《いつも》花見は。
俺は狂笑する花見を見て逃げ出そうとした。
でも、朝のように足が、動かなかった。足首から土にめり込んでいるような感じで。
対して花見は流石に笑い疲れて来たようだがまだ、あはは、と、頼り無く笑っていた。
花見は獲物を見据えた鷹のような眼光で俺をじっと、全身を舐め回すような目線を送って来た。
夕焼けはただの風景に成り果て、道行く人々は何ぞや?というような視線を常時浴びせてきた。
「次、話したら赦さないですよ?」
さっきので許した事に成るのかよ。怖いよ。
花見は知らぬ間に俺の手を握ってきた。花見の手のひらは暖かくて、でもどこか冷たくて、そんな混沌とした感触だった。
花見は手を繋ぎながら早く帰ろ?と言うが俺はぼけっとしながらついてゆくしかなかった。
いつの間か家の前に居た。花見はじゃあね!と手を振りながら帰って行く。
その後ろ姿は少し陽炎のようにゆらめいていた。
ガチャンとドアを開けてリビングに入る。だがその光景は絶望的なほど俺にとって辛いものになった。
「おかえり、透。実はお父さん、東京の方へ転勤になったの。だがら転校しなければいけないの・・・」
「え?あ?」
「お父さんだけ東京へ行くのも良いけどねぇ・・・」
嘘だろ?俺、まだ高校一年生の春だぞ?
そんな時に転勤だなんて!
「何とかできないの?」
「会社が右下がりでねぇ・・・」
「・・・」
俺は階段をかけあがりベッドの上に寝転がった。
今見上げているひのきの天井とぼろぼろになった学習机。
今までの暮らしがパァになるのかよ!
俺は子供だから何も出来ない。その虚しさが胸と心の中を空回りしていた。
そして俺は西窓を開けた。夕暮れの斜陽が部屋の様々な物を茜色に染め上げて行く。
西日はとっても眩しくて、目が痛くなりそうだけけど、心の痛みよりはずっと楽だった。
窓の枠に手を掛けて上半身を西日に突き上げた。
春の陽気を胸一杯に吸い込んで、叫んだ。
「俺はどうしていつも何も出来ないんだよ!!!!!!!!」
幸い通行人が居なかったためキチガイ認定はされなかったが隣の花見の屋敷には聴こえているのだろうか。