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114.ルッツベーリン公爵領

114.ルッツベーリン公爵領





ワルムズ王との戦いから一夜明け、翌朝になった。


「≪悪意によって増殖する因子≫か。そんなものが存在するとはな・・・」


俺は元王によってもたらされた情報に難しい顔をした。


「悪意というのは誰にでもある。だが、今回のそれは、強い悪意を持つ人間にとりつき、化け物に変えてしまう代物らしい」


「なんでそんなものが突然現れたのでしょうか?」


「いや、突然ではない。あのミヤモトという男を覚えているか?」


「確かご主人様に嫉妬して滅ぼされたあのミヤモトですか?」


リュシアが首を傾げた。


「そうだ、そのミヤモトだ。哀れな奴だったが同情の余地もある。それは俺がアイツの同級生だったという点だ」


なるほど、とリュシアは頷いた。


ラーラ、クラリッサ、ミラも続く。


「確かにマサツグ殿が目の前にいれば、嫉妬せずにはおられぬ者が出てくるのも道理であろうな」


「でもマサツグは特別だから、嫉妬自体が無意味なこと」


「それでも、人々の目は自然と主様に集まってしまいます。ゆえに、道理をわきまえない者は、常に主様の偉業にコンプレックスを抱き続けざるをえません」


そうだな、と俺も同意した。


「俺は月のようなものなんだろう。夜空を見上げて手を伸ばすがけして届かない。だが、人々は俺に憧れ見あげようとする。だが、人によってはその月に手が届くと誤解する者もいるだろう」


「それは天上に輝き、人々を照らす救世主様の宿命なのかもしれませんね」


シルビィが悲しそうに言った。


それは、俺が目立たず穏やかに暮らしたいという思いの実現がどれほど難しいかを暗に悟り、共に悲しんでくれているのだろう。


「だが、大丈夫だ」


「ナオミ様?」


俺はシルビィに言う。


「俺は一人じゃない。お前たちがいる。それが、たった一人で孤独に変貌を遂げ化け物になりはてた愚かなミヤモトやワルムズ王との違いだ」


「ご主人様。ええ、ええ、その通りですとも!」


リュシアが微笑む。


そう、結局はそういうことだ。彼らには結局、俺とは違って、追い詰められた時に助けてくれる仲間も、人望もカリスマもなかった。


逆に俺は全てを自然と手にしていた。それが結局は、俺が王として君臨し尊敬を集めているのに対して、彼らが没落し、人々から追われ、滅ぼされるべき存在となったということにつながっているのだ。


才能ももちろんだが、それを生かすために広い視野や謙虚さ。学び続ける意欲といった向上心を持っていたこと。俺のようにそれが出来ていれば彼らも・・・。そんな風に彼らを憐れまずにはいられない。


さて、そうしたことはともかく、俺は≪悪意の因子≫について更に考えを巡らせる。


「この先、その≪悪意によって増殖する因子≫によって、強大な敵が立ちふさがるかもしれない。ワルムズ王のような雑魚ばかりだと油断しない方がいいだろう」


「はい、気をつけましょう。」


「では出発しよう。次の行先は≪ルッツベーリン公爵領≫だ。俺の聞いた話では現在あの国は大聖女の後継者争いでもめているとのことだが」


「こんな時分に呑気過ぎませんか?」


エリンがそう言うが、


「こんな時だからこそ、かもしれんな」


「?」


分からなかったようだが、俺にも確信があるわけではない。ともかく行けば分かるだろう。


俺たちはそんな会話をしながら、ルッツベーリン公爵領へ向かったのだった。そこで何日か滞在し、準備を改めて整え、出発する予定である。






「ここがルッツベーリン公爵領か」


「大きな街ですねえ」


リュシアが言った。


「そうだな。ワルムズでも指折りの商業都市だり、また宗教行事も盛んな街だ」


「ナオミ様、皆さま、とりあえず宿屋をとっておりますので、そちらで荷物をおろしましょう」


シルビィの言葉に俺たちは早速移動を開始する。


そして、宿屋へとチェックインした。ここで食料など切れかけていた物資を調達し、数日したら出発する予定である。


と、その時である。



コンコンと扉がノックされた。


「おかしいですね。一体誰でしょうか、マサツグ様?」


エリンが訝しむのも無理はなかった。

 

俺は王として親征をしてきている身だが、目立つことは好まない。だから、誰にもここに立ち寄ることは秘密にしていたのである。


だとすれば・・・。


「主様への刺客か?」


ミラが剣を抜こうとするが、


「まあ待てお前たち。着いて早々に宿屋へ奇襲をかけるような動機を持った敵はいないさ。寝込みを襲うならともかく」


「た、確かに。さすが主様です。ご慧眼感服しました」


「いや、警戒するにこしたことはない。ただ、この宿屋に入ってきたときから、足音を消そうともしていない。そんな奴が刺客とは思えなくてな」


「! なんとそこまで感知範囲を広げられていらっしゃったのですね、主様は!?」


「複数の情報から状況を瞬時に判断する。それが出来ればミラもまた一歩、成長できるだろう」


「あ、ありがとうございます。今後とも精進します! ですが、このような場所で主様に修行をつけてもらえるとは、このミラ、思いがけない僥倖に感無量です!」


「いいなぁ、ミラ。私もマサツグに色々薫陶されたりしたい・・・」


ドワーフ娘のクラリッサが羨ましそうに、ミラを見ながら言った。


「ふ、クラリッサは勉強熱心だなぁ」


「えっと、むしろマサツグに色々教えて欲しいだけ・・・手取り足取り」


「?」


どういう意味合いなのか測りかねたが、とにかく勉強熱心なのは良い事である。


撫でてやるとクラリッサは本当にうれしそうに、顔を赤らめて微笑んだ。周りからずるい! とか言う声が上がるが、その理由はよく分からない。


また俺が無意識で何かやってしまったのかもしれないが・・・。


まあ、そんなことよりも、だ。


「ようこそお越しくださいました、マサツグ王よ。ご健勝のことと伺い、これ以上幸せはございませぬ!」


扉を開けて、いきなり平伏した様子で頭を下げて来たのは、ルッツベーリン公爵その人であった。


「やはり公爵自らだったか。自分から、こんな場所までやって来るとは・・・しかもお供も一人切りで」


公爵の後ろには女の剣士が一人立っていた。どこか和風を思わせる服装だった。


「何をおっしゃいますか! まずはお礼を言わねば私の気がすみませんでしたからな!」


「お礼?」


俺は公爵の言葉の意味がよく分からず首を傾げる。


だが、公爵は改めて最敬礼といった様子で、俺に向かって何度も頭を深々と下げ、


「この国を、そしてこの公爵領を魔物どもの大軍より守ってくださり。ありがとうございました。公爵として民を代表し・・・、いいえ、この世界の人間を代表してお礼申し上げます。この世界が今もあるのは、神聖マサツグ王のおかげでございます!」


そう言って、俺の方に向けて暑苦しいほどの感謝と尊敬の念を向けてくるのだった。


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