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記録

学校を始めて、2か月が経った。


これまで教えた項目は多岐にわたる。


ひらがな、カタカナ、少しの漢字から始まった教育は、鍬や鋤など道具の使い方や農業のコツ、生活の知恵まで教えるようになった。

実に生活に密着した教育機関だ。

学んだことがすぐに生活で役に立つから、教育=生活を向上させるための知識を習得または教授すること、に疑問を挟む余地は全く生じない。

教育の重要性は、村の誰もが理解した。

すばらしいことだ。


これからも、村の教育は継続して、多様な知識が共有されることだろう。


だが、ここでひとつ課題が見えてきた。


教わる知識が多岐にわたりすぎて覚えきれないのだ。

日常で頻繁に活躍する知識なら忘れないだろうが、使う頻度の低い知識は忘れがちだ。

使う頻度が低いからと言って重要度が低いとは限らない。

例えば、農業にかかわる知識では、田起こしや収穫時期の判断などは年に1回しか活躍しない知識だが、それらは非常に重要だ。


重要な知識は記録に残して、村人みんなで活用し、できればさらに発達させていきたい。

そのためには、やはり文字を書く方法が必要だ。


カタログを作る時のように木簡に刻む方法でも目的は達せられるが、技量が必要だから人を選ぶし、時間もかかりすぎる。

となれば、次のステップへ進むときだろう。


「よし、墨と筆を作るか」


墨の作り方は、すすを水に溶かして、さらに接着剤を加えれば、それっぽくなるはずだ。


まずは煤集め。

これは、普段煮炊きに使っている土器の表面についているものをこそぎ取って集めた。


この煤を平らな石2枚ですり合わせて粒子を細かくしつつ、不純物を取り除く。


そして水に溶かすと、うん、うまく混ざらない。

やはり接着剤が必要だ。


接着剤としては、にかわを使うのが主流だったはずだ。

たしか、日本画の顔料とかでも膠が使われている。


膠の原料は動物の皮とか健。

これを煮詰めてゼラチンを溶出させ、冷却すれば良いと聞いた覚えがある。


材料には、飼育している猪の皮を使った。

猪の皮は、服を作るのに隅々まで活用されていたが、使い道のない小さな端切れが多く保管されていた。

ただ捨てるのはもったいないからと保管していたようだ。

助かる。


猪の皮を数時間煮込んで、トロみがでたところで、布で濾した。

しばらく自然冷却していたら固まってきたので、膠が入手できたと言って良いだろう。


この膠を先ほどの煤と水に混ぜ、型に入れて冷却し、個体の墨が完成した。



続いては、筆作りだ。


材料には、入手しやすい猪の毛を使った。

飼育しているので取り放題だ。


猪の毛は、太くてコシがあるので、ちょっと小さな文字を書くのには向かない。

できるだけ細くてコシの弱い部位の毛を選んで作ってみたが、それでも俺がイメージする筆の硬さからは程遠い。

どうしたものか、より良い毛を求めて狩りにでも行くかとも考えたが、


「完璧を目指すより、まず終わらせろ。」


というマーク・ザッカーバーグの言葉が俺の頭をよぎったので、まずは猪の毛で筆を完成させることにした。


彼の作ったフェイスブックはほとんど利用したことがないが、この名言はよく使っている。

主に言い訳に、ではあるが、新しい事に挑戦するときは、重要な考えだと思う。


課題はあるが、とりあえず筆はできた。

猪の毛を選別し、束ねて、根本を膠で固めて、竹に固定しただけのものだ。


毛先は整っていないし、硬いし、使いにくくはあるのだが、これは間違いなく筆だ。

今後、他の動物の毛が入手できたら、改良していこう。



墨と筆ができたので、試しに使ってみる。


まずは、墨を磨る。

すずりは作っていないので、代わりに土器の欠片をって墨を摺った。


硯は本来、天然の石を削って作るが、硯に適した石は限られた地域からしか採れないので、自作は断念している。

今日のところは土器のかけらで勘弁してもらいたい。


土器の欠片に水を入れ、ガリガリと墨を磨っていると、水がだんだんと黒くなっていった。


墨に違いない。

ちょっと色が薄いし、黒い粒が浮いているように見えるが、まぁいいだろう。

試しに筆を使って木の板に文字を書いてみる。


最初はカタカナの「イ」を書いてみた。

日本初のテレビ受像機実験に倣っている。


書けた。

したがって、この液体はまぎれもなく墨、俺が手に持っているのは筆で、墨を磨った土器のかけらは硯であることが証明された。


これで、知識を記録として残す手段が確立した。


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