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79.クラスメイト達の戦争③ 第3陣 ワルムズ南部 

8月10日に第1巻発売! 感謝の毎日連載中!(8/3-8/17)

79.クラスメイト達の戦争③ 第3陣 ワルムズ南部 





「ふっはっはー! ちっくしょー、なんで死なないんだよ、ってなあ‼」


 目黒大地は笑いをたたえながらも絶叫した。


「ふっはっはっはっは! 斬っても切っても再生するとは、摩訶不思議であるな! ワルムズの‼」


「だなあ、へへ、だがオルグスてめえ、笑ってる場合か! 一旦撤退だ! 小隊は足止めの小魔法連続斉射はじめろ!」


「むむ、敵に後ろを見せるのは騎士の矜持にかかわって……」


「いいんだよ! これは戦略的撤退だ! 逃げてんじゃねえんだからな!」


「ほほう! 戦略とは格好がいいな! よし、その作戦にのったぞ‼」


「フェルディナンド共和国は変わった奴ばっかでいいな、おい!」


「わっはっはっは! 褒めるな褒めるな!」


 メグロとオルグスと呼ばれた男は同時に後ろに跳ぶ。


 そこに一瞬遅れて蛇の尾が横切った。そこにあった大岩が砕け散る。


 追って来ようとする8つの首を持つ大蛇。


 蛇とは無論、ただの蛇ではない。


 ああ、これがヤマタノオロチという奴か、とメグロなどは妙に納得した。


 この世界ではヒュドラとも言うらしい。


 10階建てのビル程の大きさはあるヨルムンガンド(巨大蛇)だ。


 が、メグロがオロチオロチと連呼している間に、通称オロチになった。


 普通のヒュドラとは違うらしいので、ちょうどよかったという事情らしい。


 それにしても、なるほど、神話の再現とはこのことかとメグロは納得していた。


 今のところ首を5,6回断ち切ったが瞬時に再生している。


 理科で習った質量保存の法則とは何だったのか。


 いや、魔法などがある時点でそんな地球の物理法則に期待するだけ無駄だったか。


 自分は馬鹿なのでよく分からないが、目の前の存在がでたらめ(不死)であることだけは直感的に理解していた。


「不死の敵か、やっかいだぜ」


「首を落としてもダメ、胴体を切断してもダメときているからな。他の不死とは名ばかりの死にぞこない《まがいもの》とは違うのは明白。で、メグロ殿、何か妙案はないのか?」


「それを学生の俺に聞くかね」


「異世界の勇者なのだろう?」


「その呼称だけはやめてくれ、ほんと」


 メグロがげんなりとした表情になる。


「せめて竜殺しがいればな……」


「ふうむ、なるほど。だが、さすがにそんな都合の良い存在はいまい? ほとんど伝説上の存在スキルではないか」


「ああ、いや、実はいるんだが……」


「なんと! ではそのものを早く連れてこなくては!」


 オルグスが嬉々として言った。が、メグロは首を横に振り、


「あ、いやあ。だが、とても戦えるような手合いじゃねえんだ。ちっこい女でな。ミナミって言うんだが、あり一匹殺すのだって苦労する女だ。竜殺しのスキルをもらって一番驚いてたのは本人だったしなあ」


「むう、そうなのか。だが、それでは打開策がないな! 我々の共同戦線で何とか時間を稼いで入るが、崩壊すれば修復することは不可能! 瓦解した河川のごとく、ワルムズに大軍が押し寄せるぞ!」


「分かってる! けど、くっそう、何か言い手はねえのかよ!」


 メグロが叫んだ。


 と、そんなやりとりをしていると連絡兵が二人の元へ駆け寄って来る。


 どうやら王城からの指示らしい。


「なんだ、このくっそ大変な時に!」


「マサツグ王からの御伝言です!」


「んだとう⁉」


 玉座にふんぞり返ってるやつが何の用なんだ?


「ミナミのドラゴンキラーのスキルを用いてさっさとその蛇を駆除せよ、とのことです。前線が押されており、ご心配になられたようです」


「ったく、これだから前線にいねえやつはだめだ! ミナミがドランゴン殺しのスキルをもっていたって、あいつが切った張ったしてどうするよ! アリも殺せない攻撃力の女が、スキルの加護があろうとなかろうと、ドラゴンを殺れるかってんだ!」


 メグロは叫んだ。


 すると兵士は頷きながら、ニヤリとして、


「と、脳筋のメグロは言うだろう。その時は鼻で笑ってやるがいい」


「ああ⁉」


「あ、い、いえ、そのまま王の言葉をお伝えしているだけなのですが」


「どうでもいい。頭が固くて悪かったな!」


 だが、重要なのは続きだ。


「頭の柔らかい我が王が何を続きに言ったのかさっさと聞かせろ!」


「はっ! マサツグ王はおっしゃいました。何も自分の筋力だけで戦うのが人間ではないだろう、と」


「そういうことか!」


 なるほど、と手を打った。


「オルグス! 理解(わか)ったか⁉」


「ん? あ、ああ。とにかく全力で殴れという事だな!」


「おれ以上の脳筋だな! あんたは! 筋力から離れろ‼」


「わっはっは、褒めるな褒めるな! 国の肉壁になるしか脳のない男だ!」


 それはそれで立派だが、


「今は後だ! 魔封弾はあるか!」


 魔法を封じ込めた特殊な宝石のことである。着弾とともに封じられた魔法が稼働する。


「おう、あるが……? だが、あんなものではドラゴンの固い鱗には傷一つつけられんぞ?」


「俺たちが使う場合はな! 用意しておいてくれ!」


 メグロはそう言って後衛で医療支援の手伝いをしていると少女を呼びに行った。




「いやあ、身体ここに極まれり、だねぃ」


 屈強な男たちに守られて魔獣の暴れる前線へと連れ出されてきたのは華奢な少女であった。身長も150センチもなかろうかというちっこさで、一部の男子たちに苛烈な情熱を向けられている少女だ。


 ゆえに、今の状況だけを見れば、蛇の王、ヤマタノオロチへの貢ぎ物にしか見えない。


 いわゆる人身御供で、それこそ神話の再現と言った風情だ。


 が、目的はその逆。


 いや、逆どころか一度世界がひっくり返ってしまって左右が反転してしまったような驚くべきものだ。


 何せ、この屈強な男たちは少女を守るための備品であり、この少女、ミナミこそがこのワルムズ王国とフェルディナンド共和国連合戦線が振るう剣なのである。


「まあさぁ、マサツグちゃん王がそう言うならアタシも人肌脱ぐってもんだけどねい。いや、もちろん本当に脱ぐわけじゃねえぜ、ベイビ。あたしの肌は高い高い。この前勝手に撮られた写真がネットで高額売買されてたし」


「あとで俺が殴っておいてやろう」


「あ、それはボクの親衛隊が再起不能に追い込んでくれたみたいだからノープロブレム。実際プロブレムは目の前の蛇ちゃんだよねえ。まさか可愛いボクが生贄にされる日が来るなんて。ああ、お父ちゃんお母ちゃん、先立つ不孝を笑って許して頂戴よ、よよよ」


 ヨヨヨと泣き崩れるミナミの口元がにやりと歪んでいるのを見て取って、メグロは色々と無視して口を開く。


「お前を生贄にして済むんなら考えるんだがな。残念ながらお前のちびっこい体じゃあ蛇も満足しねえだろうさ」


 ミナミはむむっと唇をとがらせる。


「でもさ、本当にボクがそのアイテムを使って攻撃したらドラゴンを倒せちゃうわけ? そりゃ、スキルはドラゴン殺しを持ってるけどさ、これってボクの攻撃を何十倍にもする力だよ。ただ、それだけ(・・・・・・・)。ボクの力がもともと小さいんだから、その力を何倍にされようが、0は0なんだよねい」


「だからこそ、だろうが?」


「まあね」


 メグロはすぐに切り返す。すると、ミナミも、瞬時に応じた。


「何による攻撃かは問われないからね。なら、固定ダメージを与えられるアイテムなら、私の力に依存せずに済む、やれやれ」


 ミナミは肩をすくめた。


「|せっかく言わない様にしてたのに《・・・・・・・・・・・・・・・》、マサツグにはお見通しだったか」


 少女は声のトーンを落としながら言った。


 自分はか弱い存在だ。


 だから賢く生きることが必要である。環境に適応することも肝心だ。


 周りが勇者のまねごとをしたいのならばそれに付き合おう。


 でも、何も自分が勇者になる必要はない。


 例えば、そう、白衣の天使的なポジションでも構わないだろう。


 要するに役割を持てればいいのだ。


 出来ればちょっと感謝されて、誰にも恨みを買わないようなポジションが最適。


 そう思って、うまく毎日を過ごして来たと言うのに。


「帰ったらボーナスもらわなくちゃ」


「ああ、存分にねだるんだな。ま、そのためには生きて帰らなくちゃ、だ」


「分かっているともさ」


 そうして二人は魔封弾が山盛り準備された場所へとやってくる。


 目と鼻の先には蛇が暴れている。


 自分たちなどすぐに潰してしまうような巨大な蛇だ。


 ビルほどの大きさだ。


 その暴威から守るために、共同戦線という肉の壁が少女のためにずらりと壁を築いていた。


「投げるくらいはできるか?」


「出来ない設定なんだけどね。今日ばかりは仕方ないかなっと」


「安心しろ。俺は細かいことは分からん。お前がどれだけ面倒な考えを持って生きてるのかも。だから、誰に言いふらすつもりもない」


「なら、安心だねい」


 少女はそう言ってむんずと間封弾を手に取る。


 形は卵型のボールに近い。


 魔力を封じ込めるための、ある種のモンスターから採取した皮につつまれている。ずっしりと重いが、


「いっくぞおおおおおおおおおおおお!」


 少女はひるむことなくためらうことなく、大きく振りかぶって10メートル先にいる巨大蛇に向かって火炎の間封弾を放り投げた。


 普通であれば多少の火炎が巻き起こる程度だ。


 が、それは今や普通の兵器ではなかった。


ドラゴンキラーが使用することによって、あたかも神話に残された神造兵器が再来したかのような効果を発揮したのである。


 すなわち、


 ゴゴゴゴゴオゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオンンンンンンンんん………。


 火炎渦が天に到達するかのように伸び、天空の雲とを突き抜けて大気圏外にまでその炎の舌を伸ばした。


「グッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア⁉」


 オロチが初めて悲鳴を上げる。


 それもそのはずだろう。


 魔獣は初めて痛み、という感情を無理やり知らされたのだ。


 今までは首を落とされた程度だった。


 それすら再生の約束された傷。


 いや、それは時間逆行によりなかったことになる。


 不死そのものではない。不死を再現する。それが自身の能力であり、神にしか倒せない能力だった。


 そのはずであったのに。


「ようし、二発目いっくよー♪」


 見えない、いや、よく見れば、いる。小粒程の惰弱な生き物だ。人間と言う餌でしかない脆弱な生物。


 それが自分に小さな物体を投げつけようとしていた。


「グアアアアアアアアアアアアアアア」


 蛇は咆哮して、それをやめさせようとする。


 その物体は小さな球体でしかない。それから発せられる魔力も大きなものではない。取るに足らないものにすぎない。


 が、そうではないことが、モンスターには痛いほどわかった。


 なぜなら、この肌がそれを嫌と言う程伝えてくる。


 再生するはずの鱗はほとんど剥がれ落ち、瞬時に生え変わるはずの首は消し炭になって全く戻ろうとしない。


 全身が激痛を伝えてきて、それと同時に脅威を伝達してくる。


 あれは自分の死そのものだ。


 不死の再現を妨げるものだと。


「グガ、ア、ヤ、ヤベロ……」


 オロチが何かを叫ぼうとする。


 が、蛇の耳には軽い調子で、


「だぁめ♪ 汚物は消毒って決まってるんだしい♪」


 と、言う言葉が聞こえたのである。


 それがオロチがこの世界で最後に聞いた言葉であった。


 次の瞬間、先ほどよりも更に大きな力が自分の核となる部分を突き破った。







「第3陣が敵将オロチを打ち破ったようです!」


 連絡兵が大声で報告する。


「すごい、まさか不死の相手をあれほど見事に倒すなんて……マサツグ王の御指示のおかげですね!」


 兵士が続けて行った。


 俺は玉座に座りつつ、苦笑しながら、


「あんなものは不死ではない。恐らく不死っぽいふりをしていただけだ」


「不死ではない、ですか?」


 ああ、と俺は頷き、


「恐らく、傷ついた後に時間を逆行させてなかったことにしているか何かだろう。そんなものは不死ではない。なぜなら、死んでいないのだから。いわば、死から逃げているだけだ。強くもなんともない」


「は、はあ……」


 兵士はよくわからないといった風に首を傾げた。


 まあ、こいつらには難しいだろう。俺も何となく理解できるだけで、何か説明をしろと言われても困る。


と、マサツグ派である辺境伯メジャが口を開き、


「それにしても第1陣から3陣まで、すべて敵を封じ込めています! いいえ、むしろ圧倒すらしている。この戦い、我らワルムズ王国の勝利は近いですぞ!」


 そう歓喜して言った。


 が、俺はそれに首を横に振る。


「えっ、ですが、王よ、これほどまでに敵を圧倒しているといいますのに……」


「見える者だけを見ているのか、お前は?」


「は?」


 辺境伯がいぶかしむ。


 そして、ハッとした表情を浮かべ、


「他にもまだ敵が⁉」


「無論だ」


 俺は淡々と頷きながら、


「なぜならば、|大地を埋め尽くす死者の軍勢とはすべて敵の囮なのだから《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》」


 辺境伯が目を剥いたのが分かった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] たった一話の中で、竜殺し、ドラゴンキラー、ドラゴン殺しと確かにどれも同じスキルなんだが、スキル名がコロコロ変わってウザい。 わざとやってるんだろうけど、何を狙ってやってるのかが理解でき…
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