77.クラスメイト達の戦争① 第1陣 ワルムズ王国北 ガイアス砦屋上
8月10日に第1巻発売! 感謝の毎日連載中!(8/3-8/17)
77.クラスメイト達の戦争① 第1陣 ワルムズ王国北 ガイアス砦屋上
「なんだと⁉ ミヤモトがいないだと‼」
俺の怒声が第2玉座の間に響いた。
兵士が肩をびくつかせる。
俺は大きく息を吸って落ち着くことにした。
「すまなかった。で、いつから奴は消えたんだ?」
「と、とんでもございません。ただ、ミヤモト卿の姿をメイドの者が夕方頃に裏庭あたりで見かけたそうですが、その後の足取りは分かりません」
「そうか……」
「戦争を目前にして逃げ出されてしまったのでしょうか……」
兵士の言葉に俺は首を横に振る。
いや、それはない。
あいつは前線に出ていたがっていた。
それを奴の適正から後衛に置き、回復役の任務を与えたのは俺だ。
猪武者のように言う事を聞かずに前線に行ったのならばともかく、戦争自体から逃げ出すことはありえない。
ならば、考えられることは一つだ。
「潜入して来たモンスターはバロン・ゴーレムだけではなかったようだな」
「なっ⁉ だとすれば、すでにミヤモト卿は……」
「無事ではないだろう」
「す、すぐに捜索を……ッ」
「いや」
俺は首を振り、
「そんな時間はない。分かっているだろう? もう戦争が始まる。たかだか一兵士に関わっていることは出来ない」
「で、ですがミヤモト卿には全軍の継戦能力を聖剣ナイチンゲールの加護によって高められるという重要な作戦があったはずですが……」
なるほど、頭の良い兵士のようだ。
が、俺はリスクを常に分散させる男である。
「聖剣使いのスキル持ちはもう誰もいないのか?」
「は、はい。そのはずです。何せ何百年も現れなかった伝説級のスキルですので。かのミヤモト卿以外に聖剣を使用することのできるかたは……」
と、兵士が俺を見て、「あっ」と間抜けな声を上げた。
「分かったか?」
「ま、まさか……」
まさかも何も、
「俺以外にはいないだろうな」
「やはり! で、ですが、全体の戦争の指揮もとられるはず。聖剣の能力を発動しながら戦争指導など本当に可能なのですか⁉」
「俺がしなければ国が亡ぶと言うだけだ。俺としては孤児院が亡ぶ、というほうが正しいがな……」
「なるほど、ではやはりミヤモト卿がいらっしゃったほうが良かった。王おひとりに負担をおかけするのですから。戦争の指揮に聖剣……。大変な労力です」
「いや、そうではない。勘違いするな」
「は? 」
兵士が間抜けな声を上げた。
「別に聖剣の力を解放することと、戦争指揮を同時にすること自体は大した問題ではない。だが、俺の手はあけておいた方が良い《・・・・・・・・・・》と考えていただけだ」
「は? し、しかし、王自らが戦われることはありませんし、一体何のために……?」
その問いに、俺はあいまいに微笑むにとどめる。
やれやれ、何のために彼女たちが徹夜まがいの作業をしていると思っているのだか。
と、そんなやりとりをしている内に伝令兵が飛び込んで来た。
「第1陣、接敵しました! 戦闘開始です!」
「問答はここまでだ。今からは口ではなく頭脳と、そして俺たちの勇気が試される」
「は、はは!」
「投影準備は出来ているな?」
「はい、遠見士の伝達情報を投影し、壁面に映し出せます!」
「よし。連絡体制も万全だな?」
「それも遠声士を置いています。王の言葉はそのまま向こうに伝わります」
「分かった」
兵士たちが走り回り、すぐに壁面に大画面が映し出された。
古代のプロジェクターといったところか。
第1陣はワルムズの北面、ガイアス砦に集結している。
壁面に映し出された光景は圧巻であった。
なぜなら、死者の軍勢、スケルトン、ゾンビ、リザードマン、ゴブリンといったあらゆるモンスターが大地を埋め尽くし、ガイアス砦の目前に迫りつつあるのだ。
第1陣に配置されたクラスメイト達の緊張が伝わってくるような気がした。
「す、すごい、あれが死者の軍勢」
「あ、あれほどの敵を相手にするってのか……」
「何十万といるんだろ? い、いくらマサツグ王の力で我々の力が1000倍になっているとしても、本当に勝てるのか?」
そんな声が聞こえてくる。
やれやれ、正直な感想をありがとうと言ったところか。
だが、俺はそんな言葉を鼻で笑いながら、
「お前たちの目は節穴か。よく見てみろ」
そういって画面にむかって顎をしゃくったのである。
第1陣 ワルムズ北面 ガイアス砦屋上
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンン……。
目の前の大地を埋め尽くすは100万とはいわずとも数十万におよぶモンスターたちの群れ。
死をばらまきながら行軍する破滅の軍隊である。
ワルムズに向かって進軍するその軍隊は、まさしくワルムズ王国を人々を絶望に陥れるに十分であった。
スケルトン、ゾンビ、ゴブリン、リザードマン、バジリスク。
いずれも腐敗し、生の循環から漏れた規格外たち。
どう考えても人間と言う軟弱な生き物が退けられるとは思えない鬼気、そして数。
何せ地を覆いつくしている。
数こそが力。
力は数。
そんなことは異世界によばれて兵士たちと稽古をした初日に理解した。
ゆえに、この戦いは勝負にならない、と。
そう理解していた。
何せ100万対1万。
100倍の兵力は覆せない。
何より、相手の方が強いのだ。
本来の差はもっとあっただろう。
だから、クラスメイトの中にはいつ逃げ出そうか、と算段する輩も多数いたぐらいなのだ。
ゆえに、ああ、目の前の光景を一体だれが予想できたろう。
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンン。
またも衝撃音が大岩で作られた砦をブルブルと震わせた。
そして、その音とともに討ちあがるのは土、岩、砂、そしてモンスターの片腕、首、目玉、半身、ちぢれた肉、そういったものたちだ。
グロテスクなことこの上ないが、そんなものは戦いが始まった当初に慣れてしまった。
恐怖をごまかすためにも大きな打ち上げ花火は都合がよい。
そう、そうなのだ。
第1陣に配置されたクラスメイトは10名。
そのうちの9名は支援魔法しか使えないもやしのごとき男子たち。
そうして残りの一人は紅一点。
だが、不器用にも1種類の魔法しか使えないと言う落ちこぼれ魔術師だ。
しかも一発。
一発しか使えない極大魔法使い。花坂幸恵である。
使いどころが難しく、使った後はMP不足で倒れてしまうという、あまりにもお荷物なスキルに、周りから苦笑いをされていた女子だ。
だが、今は?
「すんごいわね~これ。何発でもいけちゃうわね~。うっひょう、爽快!」
カツラギのスキル「|穏やかななる天空からの風」によって無限に供給されるMPにより、ハナサカは大魔法を連続で眼下のモンスターたちにぶっ放しまくっていた。
「だー⁉ ハナサカ、いい加減にあんまり連続で打つんじゃねえよ!」
「こっちの支援魔法が間に合わないだろうが!」
周囲の男子たちから文句が飛んだ。
9人の男子たちは支援魔法の専門家たちだ。
攻撃支援、特殊ダメージの付与、クールタイムの短縮など、彼女が連続で極大魔法を打つための支援に徹している。
それこそモンスターたちは蜘蛛の子を散らすかのごとく、だ。
数十万いたモンスターたちのうち、既に1万匹が黒焦げになり、その10倍ほどのモンスターたちが何かしらの負傷を負っている。
それはそうだろう。
何せ神代の一撃ともいえる魔法が、いくらでも振って来るのだ。
そう、今この時ですら、
「クールタイム終了。魔力相乗付与スキル、回せ」
「もう完了している。それよりも効果範囲拡張スキルをさっさとかけろ」
「もう終わっています」
「全部終わってるぞ! ことルーチンいかけては最強だな俺ら!」
「それは威張ることなのかしらねえ。全部マサツグっちのおかげじゃない?」
「王様と言え王様と」
ニヤニヤとした表情で眼鏡の位置を直すと、ハナサカは呪文の詠唱を始める。
「面白味のない世界を根底より覆すマエステリアス! 曲芸のごとき人生は流転によりていと豊穣になりにけり! 看破せよ生誕の神! 失敗した世界を一度浄化し、新たな世界を始める時ぞ! メギドフレイム!」
「すげえ、呪文だな……」
「オリジナルらしいぞ? 自分の思い描く光景を言葉にしたほうが魔力が乗るんだそうだ」
「へえ……」
「よっぽど悪役のように思えるが……」
男子たちがドン引きしながらハナサカが再び極大魔法を放つのを見守った。
こうして更に数千のモンスターたちが吹き飛び、地形が変わったのである。
なお、露払いが済んだ後、兵士たちが出撃した。
それはあたかも掃討戦のごとき戦いであったらしい。