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人類はだんじょんに引きこもりました零  作者: 伊澄浩一/旧古時計
ぼーい・みーつ・ほーぷれすねす
5/5

どうにも彼は情けない

リアルが忙しくて更新遅れてました

周りに転がっているのは人間の残骸だ。

どれも五体満足のものではない。


「は、はは」


そこにあったのは地獄。

そこにいたのは今回の悲劇の源。ミノタウロス。

隻腕の王。あれがそう呼ばれる由縁をジオは知らない。

隻腕なのは見れば分かる。

数多の修羅場をくぐり抜けてきた個体だということも。

肌で感じる重すぎるプレッシャーに、ジオは渇いた笑いを溢すことしかできなかった。


既にジオは満身創痍。

走ることすら本来難しいであろう体に鞭を打って、命惜しさに逃げてきた。

なのに、それなのに、これはあんまりだろう。


生きていたい。彼のその願いなど関係なく、隻腕の王はジオを見つけ、死は無慈悲に彼を襲う。

彼の生への健気な思いは嘲笑われるかのように、いとも容易く踏みにじられた。




◇◆◇



ーー熱い


またこの色のない世界だ。

だけど今度は熱を感じる。

周りを包んでいるこれは炎か。


女の子が泣いている。

今度こそあの子を笑わせてあげれるだろうか。

とても綺麗な子だ。優しい顔立ちをしている。

泣いててもこんなに愛らしいのだから、笑ったらもっと可愛いはずだ。

笑顔がみたい。あの子の、笑顔が。でも、体が動かない。


今回も駄目のようだ。視界が霞んできた。


「……ディンッ!!」


ーーまた、必ず君に会いに来る




◇◆◇


「んぅ」


地面が固い。危機に陥ったと思って、起きたら危機が去っている。

それが最近のパターンだ。

だが、今回は違った。


ミノタウロスは、隻腕の王は、待っていたのだ。わざわざジオが目覚めるのを。


「は、はは」


ミノタウロスが笑っているようにジオには見えた。まるで、新しい玩具を見つけた子どものように。

再び隻腕の王が斧を振り上げる。

ジオはあまりの恐怖に目を瞑った。

だが、その斧は降り下ろされることなく、代わりに爆音が響いた。


「え?」

「また会った。今度は止めはしないでしょ」


ジオが目を開け振り向くと、そこには瞳に炎を宿した少女が立っていた。

隻腕の王に一切気圧されることなく、堂々と。

ただ怯えるだけの自分とは正反対に。


「ンヴォォォォォォォォォォォォォオッ!!」

隻腕の王は雄叫びを上げる。


その雄叫びにどんな意味がこめられているのか、ジオには分からない。

邪魔をされた怒りか、少しは歯ごたえのあるものに巡り会えた喜びか。


何にせよ、このときジオの中には助かったという安堵感しかなかった。

次に浮かび上がってきたのは果たしてこの少女で隻腕の王を倒すことなどできるのかという不安感。

隻腕の王は彼女の二倍以上ある。とてもじゃないが、勝ち目はないように見えた。

そんなジオの不安を余所に少女は隻腕の王の斧を軽々といなしていく。

驚くべきことに斧が少女に肉薄すると、少女はそれを素手で払いのけるように動き、少女の手に触れられた斧は爆発とともに弾かれていた。


「あれが、あの子の魔物因子」

ジオは唾を飲み込む。

それはとても強力に見えた。あそこまで強力な力を見せつけられると、人々が因子持ちを恐れるのも分かる。

不意討ちとはいえ、防衛戦帰りの戦士達が歯が立たなかった隻腕の王をああもあっさりとあしらっている。

ジオよりも小さなあの体で。

それは恐ろしいことだった。


少女の掌は遂に隻腕の王の胸に届いた。

少女は言う。

「あなた、偽物ね。思考すらしないなんてお話しにならない」


彼女が言い終えると同時に隻腕の王は内側から弾ける。

さっきまで動いていた隻腕の王は原型を失い、吐瀉物のような姿で地面を汚した。

爆発のすぐ近くにいたはずなのに返り血一滴ついていない少女は退屈そうにため息をつくと、ゆっくりと振り返る。


「あなたが死ぬのをこの目で見ていたわ。自分達が化け物と呼んで見殺しにしてきた存在になった気分はどう?」


その言葉でジオは完全に自覚した。あぁ、自分は因子持ちなのだと。

少女はジオへ手を差し出す。

彼女は先程までの明るい炎を宿した瞳から一転して、人形のように整ったその顔には似合わない仄暗い光りを瞳に浮かべて皮肉気に笑う。

ジオはこれから先自分が体感するだろう様々な葛藤を心の底で予感しながらも、その手をとる。


「悪いけど、あまりいい気分とは言えないかな」


今の自分にはやはりこうする他ないのだと、どうすることもできないのだと、自分にすら言い訳して。


「私は、カラエ ホーマット。あなたと同じく化け物だよ」

「皮肉るのはやめてくれ、僕はジオ ラターチ。今でも自分は人間だと思っているよ」


ジオの返しに少女、カラエは笑う。今度は皮肉を含めずに。


「それではようこそ、ジオ君。私達の世界へ」


相変わらず皮肉が混ざっている言葉に対して、彼女の手はとても温かかった。





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