115.大聖女と選聖の儀
115.大聖女と選聖の儀
「この国を、そしてこの公爵領を魔物どもの大軍より守ってくださり。ありがとうございました。公爵として民を代表し・・・、いいえ、この世界の人間を代表してお礼申し上げます。この世界が今もあるのは、神聖マサツグ王のおかげでございます!」
そう言って、俺の方に向けて暑苦しいほどの感謝と尊敬の念を向けてくる。
とはいえ、俺は結構シャイなので、世界を救ったことがいかに事実であろうとも、直接これほど単刀直入に感謝を伝えられると若干照れくさく感じるのだった。
「やめんか。まったく、お前は大仰に過ぎる。たかだか世界を救ったくらいで・・・」
「それが大したことなのです! こうしてしっかりとお礼を申し上げる機会もなく、私は公爵領に帰らねばなりませんでしたからな! ゆえに、マサツグ王の動向を偶然知ったため、すぐにはせ参じた次第です!」
やはり暑苦しかった。
俺は困り果てて少女たちの方に「助けてくれ」という視線を送ってみるが、
「ご主人様が世界を救ったのは本当のことですからねえ・・・」
「そうだよね。だから尊敬されるのを止めるのは難しいと思うのです・・・」
「精霊界でもマサツグさんの話題で持ち切りなくらいだからねえ」
「救世主様の偉業に頭が自然と下がるのでしょう」
「有名税というものかのう。世界を救ったのじゃからなあ。マサツグ殿にとっては普通でも、一般人にとっては奇跡に等しい」
「マサツグ、諦めが肝心」
「主様にお礼を言いたい人間で大陸中があふれてしまうのも時間の問題ですね」
誰も俺を助けようとはしてくれないのであった。まさかこんな形で裏切られてしまうとは。
気が付けば周りの人間たちの「ははははは」という笑い声が部屋には満ちていた。
やれやれ、こっちの苦労もしらないで。
俺は諦めて公爵の感謝と尊敬の念を受け取ることとした。
ただ、世界を救うことよりも、こういうことの方が照れてしまって、俺は苦手である。
神に近しい人間とはいえ、どうしても殊勝な精神までは変わらないみたいだからなぁ、俺は。
「だが、公爵よ。お礼だけを言いに来たのではないのだろう? 何か用事があったのではないか?」
「⁉ さすがマサツグ王です。そのご慧眼、感服致しました」
「それはもういい。そして、これは命令だ。いちいち感嘆したり、尊敬するのは禁止とする。俺に対しては普通に接することを許そう」
「そ、そんな! 普通など出来ようがありません! マサツグ王にそのような・・・。それに、それはむごい指示です。まるで呼吸をするなと言われているに等しい。で、ですが、マサツグ王がそこまでおっしゃられるならば、このルッツベーリン、魂にその勅を刻みましたぞ!」
やれやれ。普通にしてもらうだけで、この苦労である。特別などと言うのは本当にいいことがない。
「さ、それで用事とは何か?」
「はっ。聡明なるマサツグ王は既にご存知の通り、我が公爵領では3聖女から一人、大聖女を選ぶ、≪選聖の儀≫たる儀式を明日、執り行います」
「知っている。このような時期だ。不安がる民の精神的な支柱が必要だろう。空席だった大聖女を特に今選ぶ必要性も理解しているつもりだ」
「⁉ ありがとうございます。民の様子も全てお見通しのご様子!」
俺の返答に、公爵は更に瞳へ尊敬の念を浮かべるが、俺の指示によって言葉にすることは控えた。
「で、それがどうした?」
「はい、それでその≪選聖の儀≫でございますが、『選聖の神殿』にて執り行います。中に聖女3名が入り、最も早く出て来た者がその勝者となる、ということになります」
「ふむ」
「請願致しますのは、勝負は明日中に決まると思いますゆえ、その場にぜひマサツグ王もお立合いいただけないでしょうか、ということなのです。神に等しいマサツグ王の立ち合いをしてもらった大聖女ともなれば、領民たちの安心もひとしおであると、この公爵、愚考した次第でございます」
「なるほどな。申し出のことは分かった」
ふーむ、と俺は少し考える。
公爵の気持ちがよく理解できたからだ。
「ご主人様に見届けてもらう事が、この地上で最も権威があることですからね」
「その通りです。マサツグ様の証明があれば、もはや他の検証は不要になります」
「世界そのものに評価されるってことだもんねー」
「救世主様に選ばれた聖女ともなれば、同じくこの世界を救う定めになるでしょう」
「マサツグ殿を求めるのは人も魔族も同じなのじゃなあ」
「マサツグに使ってもらえる武器や防具がいい武器や防具なのと同じこと」
「主様は武神のみならず、こうして癒しの神としても君臨されていらっしゃるのですね」
少女たちが口々に言う。
彼女たちの言う通り、俺が出向き、見届ける意義は極めて大きい。
大聖女を選ぶに際して、神かそれ以上の存在の俺が見届ける、ということは特別の意味を持つことは議論を待たない。
それは現在においても、そして、歴史上においても、だ。
「ただ、数日後には出発をせねばならん。そのために色々と物資を補給するつもりだったのだが・・・」
「それはもちろんです。大いなる運命に導かれ、急いでおられことも存じております。ですから、そういった手配はこちらでさせて頂き、空いた時間にて立ち合いをしていただければと考えているのです」
「そこまでちゃんと考えていたか」
「もちろんです。神の手を煩わすつもりは毛頭ございません。頂きたいのは福音でございますゆえ」
そう言って神にそうするがごとく頭を深く下げた。
やれやれ、と俺は嘆息する。
本当はゆっくりと旅支度を整えたいと考えていたのだが、俺は下々の者たちのためにその才覚を行使する最も上位に位置する公人だ。
(公爵が直々に出向き慈悲を請う。そしてそれが領民のためともなれば、足を運ぶことを厭うものではなかろう)
「進言を聞き入れよう。明日馬を寄越すといい。神殿に出向くことにする」
「! あ、ありがとうございます! 神聖マサツグ王! 万歳! 万歳!」
「だからうるさいと言うのに・・・・まったく」
こうして俺は、翌日、公爵の遣わせた馬を使って、『選聖の神殿』へと赴くことになったのであった。






