第8話:いない日
夕方の時間になった。
店内の空気は、 いつもと同じだった。
レジ横のホットスナックの匂い。 自動ドアの開く音。 一定の間隔で並ぶ客。
特別なことは何もない。
いつも通り、 淡々と会計をこなしていた。
ふと、 時計を見る。
理由はない。
ただ、 なんとなく目に入っただけだ。
その時間は、 ほぼ毎日、 あの人が来る頃だった。
次の客が来る。
また次。
レジの列が途切れる。
自動ドアが開く。
違う人。
また閉まる。
気づけば、 少しだけ入口の方を見ていた。
——あれ。
そこで、 小さな違和感が生まれる。
今日は、 まだ来ていない。
別に珍しいことじゃない。
毎日同じ人が、 必ず同じ時間に来るわけじゃない。
仕事が長引いたのかもしれないし、 寄り道しているのかもしれない。
来ない日だって、 当然ある。
そう思いながら、 商品を袋に入れる。
次の客。
また次。
時間だけが過ぎていく。
気づけば、 もうその時間は過ぎていた。
来なかった。
それだけだ。
本当に、 それだけのことだった。
それなのに、 レジが少し静かに感じた。
そこで、 ようやく気づく。
——自分は、 あの人のことを覚えていたんだな、と。
名前も知らない。
話したこともない。
ただ商品を渡していただけの相手。
それでも、 来る時間も、 買うものも、 なんとなく分かっていた。
覚えるつもりなんて、 なかったのに。
客は、 流れていく存在だと思っていた。
そうしておいた方が、 楽だから。
なのに、 いないだけで、 少しだけ店の景色が違って見える。
小さく息を吐いた。
考えるほどのことじゃない。
明日には、 忘れているかもしれない。
レジに次の客が並ぶ。
「いらっしゃいませ」
いつも通りの声が出る。
店の外は、 もう夜だった。




