要はないと思いますよ。」


私は、飛田の話を遮るようにそう言った。飛田は、私に尋ねる。


「本当に?その根拠はどこにあるのですか?」


「そうですね…。たまには、生徒を信じてみたくなったって、ところでしょうか。」


「……そうですか。あなたが、そこまで言うのであれば…。本当にいいんですね!?」


「ええ。構いません。その代わりに、その後のセッティングの準備をお願いしたいです。」


「というと?」


「今までの北野先生とのやりとりは、教師対生徒でのやり取りです。最後に、教師対教師で話す機会を頂きたい。その、セッティングをお願いしたい。」


「話す機会を設けることは、可能ですが…。北沢さん、自分の素性を彼女にしゃべるつもりですか?もし仮に話したとしても、あなたの話を信用するとは思えませんが…。」


「必要があれば、話す程度だと思って下さい。明日、よろしくお願いします。」



【2】


 次の日、それは北野の授業中に起こった。


 授業を始めて20分、教科書の解説を一通り終わらせた後、北野は突然ある事を言い始めた。


「それでは、時間が余りましたので、残り時間はクラスの時間にしましょう。合唱祭も迫っている事ですし、それに向けて決めておきたい事があります。」


「何を決めるんですか?」


大塚が北野に質問した。北野は、黒板を消した後に言った。


「学級委員を決め直します!」


クラス中がざわついた。北野の前代未聞の提案に上野が噛み付いた。


「決め直す必要無いと思います!!」


上野のその意見に周囲も賛同した。しかし、それを遮るかのように北野は言った。


「あなたたちは、北沢のように勝手な行動をする人間が学級委員でいいと思っているのですか!?」


「一番勝手なのはお前だろ!!!」


上野がそう叫んだ。


「黙れ!!!誰にそんな口を聞いているんだ!!!!」


北野が大声で叫んだ。その瞬間、ざわついていた教室が一瞬で静まり返った。北野は続け様に言った。


「社会に出れば、目上の人間の言う事を聞く事が当たり前だ!それが、今のお前たちに出来ているのか!!それが出来ていないから、その原因を取り除くだけだ!!社会に出ていない、お前たちに分かるはずもない!!だから無理にでもやるしか無いんだ!!」


北野がそう言い張った後、クラスの大半の生徒がただ何も言えずに北野を睨んでいた。私は、このタイミングで立ち上がり北野に言った。


「先生が言うならば、僕はそれで構いません。それで、どうやって決めるのですか?前回は投票で決めた事で、この結果になってしまったわけですから、当然別の方法で決めるのですよね?」


「北沢!あんたそれでいいの!?」


水上が私に向かって言った。私は、即答した。


「構わない!」


私の様子を見て、北野は、したり顔で言った。


「学級委員は、普段の行いから判断して、私が選びました。女子は引き続き田端さんにお願いします。男子は北沢くんから神田くんに変更します。」


北野がそう言うと、神田が立ち上がった。上野は、それを見て私に言った。


「最悪じゃん。あいつ昨日、北野先生と打ち合わせしてたんだ!」


私は、立ち上がろうとした上野を止めながら言った。


「待て上野!いいんだ!!」


間も無くして、神田が言った。


「先生。それでは、学級委員として挨拶と一つ決めたい事があります。時間をもらえないですか?」


北野は、若干ニヤけながら言った。



「どうぞ神田くん。前に来て下さい。」



 神田は、ゆっくりと教壇に向かって歩き出した。周囲の生徒は、憎悪の目で神田の事を見ていた。そして、神田が教壇に立った瞬間、それは野次となって彼に飛んだ。


神田は、それに反応することもなく無言で立っていた。


「黙りなさい!!!!」


北野が叫び、野次は収束すると、神田が話し始める。


「皆さん!学級委員として、相談したい事、決めたい事があります。」


誰も、彼の言葉に耳を傾けなかった。次の発言を聞くまでは。


「みんなで、このクラスの新しい担任の先生を決めませんか?担任の先生になりたい人は立候補してください!!」


神田がそう言った瞬間、生徒たちの目は好奇なものに変わり、その視線は神田に釘付けになっている。一方の北野は唖然とした顔で呟いた。


「ちょっと、神田くん?何を言っているの?」


そのタイミングで、私は立ち上がった。


「担任に立候補します!!」


神田は、大きな声で言った。


「賛成の人は、拍手をお願いします。」


その瞬間、教室内に拍手と喝采が鳴り響いた。それから間も無く北野の怒号が響く。


「何してんだ!!!!お前ら!!!!!」


いくら叫んでも、もう鳴り止まなかった。完全に学級崩壊を起こしてしまっている。止めようが無い。間も無くして、


「どうしましたか!!」


飛田を含んだ学年の先生が教室に入り込み事態の収束させ、ようやく落ち着いた。北野は神田に言った。


「神田くん!!あなたは、一体なぜ!!?」


神田は、答えた。


「僕は今まで、何も考えず先生の言う事を聞いていました。それが正しい事だからです。でも、それはクラスメイトに嫌われ、傷つけただけな事にやっと気付いたんです。だから、もう僕には…いや!!僕たちには、あなたは必要ない!!!」


この時ばかりは、周囲の生徒も神田に賛同して声を上げた。


「静かにしなさい!!!」


飛田が再び生徒を静めた。もう北野に私たちを静めることは、不可能だった。北野は私を睨みながらいった。


「北沢!!全部、お前の企み通りか!!?」


私は、立ち上がり落ち着いた態度で言った。


「これが、答えです。」


「答えだと?」


「あなたが私たちに施した、教育の答えです。教師の仕事は、鏡を見るようなものです。教師の行いや振る舞いが、生徒に反映されます。あなたは、自分の考えを生徒全員に無理やり押し付けすぎた!!だから、全員が無理やり抵抗してここまで騒ぎが大きくなったんです!!」


「社会に出ていないガキが偉そうに語るな!!!」


「確かに、先生は大人の社会を少しは知っているでしょう。しかし、あなたは忘れています。子どもにも子どもの社会があります。あなたは、それを軽んじた。軽んじて、自分の正義を押し付けた!正義を持つことは大切です。しかし、時に正義は人間を暴走させる。あなたは、自分の正義に溺れてしまったんです。」


「北沢!!!お前は!!!何者なんだ!!!中学生のガキが正義なんてものを語りやがって!!!」


「何とでも言いなさい。そもそも、あなたのことです。私が何者かなんて、とっくに勘づいているんじゃないですか?…ともかく、安心してください。あなたの生徒たちは、私が預かります。」





    「それでいいですよね?高幡先生?」





       バシンっ!!!!



北野は、私を思い切り叩いた。その瞬間、飛田は北野の腕を掴んで止めに入った。




いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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