報告78 残酷な結末
【1】
神田の姿を見た私たちは、急いで公園の中に入った。水上は私に言った。
「ねえ?どうしたの?あいつは何をしようとしてるの!?」
私は、少し慌てながら答えた。
「わからない!!だが、この時間帯だとあいつと接触しちまう!」
「あいつ?誰よ?」
「大崎だよ!!」
神田が意図的に、大崎に会おうとしているのかはわからない。もしかしたら、偶然なのかもしれないが、もしも意図的に彼に接触し、憂さ晴らしだとか八つ当たりだとか理由をつけて大崎に悪意をぶつけるような事があれば…。はたまた、大崎が神田に対して、突発的な報復に乗り出したら…。それこそ、大崎の学校への復帰が、かえって難しくなってしまう。私がやってきた事が水の泡になってしまうわけだ。
私たちは、公園の中を走り回り、何とか神田を発見できたが、その時にはもう遅かった。神田は、ベンチに座った大崎の前に立ち塞がっていた。その様子を見て、水上は私に言った。
「ねえ!もしかしてあれって止めないと、まずいんじゃない!?」
水上は、神田の元に向かおうとした。しかし、よく見てみると、神田の様子に違和感がある。そう直感した私は、水上の襟首をとっさに掴み、彼女の動きを止めた。
「ぐえっ…。なにするの!?」
水上は、神田に聞こえないように、絞り出すような声で私に言った。私は、今にも突進してしまいそうな彼女を止めながら言った。
「様子が変だ。もう少し様子を見てからにしないか?」
その直後だった。神田が大崎に大きな声で謝っている声が聞こえた。大崎は、スマホの画面を見ながら静かな声で神田に言った。
「なんだよいきなり、何で謝ってるんだよ。」
神田は、大崎に言った。
「ずっと黙ってたけど、教科書とかノートとか無くなって、北野先生に何度も怒られてたことあったろ?あれ、やったの俺なんだ!」
「お前だったのかよ…。何でそんなことしたんだ?」
「俺、小学校の頃、いじめられてたんだ。中学校に入学しても、いじめられそうになった。その時に、守ってもらったんだ北野先生に。だから、俺は…。ごめんなさい!!!」
「いや、答えになってないだろ!何でやったのかを聞いてるんだ!!」
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
私と水上は、そのまま近づかずに、二人の会話を聞いていた。水上は、二人に気づかないように小声で私に聞いた。
「ねえ。神田のやつ、何わけのわからないこと、言ってるの?」
「まさか…あいつ…。そこまでやるのか…。」
「え…?」
水上は、不思議そうな顔をしている中で、私の顔は完全に青ざめていた。それは、神田が大崎に嫌がらせをした理由に見当がついてしまったからだ。私はその時、邪悪な人間の様を垣間見てしまったような気がする。私の予感は、おそらく的中している。その証拠に神田が、なかなか口を開かない。その後も、大崎に問い詰められ、ようやく言った一言は。
「…本当に言っていいのか?」
神田はボソッと大崎にそう言った。
「そのために来たんじゃ無いのか?」
大崎はそう返した。すると神田は、ゆっくりと話し始めた。
「前に大崎が、北野先生に文句を言ったことあったよな。北野先生が悪いだろって言ってたやつ。」
「そんな事も確かにあったな。それがどうしたんだ?」
「北野先生、俺の前で言ったんだ。「あんなやつ居なくなればいいって。それにしても、神田くんは本当にいい子ね。あなたは、正しい行いをしなさい。」ってそれで俺…。」
「おい…マジかよ…。」
この暗い公園では、大崎の顔色など分かるはずはなかった。しかし、きっとその時、彼の顔は青ざめていた。神田は、淡々と話を続けた。
「はじめは、お前の教科書を隠して、授業の時に北野先生に向かって、大崎が教科書忘れてるって言ったら、先生は思い切り怒った。先生は、たぶん俺が教科書を隠していることを知ってる。でも、そのことは全く言わなかった!!俺その時に思ったんだ。自分は先生のためにやっている。これは正義なんだって!
本当に俺はクズだよな!!!!
散々いじめられて、周りの奴らなんてどうでもいい、自分の身を守れればいい!!正義を守ればいい!!そう思ってた。すっかり忘れてたんだ、周りの人達が自分と同じ人間だった!!!許してくれなんて言わない!!蹴飛ばしたって構わない!!本当にごめんなさい!!」
神田は、地面に膝をつき涙を流しながらひたすら謝った。大崎はただ呆然とその様子を眺めていた。私は、水上に言った。
「水上、帰ろう。これ以上首を突っ込むのは野暮だ。」
「そうだね。それはそうなんだけど…。」
水上は、私の右手を強く掴んで言った。
「いつまで私の襟、掴んでるのよ!!!」
「あっ…。すまん…。」
【2】
公園を出た私は、水上を見送り再び公園に戻った。神田は、もう大丈夫だろう。問題は大崎の方だ。神田は、本当のことを話しすぎた。大崎に北野のことを受け止め切れるだけの度量は、おそらく無いだろう。私は、公園の中を再び走り回った。しばらく走り続けていると、残念なことに私の予想は的中してしまった。大崎は別のベンチに片膝を抱えて座り込んでいた。スマホもいじらず、ただただ座り込んでいる。私は、彼の前に立った。何を言えば良いのだろうか。私がそうやって、まごついていると、大崎の方から口を開いた。
「先生、さっきの会話…。聞いていたんでしょ?」
「すみません。彼が何をするのか心配だったので。」
「先生…僕は、何のために生まれ変わったんですか…。僕が、北野先生に文句を言ったことがいけなかったんですか?」
「悪いのは、君じゃない!」
「僕が生まれ変わる前、僕は自分を責め続けた高幡先生を恨んだ。全部あいつが悪いんだって!でも、生まれ変わってやり直しても、結局同じように担任の先生から目をつけられて・・・。二回も連続ってありますか!?やっぱり自分が悪いんですか!!?」
私は、北野が高幡と同一人物であることを、彼には伝えていなかった。そうしたほうが、前向きに人生を歩んでくれると思ったからだ。しかし、結果としてその選択は、裏目に出てしまったのかもしれない。私は、迷いながらも彼に言った。
「清君、君が前に北野先生と何があったのかは知らない。でも、君に非はないと私は確信している・・・。」
「先生のことです。根拠があるんでしょ?」
「それは・・・。もちろんある。だが、そのことはもう少しだけ秘密にさせてもらえないだろうか?北野との決着がつくまで。」
「先生・・・何を企んでいるんですか?」
「あの先生を完全に追放する。それは、うちの学校だけじゃない。公立学校から完全に消えてもらう。幸いなことに、攻撃の材料はだいぶ調ってきた。あとはそう遠くないチャンスを待つだけだ。だから、それまで待っててくれないか。そして、そのときは約束してほしい。」
「・・・何をですか?」
「すべての決着がついたら、私たちも・・・。」
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